外壁や屋根に使われる塗料には1液型と2液型という分類が存在します。これは塗料のグレードを指すアクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料の全てに存在する分類となります。
塗料を選ぶときは、グレード、水性塗料、油性塗料(溶剤系塗料、弱溶剤系塗料)といったタイプだけでなく、1液型と2液型を選ぶ必要があります。どちらを選べば、耐久性が高く、綺麗な状態で長期間外壁や屋根を保つことが出来るでしょうか。また、どちらを選べばより低価格で外壁塗装工事を行う事が出来るでしょうか。
それぞれの違いとメリット、デメリットについて解説します。
目次
塗料は様々な方法で分類される
外壁塗装用の塗料は非常に様々な種類がありますが、基本的な分類はそこまで多いものではありません。まずは塗料の分類について整理しておきましょう。大きく分けて塗料のグレードと、それを水、シンナーのどちらで溶かすのか、そして塗料が主材と硬化剤に分かれているかということで分類されています。
それぞれを詳しく見ていきましょう。
配合される樹脂により分類(グレード)
樹脂による分類 | 耐久年数 |
アクリル系樹脂塗料 | 5~8年 |
ウレタン系樹脂塗料 | 7~10年 |
シリコン系樹脂塗料 | 10~15年 |
ラジカル系樹脂塗料 | 15年前後 |
フッ素系樹脂塗料 | 15~20年 |
まず最も大きい分類として、塗料は耐久性(どれぐらいの間外壁を保護する機能を有する事が出来るか)を決定づける樹脂によって分類されます。グレード、ランクなどと呼ばれます。上の表の通り、フッ素、ラジカル、シリコン、ウレタン、アクリルの順で耐久性が高いです。
今現在の外壁塗装事情として、アクリル塗料、ウレタン塗料が使われる事はほとんどなくなり、主流はシリコン塗料と、新しく出来たばかりのラジカル塗料(ラジカル制御型塗料)で、さらなる耐久性を求める場合にフッ素塗料を使います。
少し分かりづらく細かいお話になるのですが、グレードそれぞれにに、水性、弱溶剤、溶剤(次項で説明)という分類が有り、さらにそのそれぞれに1液型、2液型という分類もあります。
何で塗料を薄めるかで分類(水性、弱溶剤、溶剤)
塗料はそれだけではドロドロとしていて、外壁に非常に塗りづらいです。塗りづらい状態のまま塗ろうとすると、当然手間と時間がかかります。時間はそのまま職人さんの人件費として反映してしまいます。出来るだけ手間がかからないように、塗料は何かで少し薄めて塗りやすい状態にしてから塗ります。この時に何で薄めるかによって水性、弱溶剤、溶剤に分類されるのです。
薄めると言っても塗料全体の数パーセント程度です。例えば16kgの塗料があるとして、5~10%(0.8kg~1.6kg)の水を混ぜ合わせて使用します。気温、湿度、塗り方(はけで塗るか、ローラーで塗るか)などによって希釈率(何%混ぜるのか)が変わるので、職人の経験等で判断します。
分類 | 何で薄める? | 耐久性 |
水性 | 水道水(希釈水) | 若干低い (弱溶剤に追いつきつつある) |
弱溶剤 | 塗料用シンナー | 高い |
溶剤 | アクリルシンナー ラッカーシンナー ウレタンシンナー エポキシシンナー |
非常に高い |
水性塗料は水道水で薄めるので臭いが少なく、シンナーなどの刺激臭がありません。人体や環境にも悪影響を与えづらいので、近所にも迷惑がかかりづらく、密集した住宅地などでよく使われています。
弱溶剤塗料は塗料専用に作られた弱めのシンナーを使い、溶剤塗料は強力なシンナーを使用するので、シンナー臭が強いです。しかし、その分、水性にはない耐久性を持っているので、強力な保護膜で長く外壁を保護したい場合などは弱溶剤、溶剤塗料を使用します。
ただ、近年、地球の自然環境への負荷を考慮して、水性塗料を推奨する動きが活発になっています。それに伴い、水性塗料が進化し、弱溶剤とほとんど変わらない耐久性などの性能を持つものも出てきました。
1つで塗料として成り立つのか、2つ組み合わせるのかで分類(1液型、2液型)
上記で説明した、アクリル、ウレタン、シリコン、ラジカル、フッ素塗料には、それぞれ水性、弱溶剤、溶剤塗料があります。さらに水性、弱溶剤、溶剤塗料にもそれぞれ、1液型、2液型という分類があります。コーキング材(シーリング材)にも、下塗り用のシーラーや、エポキシ樹脂塗料などの下地調整材にも1液型、2液型という分類が存在します。
1液型、2液型とは、塗料が「1つの缶の液体だけで塗料として使う事が出来るのか」、「2つの異なる缶の液体を組み合わせて塗料として使うのか」で分類されます。
1液型 | 塗料缶は1つで、そこに水やシンナーを入れて薄めて壁に塗る。 |
