どんなに丈夫な鉄筋コンクリートで建てられたマンションも、約10~15年も経つと、外壁表面の汚れや防水機能の低下など、なんらかの経年劣化が生じます。
通常、マンションの外壁塗装は、「大規模修繕工事」の中で行われます。
大規模修繕工事は、何よりもまず、居住者からの理解を得なければならず、優良なコンサルタントや塗装業者を選んで、安全かつ計画的に進めなくてはなりません。
この記事では、マンションで行う外壁塗装について、大規模修繕工事のポイントや注意点と併せて解説します。
目次
■マンションで外壁塗装を行うべき理由
平成23年に東京都が実施した『マンション実態調査結果』によれば、マンションの大規模修繕工事は、「実施内容の約8割以上が外壁塗装」という結果になりました。
参考:東京都『マンション実態調査結果について』
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2013/03/60n34100.htm
一体なぜ、ほとんどのマンションの大規模修繕工事では、外壁塗装が行われているのでしょうか?
その理由は、外壁塗装に、
- 美観の回復
- 耐久性の向上
という二つの効果があるためです。
1.外壁塗装で建物の資産価値を高める
多くの人が、「外壁塗装の効果」と聞いて真っ先に思いつくものといえば、カラーチェンジではないでしょうか。
マンションやアパートの外装の色を、新しい塗料で美しく塗り替えることで、美観が維持され、周囲の人の印象もよくなります。
見た目がよくなれば、マンションの資産価値維もおのずと向上し、空室対策にも繋げることができるでしょう。
●外壁表面の汚れを落とす
外壁塗装では、外壁や屋根表面の汚れを落とす「高圧洗浄作業」が不可欠です。
業務用の強力な高圧洗浄作業機で、泥や排気ガス、コケやカビ、剥がれかかった既存塗膜などの汚れを落とすと、外壁表面のクリーニング効果だけでなく、その後の塗装の作業性も高まるという効果があります。
高圧洗浄に関して詳しくは、「高圧洗浄で知らないと損な作業時間、圧力、単価、水道代の話」をご覧ください。
●カラーリングで印象アップ
もちろん、新しい塗料で塗り替えることによるカラーリング効果も大きな意味を持ちます。
古く色あせた塗料がなくなり、色つやも発色もよい塗料が新たに塗装されることで、マンションの印象も大きく向上し、入居者促進にも繋げることができるでしょう。
2.建物の耐久性を高める
外壁塗装の目的は、見た目をよくするだけではありません。
外壁塗装には、外装の保護機能を回復するという、非常に重要な目的があります。
●新しい塗装で保護機能を高める
塗料は、美しい色だけではなく、保護機能も持ち併せています。
塗装の主な保護機能には、
- 耐候性…紫外線や雨による建物本体へのダメージを抑える
- 防汚性…汚れが付着しにくくなる
- 防水性…建物本体、外壁下地への浸水を防ぐ
- 遮熱性…太陽熱を反射し、室内の温度上昇を抑制する
- 断熱性…室内の暖かい空気が屋外に逃げにくくなる
などがあります。
その他の塗装の機能に関して詳しくは「塗料に求める効果・性能の種類」をご覧ください。
大規模な塗装がなかなか行えないマンションでは、シリコン塗料やフッ素塗料など、グレードの高い塗料が使われる傾向にあります。
シリコン塗料の次にグレードが高いウレタン塗料も、外壁塗装ではポピュラーな塗料ですが、約10年以内に耐用年数を迎える恐れがあるため、マンションの外壁塗装には適していません。
なお、マンションの大規模修繕工事は、約12年に1度を目安に行うことが推奨されています。
●外装の防水効果を高める
マンションの外壁材は、ALC(軽量気泡コンクリート)パネルの上に、吹き付けタイル仕上げで施工されたものが一般的です。
ALCに関して詳しくは「ALCパネルの外壁塗装工事について、塗装の時期と塗装材料」をご覧ください。
吹き付けタイル仕上げとは、タイル風に塗料を吹き付けて作る外壁のことです。
吹き付けタイル仕上げの外壁は、塗料にひび割れ(クラック)が起きて、隙間から浸水することがあるため、約10年に1度のひび割れ補修、再塗装が必要です。
また、3~5階建てなど低層のマンションは、外壁表面に本物のタイル材が貼られていることがあります。
タイル材は、劣化すると、浮きや剥がれが生じ、防水性能が低下してしまいますので、外壁塗装の際に、タイル材の張替えや浮きの補修が必要です。
■マンションの外壁塗装は「大規模修繕工事」に含まれる
マンションの外壁塗装は、「大規模修繕工事」の工程の一貫として行われます。
1回あたりの修繕費用が、数百万~数千万、タワーマンションであれば数億円にもなる大規模修繕工事を行うためには、専門委員会の設置や区分所有者への説明会などを経なければなりません。
また、改修工事を任せる業者選びや、大規模修繕工事をサポートしてくれる専門家の選定も大切です。
1.大規模修繕工事の専門委員会を作る
マンションの外壁塗装は、3階建てなど低層のマンションであれば、半年で終わることもありますが、5階建てなど中規模以上のマンションになると、約1~3年という長期間の工事になります。
通常業務も抱えているマンションの管理組合だけでは、この期間中、塗装業者選びや、業者との打ち合わせに常に時間を割くことができません。
さらに、大規模修繕工事の途中で役員が任期を迎えてしまう可能性があることから、適切な計大規模修繕計画を立てるためにも、居住者で構成された修繕委員会が立ち上げられます。
