外壁塗装の見積もりを眺めている時、「ケレン」という文字を目にして「これはどんな作業だろう」と疑問に思ったことのある方も多いかと思います。
外壁塗装を成功させるためには、このケレン作業が見積書に書かれているかどうかを、必ず確認しておかなければなりません。
どんなにハイグレードな塗料を使っても、ケレン作業をおろそかにすると、外壁塗装を長持ちさせることができなくなってしまうためです。
今回は、外壁塗装の命運を分けるといっても過言ではない、ケレン作業について、作業の目的や費用相場などを解説します。
目次
■外壁塗装の見積もりに「ケレン」があることを確認
外壁塗装の見積書は、「下地シーラー」や「水性シリコン」など、あまり聞きなれない単語が並んでいますが、よく読めばどのような作業か、ある程度想像することができます。
例えば、下地シーラーは、「下地」という単語から、塗装の前に行う作業であることが推測できます。
あるいは、シリコンであれば、「上塗り」や「ローラー」と一緒に記載されていますので、塗料の種類であると予想することができるでしょう。
しかし、多くの人にとって「ケレン」という言葉は、どのような作業か、何のために行われるのか、すぐに想像できないのではないでしょうか。
実は、このケレン作業は、外壁塗装の仕上がりを左右する、とても重要な工程なのです。
1.外壁表面の異物を除去する作業
ケレン作業とは、カンタンに説明すると「外壁の異物を取り除く作業」のことで、「素地調整」とも呼ばれます。
外壁塗装では、まず、外壁表面の汚れを、業務用高圧洗浄機の強力な水圧で落とします。
参考:高圧洗浄で知らないと損な作業時間、圧力、単価、水道代の話
しかし、金属部にこびりついたサビや古い塗膜などは、高圧洗浄作業でも落とせないことがあります。
そのため、高圧洗浄作業のあとは、この残った汚れを取り除くために、ケレン作業が行われます。
汚れやサビが手で剥がせるようであれば、ケレン作業は大掛かりな工事にはなりません。
しかし、サビが成長してコブのように膨れ上がっていたり、外壁材や金属部材の深部まで進行していたりする場合は、必要性に応じて、電動工具などを使って時間をかけて除去しなければなりません。
2.外壁表面を滑らかにする作業
ケレン作業は、主に、屋外にある金属製の手すりや、屋根の板金や鼻隠しといった付帯部分のサビ除去を目的として行われますが、木材やサイディング材でも、表面処理作業の一環として行われます。
外壁塗装を、ムラなく均一な仕上がりにするためには、外壁表面の凹凸や劣化損傷をできるだけ補修しておかなければなりません。
また、塗料が付着しにくいガルバリウム鋼板の屋根や外壁であれば、ヤスリなどであえて毛羽立たせ、塗料が付着しやすい状態にしておく必要があります。
このように、塗料が付着しやすくなるように、外壁表面をあえて傷つける表面処理作業のことを「目荒らし」または「足付け」と呼びます。
■ケレン作業の目的
ここまでケレン作業の内容をご説明してきましたが、一体なぜ、ケレン作業を行って、外壁に下地処理を施さなければならないのでしょうか
ケレン作業を行う目的と重要性をまとめると、以下のようになります。
1.塗料を長持ちさせる
どんなに丈夫な塗料でも、サビや汚れなどの異物の上から塗ってしまうと、その異物が下から塗膜状態に悪影響を及ぼしてしまい、長持ちしなくなってしまいます。
例えば、サビを残したまま塗料を塗ってしまうと、サビは塗膜の下で成長し続け、次第に塗膜を食い破る可能性があります。
あるいは、サビの成分が塗料の耐久性を落とし、施工後すぐに塗膜剥離や浮きが生じるようになってしまいます。
いかに強力な防錆剤(ぼうせいざい)を塗布しても、サビを根本から除去しなければ、外壁は何度もサビの脅威にさらされることになってしまうのです。
2.塗料の密着性をよくする
汚れなどを外壁表面に残したまま塗料を塗ると、汚れに邪魔をされて、外壁と塗料が密着できなくなってしまいます。
塗料がしっかり外壁に付着できないと、付着していない箇所から塗膜剥離(とまくはくり)が発生したり、塗面に傷や割れが生じやすくなって、雨水が浸水したりする恐れがあります。
特に、塗装の第1段階目で使う下塗り塗料がしっかり外壁に付着できていなければ、下塗り塗膜がしっかり形成されず、塗膜内部がもろくなり、その上から塗る中塗り用や上塗り用塗料も、耐久性を落としてしまいます。
ケレン作業で汚れやサビを除去しておかなければ、いかに優れた外壁専用の塗料でも脆弱塗膜(ぜいじゃくとまく)となり、その性能を発揮することはできません。
3.塗装の完成度を高める
ケレン作業によって凹凸がなく滑らかになった外壁は、塗料をまんべんなく密着させることができます。
丈夫な塗膜で外壁をしっかり覆うことができれば、ムラがなく発色もよい塗面で外壁が覆われ、見た目も美しく、家を外から強力に保護することができます。
■ケレン作業の注意点
ケレン作業を怠ると、塗料の耐久性が低くなることは、これまでご説明した通りです。