2液型 | 塗料缶は2つあり、主材(塗料)と硬化剤に分かれている。 塗装をする直前に主材と硬化剤を混ぜ合わせて初めて塗料となる。 そこにさらに水やシンナーを入れて薄めることで壁に塗る。 |
上記の通り、2液型は2つセットで仕入れて、使用する前に混ぜ合わせて使います。混ぜ合わせたときに硬化反応を起こしてしっかり固まり、強固な塗膜を作ります。それ故、反応硬化形塗料、もしくは硬化反応型塗料とも呼ばれます。
元々は2液型しか存在していませんでしたが、2液型は混ぜたときから固まり始め、時間が経つとどんどんドロドロしていき、数時間ほどでカチカチに固まってしまいます(気温や湿度に左右されます)。作り置きが出来ず、作ったものはその日のうちに消化しないと行けませんし、足りなくなると毎回混ぜ合わせなくてはいけません。しかも混ぜ合わせるときは混合比率に非常に気を遣う必要があるのです。つまり、塗装作業に非常に手間がかかるのです。
そこで新たに開発されたのが1液型です。1液型は硬化剤を混ぜ合わせる必要がありませんので、すぐに使う事が出来るので、手間がかかりません(作業性が高いと言います)。
ただ、誤解されがちなのが、1液型は硬化剤を入れる必要がない塗料という事ではなく、すでに硬化剤が適切な分量で混ぜられている塗料なのです。硬化剤が混ぜられているのにもかかわらず、塗るまでしっかり塗りやすい状態をキープしている事が技術の進歩と言えるのではないでしょうか。
1液型、2液型のメリット・デメリット
1液型、2液型のどちらが良いと言う事ではなく、それぞれにメリットとデメリットがあります。出来るだけ長い間外壁を保護してほしい、出来るだけ安く工事を済ませたい、などそれぞれの状況に合わせて適切なタイプの塗料を選びましょう。
1液型 | 2液型 | |
メリット |
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デメリット |
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それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
耐用年数は2液型が約3年長い
2液型と1液型の大きな違いは耐用年数の違いです。耐用年数は耐久性(耐候性ともいう)に比例しており、耐久性が高い塗料ほど、より長い年数、外壁を守ることが出来ます。具体的にどれくらいの違いがあるのかというと、塗装業者の体感として約3年ほど長持ちするという傾向があります。
こちらは具体的な実験結果はなく、あくまで外壁塗装業者による感覚値です。例えば、エスケー化研の1液型「1液マイルドシリコン」と2液型「クリーンマイルドシリコン」の耐用年数はそれぞれ12~15年です。2液型は高い密着性でしっかりと外壁や屋根にくっつき、強靱な塗膜を形成しており、紫外線や雨風に対する抵抗力が強く、劣化しづらいです。それ故、耐用年数いっぱいの15年保護し続ける事が可能です。逆に1液型の方は紫外線などへの抵抗力が2液型ほど強い訳ではないので、耐用年数の下限である12年ほどしか持たない可能性がある、といったものです。
海が近くて塩害被害がある、昼と夜の寒暖差が激しい、周りに建物がないため日差しが一日中当たる、晴れが多く日照時間が長いなどの外壁要因によって、耐用年数は大きく上下しますが、同じ環境に1液型と2液型の家があったとしたら、2液型の方が3年ほど長持ちする傾向にあるということです。
価格は1液型の方が1割ほど安い
1液型のメリットととしては、2液型よりも価格が1割ほど安いと言う事が挙げられます。エスケー化研の1液マイルドシリコンとクリーンマイルドシリコンを比較してみましょう。
1液マイルドシリコン | クリーンマイルドシリコン | |
1液型 | 2液型 | |
設計価格 | 2,000円/㎡ | 2,200円/㎡ |
一軒塗る場合 | 130㎡を二回塗りで 520,000円 |
130㎡を二回塗りで 572,000円 |
設計価格というのは外壁塗装業者の利益なども含めて考えた、メーカーがそれぞれの塗料に設定している価格の事です。上の表をごらんいただいた通り、1割ほど2液型塗料の方が高いです。
㎡に直すと2,200円と2,000円の違いですが、家全体で考えると大きな価格差となります。上塗りは二回塗るので、外壁面積が130㎡とすると、260㎡塗る事になります。そこまで塗ると価格差は52,000円にもなります。出来るだけ塗料代を安くしたいと言う場合は1液型にしましょう。
2液型の方がいろいろな箇所に塗る事が出来る
先ほどと同様、エスケー化研の1液マイルドシリコンとクリーンマイルドシリコンを比較してみましょう。
1液マイルドシリコン | クリーンマイルドシリコン | |
