軒天(軒裏、軒下)部分の塗装は面積が小さくても、景観に関わる大事な部分です。しかし、湿気などでもろくなりやすい部分でもあります。剥がれていたりするだけで他のところがどのように素敵だったとしても、良くない印象を与えてしまうでしょう。
ここでは軒天に使われている材料がどういったものなのか、どのように補修していけば良いのか、塗装などであれば相場はいくらぐらいかなどを細かくまとめました。
目次
軒天とは
軒天は屋根(切妻屋根などの陸屋根以外の屋根全般)が外壁より飛び出しているところの裏側に当たる部分です。軒下、軒裏、軒裏天井、上げ裏などと言います。
破風板、雨樋、鼻隠しなどと一緒に付帯部分と呼ばれており、外壁や屋根以外の部分として、塗装の際は分けられます。
屋根がどれくらい建物から飛び出すかによって軒天の大きさは変わってきます。屋根があっても軒天がなかったり、1メートルほどの軒天がある場合もあります。
軒天の材料
軒天によく使われる材料として、ケイカル板、スレート板、エクセルボードなどがあります。それぞれ特徴をまとめていきたいと思います。
合板(ごうはん)、ベニヤ板
合板とベニヤ板は厳密には違うのですが、軒天においてはほとんど同じような意味で使われます。昔はよく使われていましたので、古くなっている家の多くで合板の軒天を見ることができます。
上から別の模様のシートをかぶせることで(例えばひのきの模様など)、様々な風合いを出していました。これを化粧合板、もしくは化粧板と言います。
合板は薄い木の板の重ね合わせで非常に軽いです。しかし、耐久性が高くないので、あまり目立たない、耐久性を求められない軒天に使われる事が多かったのです。ただ、耐火性、耐水性にはそこまで優れていないので、近年はケイカル板を使う事がほとんどです。それでも非常に安価なことから、今でも工事費用を安く抑えようとする場合に、軒天にベニヤ板を使う事もあるようです。
何枚もの木は接着剤によってくっついているので、経年劣化で接着剤の力がなくなり、剥がれてしまうと言う事も多くありますし、剥がれた場合、非常に見た目が悪くなってしまいます。
ケイカル板(ケイ酸カルシウム板)
軒天の材料として非常によく使われるのがケイカル板です。珪藻土(けいそうど)、消石灰(水酸化カルシウムの事)、石綿(アスベスト)、水で出来た合板です。軽く、丈夫で、非常に強い耐火性、耐水性を持っているので、台所、洗面所、暖炉など建築業界の様々なところで使われています。法律上「燃えない材料」という意味の法廷不燃材に認定されています。昔のものであれば石綿(アスベスト)が使用されていましたが、今現在アスベストは使用を禁止されているので、ノンアスベストを使用するのが主流になっています。
ケイカル板には、表面に穴がたくさん縦横に空いている有孔タイプがあり、通気性を確保しているものもあります。また、タイルのような模様や、木目のような模様を表面から貼っているものや、板自体に色がついているカラーケイカル板もあります。軒天にはめてから塗装をする方ももちろん多いです。また、化粧合板のようにケイカル板の上から模様がついたシートを貼って加工してあるものもあり、デザインボード、デザインパネルなどと呼ばれることもあります。
ケイカル板の特徴として、湿気などである程度動いてしまうため、目地(境目加工)や、ジョイナー(境目に取り付ける器具)などで遊びを持たせないとずれてきてしまいます。
スラグ石膏板(エクセルボード)
スラグは必要なものを取り除いた後の残りかすの鉱物の事で、それにさらに再利用された石膏を混ぜ合わせて固めた板がスラグ石膏板です。別名エクセルボードともいいます。元がスラグと石膏という鉱物なので、燃えません。ケイカル板同様、法定不燃材に認定されています。
フレキシブルボード
セメントに繊維質のものを混ぜて強化したもので、別名繊維強化セメント板とも呼びます。これも法定不燃材です。スレート、またはスレートボードなどと呼ぶ場合もあります。
金属板
軒天に加工した金属板を使う事もあります。錆びにくい金属であったり、ガルバリウム鋼板、アルミスパンドレルという名前の金属板を使う事もあります。金属なので軽いです。屋根がそのまま軒天を包み込むように施工されている場合もあります。
有孔板について
軒天に使用する板に穴が空いているものがあります。これは空気を通すために作られています。軒天に穴があるだけでは通気にならないので、屋裏頂部や棟部などにも通気口が有り、空気の通り道を作っています。
防火有孔板というものは、板の一部にだけ穴が空いている有孔板の事です。
通気口の役割もしながら、防火の役割も果たします。建築基準法の定める「準耐火構造」の建物に使用できます。火災保険などでの構造を採用している必要がある場合もあります。
そして面の全てに穴が空いているものが全面有孔板で、準耐火構造の家には使えないものの通気性が高いです。
見積書によくあるEPやAEPとは?
見積書によく「軒天塗装EP塗り」や「軒天塗装AEP塗り」といった表現がされており、分かりづらい場合があります。
EPはエマルションペイント、つまりエマルション塗料の事です。エマルションというのは、違う成分の分子が均一に存在していると言う事で、卵黄と油が均一に存在しているマヨネーズの状態のようなものです。
水で溶かして使う絵の具もエマルション塗料と言い換えることが出来ます。つまり、雨があたる外装材にはあまり使われません。逆に水性で健康を脅かしにくいので内装によく使われます。
AEPというのはアクリルエマルションペイントの事で、エマルションのアクリル塗料と言う事になります。
軒天にはどのような劣化症状が現れる?