たとえどんなによい塗料を使って、よい技術で塗替えても、ケレンを怠ると外壁そのものの耐久性を落とすことになってしまいます。
しかし、ただ単にケレン作業さえ行えば、必ず外壁塗装リフォームが成功するかというと、そうではありません。
さらに、ケレン作業は悪徳業者に省かれやすい傾向がありますので、その点も併せて注意が必要です。
1.ケレン作業が複雑になる前にリフォームを
後ほど詳しく解説しますが、外壁のサビがひどくなるほど、大掛かりなケレン作業を行わなければなりません。
作業規模が大きいケレン作業ほど作業方法は複雑になり、作業員の手間も増え、価格相場も高くなりますので、外壁塗装全体の費用も高額になってしまいます。
さらに、長年外壁塗装をおろそかにして、ケレン作業でも下地調整ができないほど外壁を劣化させてしまうと、外壁材そのものの交換という、大工作業を伴う高額な外構リフォームに発展してしまう恐れがあります。
つまり、外壁の状態が比較的よい時に、定期的に再塗装を行っていれば、ケレン作業もごくカンタンな内容と金額で済ませることができ、少ない手間と費用で丈夫な外壁を維持することができるのです。
2.見積書に「ケレン」が含まれていることを確認する
悪徳業者の手抜き工事の手口として多いものに、「行うべき工程を省いて見積もりを安くする」というものがあります。
ケレン作業は、外壁塗装の作業内容の中でも、比較的省かれやすい工程です。
そのため、業者から見積書をもらった時は、必ずケレン作業が工程に含まれていることを確認しておきましょう。
ケレン作業が含まれているかどうかは、見積書の中に「ケレン」という文字が記載されているかどうかで判断することができます。
しかし、ケレンは本来、鉄部のサビを落とす作業です。
そのため、サイディングボードや木材に、ケレン作業に該当する下地調整を行うときは、
- 素地調整
- 下地調整
- 表面処理
- 下地補修
- 下地処理
などと記載されていることもありますので、「ケレン」以外のワードも併せてチェックしておきましょう。
また、見積もりが「材工共」になっている場合も注意が必要です。
材工共とは、作業の手間賃と材料代を合算した金額のことで、このような表記になっていると、ケレン作業が行われたかどうかを判別するのが難しくなってしまいます。
実際にケレン作業が行われたかどうかを、必ずチェックしておきたいという場合は、施工中の様子を写真に残してもらったり、作業内容を記録したノートをつけてもらったりすると良いでしょう。
■ケレンの作業内容
それではここからは、ケレン作業の具体的な作業手順や工程を見てみましょう。
外壁塗装の見積もりでは、工具名がケレン作業の項目名になっていたり、ケレン作業の項目に工具の価格が記載されていたりすることがありますので、代表的な種類をいくつか把握しておくと良いでしょう。
1. ケレンに使われる道具
ケレン作業は、サビの状況によって使われる道具が異なります。
●電動工具の種類
ケレン作業に使われる電動工具は、サンダーまたはディスクサンダーが使われますが、電動ケレン、サンダーケレンと呼ばれることもあります。
刃の部分を付け替えて、使い方を自在に変更することができます。
外壁表面を広範囲に削ることに特化した、削る面が長方形になっているオービタルサンダーや、円形に削ることができるランダムアクションサンダーなどの種類もあります。
サンダーは、モルタル外壁の左官作業や防水工事で使われることもあります。
主にクラック補修で使われることが多く、ひび割れに沿って字にサンダーでカットし、シーリング材を補充して滑らかにしたあと、ひび割れの再発を防ぐ「弾性フィラー」と呼ばれる下塗り材でカバーします。
●手工具の種類
手作業で行うケレン作業で、最も多く使われるのが「紙ヤスリ」です。
研磨紙、サンドペーパーと呼ばれることもあります。
カンタンな塗膜やサビ落としのほか、小さな凹凸の補修や、補修作業の最後に行う、表面の仕上げにも使われます。
また、「ケレンハンマー」と呼ばれる、ケレン作業用のハンマーも使われます。
ケレンハンマーは、ハンマー部分の両側が特殊な形状になっており、細く尖ったほうで細い目地の汚れや塗膜を取り除き、角状になっているほうで、汚れを一気にそぎ落とせるようになっています。
「スクレパー」は、塗膜やサビなどの剥離作業に特化した工具です。
プラスチック製の簡易なタイプのほか、金属製の鋭利なタイプもあり、錆びや汚れの状態に応じて使い分けられます。
「皮すき」は、スクレパーに似ていますが、平たい金属板の片側が少し突き出た形状をしています。
突き出たほうの先端をひっかけて、サイディングボード目地のシーリング材コーキング材を取り除いたり、平たい側面を使って、汚れや塗膜を剥がしたりすることができます。
また、紙ヤスリでは手が届かない隙間や凹凸に使われるのが、「ワイヤーブラシ」という、繊維質のスポンジです。