1液型 | 2液型 | |
どこに塗る事が出来るか |
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ご覧いただくと使用できる種類が明らかに違うのですが、2液型は科学反応を起こさせ、強力に接着し、より強く塗膜性能の高い外壁を形成するので、様々な所に使用することが出来ます。1液型はすでに硬化剤が混ざっているので少しずつの化学反応ですが、2液型は塗る直前に爆発的な化学反応を起こします。それが塗膜性能や、密着性を高め、塗る事が出来る場所の多さに違いが現れるのです。
上記の表で言えば、1液型と2液型の大きな違いは「金属部に塗る事が出来るか」ということになります。家に鉄部などの金属部がない場合は問題ありませんが、金属部が多い場合、鉄部には1液マイルドシリコンは使えないので、鉄部の為だけに鉄部用の塗料を使う必要があるのです。
塗料の無駄が出ないような塗装を考えると(塗料を余らせたりすると無駄が出て費用の負担が増える)、様々な所に塗れた方が良いので、鉄部とコンクリートが混在するような家の場合は2液型塗料の方が好ましいでしょう。
混合、かくはんは非常に手間な作業(2液型の混合)
2液型は主材(塗料液、ベースともいう)と硬化剤を混ぜ合わせることで1つの塗料として完成します。しかし、この混ぜ合わせるという作業が実は非常に大変な作業なのです。
次項で説明しますが、主材に硬化剤を入れた時点で、塗料は硬化を始めます。普通は5時間ほど、短ければ3時間ほどで使えないほど固まってしまうので、作り置きと言う事が出来ません。つまり、5時間で使い切れる分がどれくらいかをきちんと把握して、混ぜ合わせる必要があります。足りないとまた混ぜ合わせるという余計な手間が発生しますし、余らせると塗料が無駄になります。適切な量だけを作る事が求められるのです。
また、主材と硬化剤の割合は塗料によって細かく決められています。計測器できちんとはかりながら混ぜないと、塗った面の塗料が塗膜を形成せず固まらないという自体に陥ってしまいます(硬化不良と言います)。
メーカー | 塗料名 | 主材:硬化剤 |
エスケー化研 | クリーンマイルドシリコン | 100:11.1 |
弾性クリーンマイルドシリコン | 100:18.5 | |
水性セラタイトF | 100:5 | |
関西ペイント | アレスアクアセラシリコン | 14:1 |
セラMシリコン中塗塗料 | 10:1 | |
セラMシリコン上塗塗料 | 6:1 | |
日本ペイント | サーモアイ4F | 9:1 |
ニッペファインSi | 7:1 |
上では大手塗料メーカーの2液型の塗料を例にとって主材と硬化剤の比率について記載しています(信頼出来る塗料会社は大手だけで、今現在の日本では日本ペイント、エスケー化研、関西ペイントの3つのみ信頼出来るといえる塗料会社です。)。7:1や6:1というような単純な記載をしている場合もあれば、クリーンマイルドシリコンのように100:11.1という細かい比率の塗料もあります。誤差を出来るだけ少なくしないと、塗料はうまく硬化しなかったり、早く硬化しすぎて塗るのに差し支えたり、塗りムラになったりしてしまうのです。一般的な許容範囲としては誤差5%と言われており、この範囲にとどめる事がプロの仕事となります。
例えば、日本ペイントのニッペファインSiは、1㎡を一回塗るのに使う塗料の量は0.12~0.14kgと細かく決められています(0.12~0.14kg/㎡/回と書きます)。そこから逆算することでどれぐらいの量の塗料を混ぜ合わせれば良いのかを計算します。数値に幅があるのは気温や湿度、下地の状態などで変わってくるためです。
この場合、外壁が130㎡で、とりあえず一面だけ塗ろうとした場合、4で割って塗る面積は32.5㎡となります。つまり、1㎡塗る為に必要な塗料を0.12kgとすると、一面塗るのに3.9kg使うと言う事になります。3.9kgの塗る事が出来る状態のニッペファインSiを作成する為には、主材を3.4125kgと、硬化剤を0.4875kgを混ぜ合わせて作ります(厳密にはさらに希釈するシンナーの量も計算します)。これを可使時間(下記参照)内に一面に塗らなければいけないという事になるのです。小数点第4位のkgまではかるのは細かすぎて難しいので、誤差内に収まるようにして混ぜ合わせます。
このように非常に細かな計算と、正確に計る技術、そして気候によって調整する感覚などを必要とするので、2液型を使用するのには高度な腕が求められるのです。
ちなみにクリーンマイルドシリコンと弾性クリーンマイルドシリコンの違いは、硬化剤が弾性かそうでないかの違いだけです。硬化剤を弾性硬化剤にかえるだけで全く別の弾性塗料にする事が出来るという便利な塗料もあります(参考:弾性塗料について)。
