家というのは外壁や屋根を含めて全ての箇所が同時に劣化するわけではありません。少しずつ劣化していき、劣化具合がある一定基準を超えたときに、ひび割れや剥がれなどになって現れます。
補修箇所が出てきたときにすぐに補修していたり、大きくなる前に対処していれば、大規模な補修までの時間をのばして、家の寿命を長くすることも可能です。
外壁塗装における部分補修というのはどのようなものがあるでしょうか。様々な補修下地と合わせて確認しておきましょう。
目次
ひび割れ部分補修工事
最も多い外壁塗装の部分補修工事はひび割れの補修です。外壁塗装と切っても切れない関係であるひび割れはある程度の年数が経った住宅であればほとんどの場合に発生しています。場所もコンクリート部分、モルタル部分、サイディング部分、屋根部分など家中のいろいろな所に起こりえるものです。ひび割れは別名クラックともいい、髪の毛のような小さい細いクラックの事をヘアークラックと言います。
外壁の防水性能に影響を及ぼさないほどの小さなものから、早急に補修を行わないと、家に重大なダメージを与えてしまうものまで様々なものまであります。例えばモルタル壁だと、一番表面が塗膜(塗装の膜)で、その内側にモルタル、金網、防水シート、下地の板などが続いています。わずかなクラックなどはこの塗膜だけのひび割れで防水性能に影響をあまり及ぼしません。しかし、モルタルや防水シートまでひび割れてしまっている場合は、中に水が浸入してしまう可能性があるのです。
このひび割れを補修する方法としては、ダイレクトシール工法、低圧樹脂注入工法、U字カットシール工法などがあります。クラックスケールというひび割れをはかる専用の物差しで、ひび割れの大きさをはかり、それにによって工法を選びます。
エポキシ樹脂とは
クラック補修によく使われるのが、弾性シーリング材の他にエポキシ樹脂というものがあります。エポキシ樹脂は接着力が非常に強く、いろいろなものとものをくっつける力を持っています。クラックの補修に使うものはしばらくすると固まって非常に頑丈な壁になってくれるので大きなクラックにも対応出来ます。エポキシ樹脂自体はテニスのラケットから、ジャンボジェット機まで様々なものに使われていて、信頼されている樹脂材料と言えます。
ひび割れ幅と工法の表
「この割れ幅ならこの工法」という明確な基準はありません。当サイトでは0.05mm未満は補修の必要無しとしていますが、0.3mm未満を補修の必要無しとしている業者さんも居ます。あくまでどのような工法があるのかという目安としてお考えください。
ひび割れ幅 (太さ) |
0.05mm未満 | 0.05mm~2.5mm未満 | 2.5mm~15mm未満 | 15mm~ |
工法 | 補修は必要なし | ダイレクトシール工法 | U字(V字)カットシール工法 | 自動式樹脂注入工法 |
0.05mm未満は補修不要?