繊維質が自由に変形するため作業性がよく、手が届きにくい隙間でも汚れにしっかり密着させることができます。
持ち手が付いた「ワイヤーブラシ」と併用することもあります。
●専用の薬剤
薬剤処理によるケレン作業では、外壁表面に残った古い塗膜を剥がす、専用の剥離剤が使われることがあります。
薬剤が古い塗膜だけを軟化させるため、外壁の素地を傷めずに剥離作業を行うことができるようになります。
また、鉄部の表面に発生したサビの場合は、サビを溶かす、酸性の薬剤が使われることがあります。
「酸洗浄」または「酸洗い」と呼ばれ、黒皮やもらいサビなどを、表面に付着した油と一緒に薬剤で洗い落とし、塗料が付着しやすい外壁表面を作ります。
2.ケレン作業の種類と費用
ケレン作業は、外壁の状態ごとに行うグレードが決まっています。
ケレン作業には4段階のグレードがあり、数字が大きくなるほど内容はカンタンなものになり、数字が小さいほど工事規模が大きくなり、費用も割高になります。
なお、国土交通省が定めた『改修共通仕様書』では、大型公共建築物のケレン作業について、「RC種」「RB種」「RA種」という3種類に分けられています。
参考:国土交通省『平成28年版 公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)』
http://www.mlit.go.jp/common/001157918.pdf(PDFページが開きます)
今回ご紹介するのは、住宅や、比較的規模が小さい建物で使われることが多い4種類のケレン作業です。
●1種ケレン
1種ケレンは、腐食やサビが特に激しい公共道路や大きな橋などの補修工事で行われるもので、住宅の外壁塗装ではほとんど行われません。
1種ケレンでは、「ブラスト工法」という方法が使われます。
ブラスト工法は、ブラスト処理とも呼ばれ、強力な機械で研磨剤を吹き付け、汚れと古い塗膜を剥がしながら、鉄部の金属面に傷をつけて塗料が付着しやすい表面を作る作業になります。
吹き付け時に粉末状になった塗料や研磨剤が周囲に飛び散らないように、吸引機も同時に動かすため、大きな音が出ます。
また、作業箇所の周囲も、飛散防止シートでしっかり養生しておかなければなりません。
さらに、薬剤でサビを溶かす酸洗浄が行われることもあるため、研磨剤や汚れの飛散と併せて、近隣への配慮が特に必要になります。
1種ケレンの平方メートルあたりの単価は、約4,500〜6,000円が相場となっています。
ただしこの金額は、公共工事におけるケレン作業の費用相場ですので、住宅で行う場合は、金額が若干異なると考えておいた方がよいでしょう。
通常、住宅の外壁が、1種ケレンが必要になるほど腐食が進んでいる時は、外壁材の張替えが行われるのが一般的です。
●2種ケレン
2種ケレンは、全体にサビの広がりがあるものの、比較的浅い部分までしかサビが生じていない外壁で行われます。
こちらも1種ケレンと同様に、一般住宅ではあまり行われません。
電動ブラシ、ディスクサンダーなどの電動工具のほか、スクレパーやワイヤーブラシなどを使って、手作業と併用して進められます。
薬剤による酸洗浄は行われません。
2種ケレンの費用相場は、約1,300〜2,000が、平方メートルあたりの単価となっています。
●3種ケレン
一般住宅の外壁塗装で最も多く行われているのが、3種ケレンです。
サビが比較的少なく、「活膜」と呼ばれる、既存塗膜のうち浮きや剥がれが起きていない部分が残っているような外壁で行われ、ほとんど手作業のみで作業が行われます。
基本的には、スクレパーでサビや損傷塗膜のみを落とし、最後に表面を紙ヤスリで磨いて仕上げます。
費用相場は2種ケレンの約半額程度で、約500〜1,000円/平方メートルとなっています。
●4種ケレン
こちらも戸建住宅で行われることが比較的多いケレン作業で、外壁の表面にほとんどサビが見られない、状態のよい外壁で行われます。
電動工具のほか、本格的な工具はほとんど使わず、紙ヤスリやブラシ、水洗浄のみで汚れを落とすため、ほとんど外壁の清掃のような内容となっており、外壁素地への負荷も少なく済ませることができます。
作業費用相場も約200〜400円/平方メートルと、非常に安くなっています。
■まとめ
外壁塗装といえば、塗料をハケで塗る作業や、足場設置などがメインに思われがちですが、工程全体の中でも非常に重要な意味を持つ工程が、今回ご紹介したケレン作業です。
塗装の完成度を高めるためには、ケレン作業によって、汚れや凹凸を取り除き、滑らかな表面に仕上げておかなければなりません。
そのため、外壁塗装の見積もりを見るときは、塗装や足場設置だけでなく、ケレン作業がしっかり含まれていることを確認しておくことが大切です。
もし、「ケレン」という文字が記載されていない場合は、「表面仕上げ」や「錆び除去」という項目がないか、またはケレンに該当する作業が含まれているか、外壁塗装業者に尋ねておきましょう。