モルタル外壁でどうしても避けることが出来ない劣化と言えば、クラック(ひび割れ)です。
クラック対策として使用される機能性塗料に、ゴムのような柔軟性と伸縮性を持つ「弾性塗料」があります。
ただし、弾性塗料を選択しても、きちんと工法を守らなければ施工後に膨れが生じたり、数年後に硬くなって結局ひび割れが起きたりする恐れがあります。
特殊塗料である弾性塗料について、しくみや工法の種類、注意点などを知っておきましょう。
目次
■弾性塗料の定義
弾力性が非常に高い塗料のことを「高弾性塗料」と呼び、やや弾力性を持つ塗料のことを「微弾性塗料」と呼びます。
弾性塗料 | 20度で120%以上伸びる塗料 |
微弾性塗料 | 20度で伸び率が100%以下の塗料 |
このうち微弾性塗料は、塗り方にもよりますが約2~3年で弾性がなくなり、かちかちの塗膜になってしまいます。
そのような状態になってしまうと弾性塗料の恩恵は受けられませんので、注意が必要です。
※弾性塗料の工法については、後の項目で詳しく解説します。
なお、弾性塗料かどうかの定義は「少し伸び率がいい塗料」という程度で明確な基準は存在しませんので、弾性を持たない塗料よりはやや伸びると考えておくと良いでしょう。
1.弾性塗料のメリット
弾性塗料のメリットを活かすためには、外壁の種類とその外壁に起こりやすい劣化症状を知っておかなければなりません。
特にモルタル壁のお宅では選ばざるを得ないケースがありますので、なぜ弾性塗料がヒビ割れ対策に適しているのか知っておきましょう。
●柔らかくひび割れに強い
弾性とは、力が加わったときに動き、力がなくなったときに元に戻る性質のことを指します。
ゴム製品をイメージするとわかりやすいでしょう。
塗料の世界における弾性とは、ひび割れが起きそうになっている外壁の動きに応じて動く性質のことを指します。
外壁は全く動いていないように見えて、実は太陽光の熱や湿気等で伸縮したり強風や地震で揺れたりして、絶えず動いています。
外壁が動いた時その動きに塗料が付いて行けないと、塗膜が破れてひび割れ(クラック)が起こります。
しかし、柔らかい弾性塗料は外壁が動いても塗膜自身が伸び縮みするため、ひび割れが起きにくくなります。
●防水性も高くなる
弾性塗料は非常に作業性が良く外壁にしっかり密着する性質があるため、そのカバー力によって建物の防水機能を高めることができます。
また、弾性塗料は施工時に分厚く塗りますので、完成した塗膜は分厚い防水層となり外壁に雨水が当たりにくくなります。
さらに、高い追従性でひび割れを防ぐことからひび割れから浸水する雨水も防ぐため、あらゆる面で高い防水効果を持つ塗料と言えるでしょう。
●モルタル外壁の劣化を防ぐ
モルタル壁は、外壁材の中でも特にひび割れを非常に起こしやすい種類になります。
耐候性に優れた最高級グレードのフッ素塗料でもモルタル壁の動きによってすぐにひび割れを起こしてしまうほどです。
約20年の耐用年数を持つと言われるフッ素塗料で塗装したにも関わらずわずか数年でひび割れが生じてしまうと、せっかく高額な工事費用をかけた意味を失ってしまうでしょう。
参考:フッ素塗料の価格相場やメリット、デメリットを確認しよう
このような理由から、モルタル外壁ではひび割れを起こしにくい弾性塗料の使用が推奨されています。
また、モルタル壁は吸水性が高く雨水などの水分を吸収しやすいため、躯体保護という点でも、高い防水効果を持つ弾性塗料がおすすめです。
2.弾性塗料のデメリット
弾性塗料のデメリットは、ずばり耐用年数が短いことです。
工法によって耐久性は異なりますが、弾性塗料は最も耐用年数が短いアクリル塗料レベルと同等の、約5年しか耐久性が続かないことがあります。
フッ素塗料に弾性硬化剤を混ぜて弾性フッ素塗料として使用することもできますが、それでも通常の使用方法で塗装されたフッ素塗料に比べると、耐用年数は下がります。
そのため、弾性塗料を使ってひび割れ防止を優先するか他の塗料を使って外壁全体の耐用年数を優先するかは、建物の劣化症状や外装材の種類に応じて見極める必要があります。
●耐用年数を下げない施工方法は割高になる
弾性塗料の耐用年数を高める工法もないわけではありません。