0.05mm未満の幅のクラックに関しては、特に補修は不要とされています。家形作る木材などは気候や気温、湿度などに左右されながら少しずつ動くので、クラックが発生するのはある程度仕方がないこととされています。
しばらく様子を見ながら、太く、長くなるようであれば、補修を考えます。
ダイレクトシール充填工法
何も加工や下処理をせずにクラックに直接、弾性シーリング材や弾性エポキシ樹脂などを注入します。このときのシーリング材の層は薄く、そこまで強いものではないので、クラックをこれ以上広げないようにする為の工事と言うよりは、クラックを防いで次の本格補修までの防水補修のような簡易的な感覚の補修工事です
ダイレクトシール充填工法の工程
- エアダスターなどでクラック付近を掃除する
- エポキシ樹脂やシーリング材を注入する
- はみ出した樹脂などを拭き取る(必要に応じて溶剤を使う)
U字カットシール充填工法
少し大きめのクラックを補修するときに使用する工法です。ダイレクトシール工法よりも大きめのクラックに対応出来ます。クラックの上からシーリング材を充填するだけではクラックの奥まで行き渡らず、大きいクラックには対応出来ません。そこで電動カッターを使用して、一旦、クラックを大きくした上でシーリング材を注入することで、クラックの奥までシーリング材を行き渡らせ、分厚いシーリング層を作る事が出来ます。
U字というのは工具によって出来た溝をさしているのですが、電動サンダーや電動カッターの刃によって出来る溝の形が違います。V字のものもあるためV字カット工法と呼ばれる場合もあります。
U字カットシール工法の工程
- クラックにそって電動サンダー(電子カッター)でクラックに溝を作る
- ハケなどを使って丁寧に掃除する
- 溝の部分にプライマーを塗布する
- ノンブリードのシーリング材などを注入し溝を埋める
- ヘラでシーリング材を押し込むようにのばす(ならす)
- エポキシ樹脂モルタルなどを塗りきれいにする
自動式低圧樹脂注入工法
自動式低圧樹脂注入工法はかなり大がかりなクラック補修方法です。大きく長いクラックにも対応出来ます。エポキシ樹脂接着剤をクラックの奥の奥まで行き渡らせて、クラックの奥から固めてしまう工法です。自動式といっても機械を使用するわけではなく、ゴムの力で自動的にエポキシ樹脂接着剤が出てくるようになっている注入器をクラックの複数箇所に設置し、同時にエポキシ樹脂接着剤を注入していくというものです。使用するエポキシ樹脂接着剤はクラックの幅によって粘度が違うものを使用します。
自動式低圧樹脂注入工法の工程
- ワイヤーブラシとエアダスターなどでクラック周辺を掃除する
- クラック25cmごとに注入器(シリンダー)を取り付けられる注入口(座金という)を設置する
- クラック全体にシール材を塗布する(注入されるエポキシ樹脂が出てこないようにするため)
- 1日待ちシール材を乾燥させる(乾燥時間はシール材による)
- エポキシ樹脂接着剤の主材と硬化剤を分量を量りながら混合する
- 注入器をクラック上の注入口に設置し、全ての注入器で同時にエポキシ樹脂接着剤を注入する
- 1日待ちエポキシ樹脂接着剤を硬化させる(乾燥時間は接着剤による)
- ディスクサンダーなどでシール材を剥がす
コーキング材(シーリング材、充填剤)の部分補修工事
サイディングボードの目地や窓周り、サッシ周りに使われるコーキングも全体が一度に劣化すると言うよりは、7~13年ほどかけて部分的に劣化してきます。その時の 補修方法がいくつかあるので、確認しておきましょう。今現在あるコーキング材をしっかりと除去した上で新しいものを充填する打ち替え工法と、今あるコーキング材を除去せずにそのまま上からコーキング材を充填するのが打ち増し工法(増し打ち工法)といいます。
下の二つを見比べるとおわかりいただけるように、打ち替え工法の方が手間がかかります。それ故、打ち替えの方が価格が高めで、打ち替えたコーキングの寿命も長いと考えておきましょう。出来れば打ち替えの方が良いですが、予算と照らし合わせて考えたり、家全体を補修する大規模補修の日程に合わせて考えると良いでしょう。
打ち替え工法
- カッターやラジオペンチを使って既存のコーキングを剥がす
- ハケなどで目地部分を掃除する