2液型は混ぜたらすぐに使わないといけない(可使時間)
混合、攪拌を行った2液型塗料は、そのまま保存することは出来ません。なぜなら、硬化剤を混ぜた時点で塗料の中では硬化がはじまっており、混ぜたらその後すぐに使い始めないといけないのです。
「この時間内に必ず塗料を使い切ってください、さもなくば塗料が使えなくなりますよ」という制限時間のようなものが2液型には設定されており、この時間の事を「可使時間(かしじかん)」と言います(ポットライフ、使用時限という人もいます)。この可使時間は温度によって変化してしまうので、23℃で5時間などと記載されている場合が多いです。暖かいと可使時間は短く、寒いと可使時間は長くなります。
大手塗料メーカーのエスケー化研、関西ペイント、日本ペイントの2液型塗料の可使時間の例をあげます。
メーカー | 塗料名 | 可使時間(温度) |
エスケー化研 | クリーンマイルドシリコン | 5時間(23℃) |
水性セラタイトF | 7時間(5℃) 5時間(20℃) 3時間(35℃) |
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関西ペイント | アレスアクアセラシリコン | 7時間(5~15℃) 5時間(15℃~30℃) 3時間(30℃以上) |
セラMシリコンⅢ | 8時間(23℃) | |
アレスクール2液Si | 8時間(23℃) | |
日本ペイント | ファインウレタンU100 | 10時間(23℃) |
サーモアイ4F | 6時間 |
水性セラタイトFなど、塗料と温度によっては混ぜ合わせてから3時間で使い切らなくてはならない場合もあります。日本ではどんなに暑くても一日の平均気温が35℃を超えると言う事はありませんが、最高気温が35℃を超えるような日は夏であればありえます。その時にいかに無駄を出さずに可使時間内に塗料を使い切るかは業者の腕にかかっています。
均一に混ざるように攪拌するだけでも大変なので、出来ればまとめてある程度の塗料を混ぜ合わせて作っておきたいところですが、この可使時間のせいで、まとめ作りというのが出来ない、というのも2液型塗料を塗装で使うのが難しい理由の1つです。難易度が非常に高いので、DIYでは2液型塗料は使わない様にしましょう(一般的にペンキといわれるものは全て1液型です)。
保管期間が長いかどうかは気にせず新鮮な塗料を使ってもらう
1液型はすでに液体内に硬化剤が配合されています。硬化剤が配合されていてどろっとした状態をキープ出来ているのはすばらしいですが、それでもほんの少しずつ固まっています。それ故、半年から1年ほどで消費期限が来てしまうので、それまでに使い切る必要があるのです。
硬化剤が最もデリケートで、保管に気を遣います。気温が高いところに置いておいても劣化してしまいますし、直射日光による紫外線が缶に当たり続けても劣化します。劣化した硬化剤が入った塗料は硬化不良を起こし、結果、うまく外壁に密着せずに外壁を保護するという役目を果たせなくなってしまいます。
2液型は仕入れ時は主材と硬化剤に分けられているため、硬化剤の保管方法に特に気をつければ1液型塗料よりは長期間保存することが可能です。しかし、先に挙げたとおり硬化剤はデリケートなものなので、出来るだけ製造されてから日が浅い塗料を使用する必要があります。これは1液型も2液型も変わりません。
2液型の方が保存が利くとはいっても、長期間保存したものよりも製造されたばかりの塗料の方がしっかりと塗膜を形成し、外壁を保護してくれます。あまり良くない外壁塗装業者の場合、昔の余った塗料などを工事で使う場合もありますので、保管性(保管しやすいかどうか)にはこだわらず、きちんと工事する家の為に直近でメーカーから仕入れたものを使ってくれるのかを確認しましょう。
結論としては2液型を使うのが良い
DIYで2液型を作るのは混ぜ合わせて、可使時間内に塗りきるといのが難しいため、やめておいた方が良いですが、プロにお願いする場合は、是非2液型でお願いするようにしましょう。混ぜ合わせて攪拌すると言う作業はプロならばしっかりとこなしてくれますし、耐用年数も約3年伸ばす事が出来ます。それでいて設計価格は1割しかアップしません。
熟練度が低い業者の場合は、1液型を積極的に使おうとします。また見積書には何液型か書いていない場合もあります。何液型の塗料を使うのかを見積もりの段階で確認し、2液型の導入は可能か聞きましょう。断られたとしたら、それは腕に自信がない業者である事も考えられるので、選択肢から外すのが無難です。
しっかりと2液型による塗装をやりきれるような腕のある業者を選ぶようにしましょう。