どのような箇所にも経年劣化の不具合が出てくるものですが、軒天の場合は、どのような症状が出てくるでしょうか。確認しておきましょう。
症状 | 説明 |
色あせ | 紫外線に当たりにくい場所ではあるものの、それでも照り返しなどで色あせは徐々に起こってしまいます。 |
シミ | 軒天にシミが出来ている場合は、雨漏りの危険性が高いです。至急、専門家に確認してもらう事をおすすめします。 屋根がきちんと排水出来ていない場合は、屋根から家の内側に入り、そこからさらに軒天の内側に雨水が到達します。そこで初めて軒天にシミとなって現れるのです。 |
はがれ | 合板や化粧板に多い劣化現象です。表面の数層だけが剥がれてしまっている場合や、軒天の板ごと剥がれて落ちてしまう場合もあります。 塗装をしてある場合は、塗装がうまくついておらず塗膜剥離が起こる場合もあります。それだけでボロボロに見えます。 |
藻、カビ | 湿気や雨水などがしっかり排水できていない場合には、軒天の表面に藻やカビが繁殖してしまいます。 |
欠落、穴 | 古くなった部分が欠落してしまう、もしくは一部分に穴が空いてしまう場合があります。鳥などの動物や、虫などが入り込んでしまうかもしれません。 |
軒天の補修方法と相場は?
上記のような軒天の不具合が起こった場合、どのような補修方法があるのかを確認しておきましょう。
塗装
軒天塗装の単価相場:500~1500円/㎡(足場代別)
新築後最初の外壁塗装の時などにそこまで目立った不具合がなく、塗装のみで保護できる場合は、塗装を行います。板と板の間に目地(境目)があるかどうか、目地にジョイナー(板と板をつなげるための金属棒)があるかどうかなどで若干異なってきますが、だいたいは以下の工程となります。
軒天はあまり日が当たらないので良い塗料じゃなくて良いという場合は上の相場ですが(エマルション塗料など)、シリコン、フッ素など外壁などに合わせるという場合は、さらに金額が高くなります(相場に関してはこちらをご覧ください)。もちろん、外壁や屋根にランクを合わせた方が、安心です。
軒天塗装の工程
- サンドペーパーなどで表面の汚れをしっかりととる
- 皮スキで剥がれなどを剥がしきってきれいにする
- 目荒らしを行う(わざと表面に細かいキズをつけて塗料の付きをよくする)
- シーラーなどの下塗り剤を塗布する
- 上塗り塗料を二回塗る
目地にジョイナーがある場合は、下塗り剤を塗る前に錆止め塗料を塗りますし、クギ部がへこんでいるのでパテで埋めて平にするという作業もあります。
DIYで塗りかえる場合
平屋や一階部分の軒天を塗装するということであれば、上記の工程でDIY塗装が可能です。しかし2階部分など高所の作業になると、足場の設置が必要となり、足場無しで脚立やはしごで軒天塗装のDIYを行ってしまうと、思わぬケガや事故の原因になりかねません。もし行うとしても、安全確認は十分に行いましょう(DIYに関する記事はこちらから)。
DIYに必要なものは、下地処理用の皮スキや、塗装用のハケ、ローラーなどがあれば簡易的に塗る事が可能です。
張り替え(交換)
軒天張り替えの相場:一軒当たり15~20万円(足場代別)
軒天の板が劣化していて、塗装ではどうにもならない場合は、板ごと交換をする必要があります。一部のみ大きく破損している場合でも、ベニヤ板などの場合であれば全て取り替えた方が耐久性の面でもコスト面でも良いでしょう。一部だけ替えてしまうと、劣化のスピードが違うので、頻繁に足場を組む、などの手間と費用がかかってしまう可能性があります。
張り替えは、ケイカル板などを軒天に合うように加工していく必要があるので、塗装屋さんではなく大工さんの仕事の範疇となります。撤去解体、取り付け作業などが入るので、自ずと高額になりがちです。軒天に貼り付けた後、塗装を行います。
ちなみに足場代は別でかかってしまうので、外壁塗装や屋根塗装など別な大規模工事のついでにやるのが良いでしょう。
軒天はどのような色が良い?
木目調の板などでない場合で、自分で色を決められるとしたら、軒天はどのような色にするのが良いでしょうか。もちろん人それぞれ好みで選ぶべきだとは思うのですが、人気の色を上げるとするなら白色、もしくは明るめの色がおすすめでしょう。
軒天は基本的に日に当たらないことが多く、少し暗めに見える事がほとんどです。それ故、明るめの色が選ばれる場合が多いようです。決まらないのであれば、白色か、外壁の色を少し明るくしたものにすると無難で間違えがないです。
また、逆にあえて屋根と同じ色にして、外壁とのコントラストを強調して楽しむ、という場合もあります。
ただ、どの場合でも、他の箇所との調和が大事なので、軒天だけというよりも、全体を見ながら考えておきましょう(色選びの注意点についてはこちらから)。