- 目地の両端に養生テープを貼る
- プライマーを目地部に塗布する
- ボンドブレーカーやバックアップ材が古くなっていれば交換する
- コーキング材を充填する
- 専用ヘラを使って押し込みながらならす
- 養生テープを素早く撤去する
打ち増し工法(増し打ち工法)
- ハケなどで目地部分を掃除する
- プライマーを目地部に塗布する
- コーキング材を充填する
- 専用ヘラを使って押し込みながらならす
塗膜劣化補修工事
塗膜とは塗料の保護成分の膜のことです。塗料は水や溶剤を使って溶かして外壁に塗り、乾かして保護膜を形成します。その時の保護膜の事を塗膜と言います。
この塗膜は毎日紫外線にさらされ、雨風にもさらされているので、経年劣化とともにどんどん性能が落ちてきます。塗膜の保護機能が完全になくなってしまうと、今度は外壁材自体の劣化が始まってしまうので、塗膜のみの劣化状態で補修工事を行う事が望まれます。具体的な不具合が出ていないからといって、劣化した塗膜を放置してしまうとさらに高額な補修費用が発生する可能性があります(不具合を放っておくとどうなるかについてはこちらにまとめています)。
しかし、残念なことに塗膜は一部分だけ劣化してしまう、と言う事はあまりなく、壁全体が劣化していると考えた方が良いです。劣化していくとチョーキング現象、ひび割れ、雨漏りなど全ての不具合の原因にもなります(外壁劣化の目安に関してはこちらをごらんください)。
東西南北の壁で劣化具合が違う
外壁の塗膜劣化具合は、外壁の一面を見ただけでは判断が出来ません。東西南北で劣化具合がまるで違っている可能性があるからです。これは他の箇所にもいえる事です。
例えば、南側は日が良く当たり、乾きやすいのできれいに保たれていると思ってみてみると、北側は乾きづらくコケだらけになっていた、という場合があります。その逆で、北側は何も表面上出ていないような気がするのですが、南側は日が当たりすぎでチョーキング現象が起こっていた、という場合もあるのです。
南側だけ、あるいは北側だけ塗装を行うというのは足場代などがもったいないので全面塗装をすることにはなるのですが、塗装の目安を考えるときに一面だけ見るのではなく、家全体屋根も含めて全ての部分を確認するようにしましょう。
爆裂補修工事
爆裂という現象は、主にコンクリート壁でおきてしまう現象の一つで、まるで内側から爆発してしまったかのように壁の一部が崩落し、中のコンクリートを補強している鉄部がむき出しになってしまう現象のことです。防水の観点からも美観の観点からもすぐに直した方が良い症状と言えます。別名鉄筋爆裂とも言います。
爆裂現象の原因
まず初めになぜ爆裂現象が起きてしまうのかを確認しておきます。理由は端的に言うとコンクリートの中性化と内部の鉄部の膨張です。
そもそも、コンクリートというのは強いアルカリ性の状態で、堅さなどを保っています。ある時出来たクラックから二酸化炭素がコンクリート内に浸入します。強いアルカリ性のコンクリートは二酸化炭素と結合することで中性の炭酸カルシウムに変化してしまいます。
炭酸カルシウムと接触している部分の鉄部は、アルカリ性でこそ維持できていたのですが、中性になったことで錆び始めてしまいます。錆び始めた事で鉄部は膨張し、それがコンクリート部分を外へ外へと押しやります。中性化して弱くなってしまったコンクリートが限界に達してしまったときに、コンクリートが壁から離れて落ちてしまいます。コンクリートが剥がれ落ちるというのは非常に危なく、実際に人に当たった事故が何件も発生しています。
爆裂補修工事の工程
- ハンマーなどで弱っている部分を撤去
- ハケ、ワイヤーブラシなどでむき出しの部分を掃除する
- 工具などでサビ落としを行い、錆止め塗料を塗布
- プライマーを塗布
- エポキシ樹脂製モルタルで補修
- 必要に応じてフィラーや樹脂塗料を使って周りの外壁と同様に塗装する
屋根部分補修工事
屋根は外壁以上に強い紫外線や雨風を浴びています。外壁に関しては当たるとき、当たらないときが面によってはありますが、屋根は間違いなく紫外線も雨も全て当たります。それ故、外壁以上に注意を払う必要があります。普段あまり見る機会がないとは思いますが、定期的に見るようにしましょう。
陸屋根防水工事