しかし、弾性塗料は分厚く塗って仕上げる塗料です。
その理由は、薄い塗膜では弾性の効果を発揮できず、外壁の動きで塗膜が伸びたときにひび割れが起きてしまうためです。
そのため、耐用年数を高めるためには施工時に塗料を何層も塗らなければならず、手間と時間がかかり非常に高額な工事になってしまいます。
なお、弾性塗料を塗装するときは塗膜厚を出すために厚塗り用の「砂骨ローラー」や「ウールローラー」などが使われます。
そのため、見積もり書では「弾性ローラー仕上げ」や「砂骨ローラー厚塗り」と記載されていることがありますが、弾性塗料の工法ですので記載されていてもご安心ください。
■ 塗料の種類と弾性塗料との違い
外壁塗装の費用について調べていると、
- アクリル樹脂塗料
- ウレタン樹脂塗料
- シリコン樹脂塗料
- ラジカル樹脂塗料
- フッ素樹脂塗料
といった塗料の名前を何度も目にします。
これらの塗料は「硬質塗料」に分類され、その名の通り塗った後に塗膜が強力に固まります。
塗膜は硬いほど外壁に加わった衝撃を受けやすくなるため、ひび割れが起きやすくなります。
そのため硬質塗料には弾性塗料ほどのひび割れ防止効果がありません。
なお、上記の5種類の塗料のうちウレタン塗料は比較的柔らかく伸びがよいため、ややひび割れに強く弾性塗料を使うまでもない外壁のひび割れ防止目的で使用されることがあります。
その他にも塗料には水性塗料や溶剤塗料(溶剤型塗料、油性塗料)といった種類がありますが、詳しく知りたい方はこちらのページをご参照ください。
■弾性塗料は窯業系サイディングボードへの使用は不可
弾性塗料は、窯業系サイディングボードには使用できません。
1.サイディングボードの熱が弾性塗料を劣化させる
サイディングボードには本体に断熱材が含まれているため、夏場は太陽光の熱によって約80℃近い高温になります。
その高温により表面に塗装した弾性塗料が柔らかくなりすぎてしまい、フクレなどの劣化現象が起きてしまうのです。
フクレが生じた外壁はぶくぶくの泡が表面にいくつも発生するため、人によっては激しい嫌悪感を覚えるほど見た目が悪くなります。
また塗膜の膨れが起きている箇所は当然、下地の外壁に密着していませんので、周りの塗膜の剥がれや破れの原因にもなります。
2.サイディングボードはひび割れ防止がそもそも不要
そもそもサイディングボードはひび割れが起こりにくい外壁ですので、弾性塗料を使用するメリットはほとんどありません。
サイディングボード目地には、ゴム質のコーキング材(シーリング材)が充填されています。
この目地材が建物に揺れや衝撃が加わっても割れを防ごうとしますので、外壁の表面を弾性塗料で保護する必要はありません。
参考:コーキングについて
もしサイディングボードの外壁に弾性塗料を使用しようとしている業者がいれば、知識のない悪徳業者の可能性がありますので、ご自宅がサイディングボード外壁であれば十分注意しましょう。
参考:サイディングボードのメンテナンス、ひび割れ等の補修方法
■弾性塗料には3つの工法が存在する
弾性塗料には様々な仕上げ方法があります。
それぞれの耐用年数、ひび割れへの効果などを考慮した上で、適切な工法を選びましょう。
なお、弾性塗料を使った塗装でも、足場設置、高圧洗浄、下地調整といった通常の塗装工程は通常通り行われます。
1.単層弾性工法
弾性の持続期間:約3~5年
作業工程:
- シーラー
- 単層弾性塗料(1回目)
- 単層弾性塗料(2回目)
単層弾性工法では、まずシーラーと呼ばれる下地調整塗料を塗り、その上から単層弾性上塗り塗料を二回塗ります。
単層弾性工法は施工費用が安く作業時間も長くはかかりませんが、5年も経つと塗料がカチカチに固まってしまうため、弾性を失ってひび割れが発生するようになります。
また耐久性が高い種類が少ないため、何度も塗り直しが必要になるデメリットを考えると、費用対効果はあまり高くないと言えるでしょう。
●耐久性が高い種類が少ない
単層弾性塗料は日本ペイント、関西ペイント、エスケー化研の大手塗料メーカーから販売されており、低汚染性のものや防かび効果を持つものなど様々な性能を持つものもありますが、耐久性が弱いアクリル樹脂を主成分とするものが多いため、耐久年数が長いものがあまりありません。