屋根には三角屋根と陸屋根があります。主に雪が降らない地域で、人があるける屋上のようなものが陸屋根で、三角屋根はその名の通り、斜めになっていて人が歩くことが出来ない屋根です。三角屋根も防水はもちろんしますが、主に大事なのは水がいかにきちんと流れるかという部分が大事です。陸屋根の場合ももちろん排水が大事ですが、しっかりとした防水層を形成する必要があります。
防水工事にはいくつか種類があり、FRP防水、ウレタン塗膜防水、シート防水、アスファルト防水などが主流です。陸屋根の防水に関する詳しい解説はこちらをご覧ください。
三角屋根の補修について
三角屋根の補修についてもいくつか種類がありますが、ここでは部分的な補修に絞って解説いたします。三角屋根材全体の補修や、塗装に関してはこちらをご覧ください。
三角屋根は様々なパーツに分けることが可能です。部位名を上げると、棟(むね)、谷(たに)、軒、軒先、庇(ひさし。霧避けともいう)、隅棟(すみむね。下がり棟ともいう)、鼻隠し、破風板、軒天(軒裏)、水切り、下屋(げや)、唐草、笠木など様々です。こういう様々な家のパーツの事を付帯部と言います。付帯部の症状はだいたいどの部位でも同じで、クギ浮き(ビス浮き)、塗膜剥離、劣化などです。
外壁には出来ない方法として、三角屋根の場合、一枚の大きな板で形成されているのではなく、小さな板が重なり合って屋根になっているため、部分的に取り替えるということが可能です。スレート屋根、コンクリート屋根、セメント屋根、金属屋根のどれであっても基本的にそうなっています。部分修理はしやすいと思います。
しかし、屋根は高所に存在していますし、一階建ての家でも落下すると死亡事故に繋がっていまい兼ねません。屋根の補修に関しては、確認だけ行い、基本的には屋根修理業者などのプロにお願いするようにしましょう。
付帯部部分補修工事
上記には屋根の付帯部を書きましたが、屋根の付帯部以外にもたくさんの付帯部が存在します。バルコニー、ベランダ、シャッター、シャッターボックス、雨戸、戸袋、ガラリ、胴差し、雨樋、基礎、ドーマー、デッキ、ポーチ、アプローチ、出窓など挙げると切りがないです。
補修する際によく耳にする箇所は雨樋、軒天、雨戸、破風板などです。これらの部分は基本的に外壁塗装の際についでにする部分で有り、10年ほどのサイクルで行われる事が多いです。しかし、壊れたり、塗装が剥がれたりすると美観を損なうだけではなく、ここも家にダメージを与えがちなので、出来るだけ直すように心がけましょう。
木部部分補修工事
木部に関しては非常にデリケートで、写真のようにコケが生えたり、腐食してボロボロになったりします。それ故、木部に関しては徹底して塗料などで保護するべき箇所なのです。しかも、一度劣化してしまった木部は上から塗装をして改善するというわけではないので、部分的に切断して、新しい木と交換し、その上から他の木部と同じように塗装、という部分補修が望まれます。つまり、外壁塗装専門業者には出来ない工事の可能性が有り、大工工事になってしまう場合があります。
よく補修対象になるのが軒天、破風板、窓枠板です。その他には、羽目板、濡れ縁、雨戸などがあります。これらの部分は湿気を帯びやすかったり、太陽に当たりやすかったりで非常に劣化しやすいです。腐食してしまうと交換しか出来ないので、塗装剥がれなどを随時確認するようにしておきましょう。
また、注意点として、下塗り塗料は外壁用の塗料ではなく、木部専用の塗料で補修する必要があることを覚えておきましょう。
鉄部部分補修工事
鉄部に関しても、木部同様、非常にデリケートです。外壁塗装の保証も、外壁と屋根と分けて、鉄部、木部は保証が短い、ということもあります(保証に関してはこちらの記事をごらんください)。
鉄部で一番補修される症状は「錆(さび)」です。それ故、日頃の管理も、補修する際も錆が発生しないようにすることが大事です。ただ、木部とちがって、錆を落として塗装すれば長持ちする場合もありますので、ここで鉄部の補修工程を確認しておきましょう。モルタルなどの内側に入っている鉄部の爆裂補修に関してはこちらを確認してください。
鉄部の錆補修工程
- 電動工具、サンドペーパー、皮スキで錆を旧塗膜ごと削り落とす
- ワイヤーブラシなどで表面を丁寧に掃除する
- 鉄部用錆止め下塗り剤を塗る
- 鉄部用上塗り材を塗る