そのため仕上げ方にもよりますが、単層弾性塗料は約3~5年程度で塗り替え時期が来てしまいます。
アクリル系よりも耐用年数が長いシリコン系単層弾性塗料も販売されていますが、配合されているシリコンの割合が低いため、長くは持たないのが現状です。
2.複層弾性工法
弾性の持続期間:10~20年
作業工程:
- シーラー
- 高弾性中塗り材(1回目)
- 高弾性中塗り材(2回目)
- 複層仕上げ塗材上塗り(1回目)
- 複層仕上げ塗材上塗り(2回目)
複層弾性工法では、合計で5回の複層塗りが行われます。
手間をかける分非常に高品質な弾性塗膜が完成しますので、約20年以上弾性効果が持続している家もあるほどです。
しかし施工価格があまりに高いため、現在は塗装専門業者でもあまり選ばない工法になりつつあります。
●工程数が多く施工単価が割高
複層弾性工法はなんといっても塗り回数が多いため、塗料代も工事費用も高くなります。
まずこれだけの重ね塗りを行うためにはその分の人件費が必要です。
さらにスプレーによる吹き付けが行われるため、飛散した塗料の分材料費が無駄になる点なども合わせると施工単価は非常に高く、約5,500円/㎡ほどにもなります。
最高位グレードのフッ素系塗料でも施工単価は約3,000~4,500円/㎡程度ですので、複層弾性工法にかかる費用の高さがおわかりいただけるかと思います。
参考:塗料の単価相場
3.微弾性塗料工法
弾性の持続期間:約1~3年
作業工程:
- 微弾性フィラー
- 任意の上塗り用塗料(1回目)
- 任意の上塗り用塗料(2回目)
弾性塗料を使った塗装の中で最もメジャーな工法が、「微弾性フィラー」を下塗り材に使用する微弾性塗料工法です。
これまでご紹介した2つの工法では下塗材にシーラーを使っていましたが、微弾性塗料工法では弾性のある微弾性フィラーを下地材に使用します。
その後上塗り材としてウレタン塗料、シリコン塗料、ラジカル塗料、フッ素塗料といった一般的塗料や、水性セラミックシリコン塗料など弾性塗料以外の任意の塗料を塗装して仕上げます。
●弾性は高くないが上塗り塗料次第で長持ちする
微弾性フィラーの弾性はそこまで高いものではありません。
塗装から約1~3年経つと徐々に弾性が失われ、その後は通常の硬質塗料と変わらない性質になります。
弾性が失われると当然ヒビ割れへの耐久性はなくなります。
しかし、微弾性塗料工法は上塗り塗料に一般塗料を使用する工法です。
つまり、上塗り層の耐久性さえ残っていればもし弾性が失われても塗膜自体は外壁を保護し続けますので、塗り替えを行う必要はありません。
■弾性塗料を使った悪徳業者の手口に注意
弾性塗料は少し複雑な工程が多いため、手抜き工事が行いやすい性質を持つと言えます。
塗装の知識がない人にとって一体どこで手抜きが行われるかはわかりづらいかもしれません。
しかし、悪徳業者が行う手口というものは基本的にワンパターンです。
弾性塗料を使用した外壁塗装工事において、悪徳業者が行う手口としては、
- 塗料を薄めて使う
- 厚塗りすべき所を厚塗りしない
のどちらかであることがほとんどです。
これらの手口はいずれも塗料缶の搬入数と空になった塗料缶の数を見積書と照らし合わせてきちんと確認することで防げます。
そのほか、塗料の缶に貼られているメーカーが作成したラベルを見て、上記画像のように塗料名に「弾性」「微弾性」といった単語が記載されていることも確認しておきましょう。
弾性でも何でもない一般塗料を弾性塗料に見せかけて、弾性塗料並みの施工価格を請求するという悪質な手口が使われるケースもないとは言い切れないためです。
参考:悪徳業者チェックリスト
■おわりに
モルタル壁などひび割れが多い外壁にお悩みの方にとって、ゴムのような性質でひび割れを防ぐ弾性塗料はまさに画期的な塗料と言えるでしょう。
通常の硬質塗料と違って、通常とは違う工程が発生したり、施工価格が高くなったりすることもありますが、わかりやすい見積もりを作ってくれる業者であれば施工内容についても丁寧に教えてもらうことができます。
弾性塗料を希望する旨を業者に伝え、建物にとって最も相応しい工法と塗料を選んでもらいましょう。