もちろん、余裕があれば、管理組合のみでも運営することは不可能ではありませんが、業者選びや見積もりの比較がおろそかになり、適切な価格で工事が行えない恐れがあります。
●修繕委員会の募集方法
修繕委員会のメンバーは、建築や塗装の有資格者や実務経験者を1人は選んでおくと良いでしょう。
施工業者の選定や業者との打ち合わせを、スムーズに進めることができるようになります。
また、居住者全員の意見を大規模修繕工事に反映させるために、老若男女にばらつきを持たせて、修繕委員会の意見が偏らないようにする配慮も大切です。
2.施工業者を選ぶ
大規模修繕工事の業者選びには、主に2通りの発注方式が存在します。
●責任施工方式
責任施工方式とは、工事の設計から施工までを、リフォーム会社や建築会社など、1つの施工業者に一貫して依頼する発注方式のことです。
責任施工方式では、業者選びが、外壁塗装、ひいては大規模修繕工事の命運を分けると言っても過言ではありません。
作業内容が多岐に渡る大規模修繕工事では、外壁塗装だけでなく、あらゆる箇所の補修について打ち合わせを行わなければなりません。
そのため、外壁塗装やリフォームの専門知識がない管理組合だけでは、業者の提案内容の良し悪しを判断できず、打ち合わせが難航する恐れがあります。
ただし、設計から工事までを1つの業者に委託できるため、打ち合わせと作業の内容がずれることがなく、業者によっては修繕計画の作成までサポートしてもらえることがあります。
●設計監理方式
設計監理方式とは、建築士やマンション管理士などのコンサルタントに、大規模修繕工事について相談しながら進める発注方式のことです。
実際の施工は別の工事業者や塗装会社が行いますが、その施工の管理もコンサルタントが行うため、手抜き工事を防ぎやすく、安全に外壁塗装と大規模修繕工事を進めることができます。
ただし、コンサルタントと工事業者が癒着していた時、管理組合が気づかないようにマージンを引き上げられていたり、必要性の低い工事を行われたり、手抜き工事を見て見ぬふりされたりするケースもないとは言い切れません。
そのため、設計監理方式においては、最初のコンサルタント選びが最も重要になります。
コンサルタントにも、戸建て住宅のリフォームが得意な業者もあれば、小規模のマンションの外壁塗装経験しかない業者など様々な特徴がありますので、過去の実績をもとに、外壁塗装・大規模修繕工事を行う建物にぴったりのコンサルタントを見つけましょう。
なお、設計監理方式では、工事業者に支払う工事費用とは別に、コンサルタントへの報酬も、工事費用の約3~10%ほど発生します。
しかし、コンサルタントの目線で、工事業者からの見積もりを厳しくチェックしてもらえますので、コンサルタント費用以上の節約効果も期待できます。
■マンションで行う外壁塗装の流れ
施工業者が決まり、大規模修繕工事の実施が管理組合の理事会で承認されたあとは、いよいよ外壁塗装に入ります。
マンションの外壁塗装で欠かせないのが、居住者の協力体制です。
塗装や養生中にベランダが使えないことや、業者の出入りがあること、各工事項目で行われる作業の内容や注意点を、住民説明会でしっかり伝えておきましょう。
1.住民説明会の開催
大規模修繕工事では、着工前に、施工業者による居住者への説明会が開催されます。
工事期間や内容を説明するだけでなく、ベランダや駐車場など工事中に使用できない設備があることや、騒音が発生することなども、きちんと補足しておきましょう。
また、工事期間中の緊急連絡先も用意しておくと、工事中のトラブル対応がスムーズになります。
2.足場の設置
3~5階のマンションでは、戸建て住宅と同じように枠組み足場を仮設します。
一方、高層階のマンションや、建物の周りに足場を設置できない立地の時は、無足場工法での施工が一般的です。
●無足場工法とは
無足場工法とは、鋼材の枠組み足場を仮設せずに行う工法の総称です。
ロープやブランコを身に付けた作業員が、屋上から命綱で吊り下げられた状態で作業を行うこともあれば、屋上から作業員が入ったかご(ゴンドラ)を吊り下げて行うこともあります。
どちらの工法でも、落下防止のための安全ネット設置費用や、誘導する警備員の人件費といった安全対策費が必要になるため足場にかける費用が0円になるわけではありません。
そのため、「足場代が無料になりますよ」といって契約を急がせ、相場以上の安全対策費で儲けを得ようとする悪徳業者には、くれぐれも注意しましょう。
足場に関して詳しくは、「外壁塗装に足場は必要?足場の重要性と費用相場について」をご覧ください。
3.下地補修作業
塗装に入る前に、コンクリートや塗装のひび割れや、剥がれや浮きが生じているタイルの補修、目地部分のシーリング工事といった、下地補修工事が行われます
●ひび割れの補修方法
コンクリートや塗料の表面のみに生じている、0.3mm未満の軽微なひび割れは、ポリマーセメントモルタルでカバーする「フィラー処理」で補修が可能です。
0.3mm以上のやや大きいひび割れに対しては、割れに沿ってU字またはV 字にカットし、内部にシーリング材(コーキング材)を塗布して、ポリマーセメントモルタルを充填する「Uカット(Vカット)シーリング処理」が行われます。
●タイルの補修方法
欠けたり剥がれたりしているタイルを放置すると、落下して人や車に当たってしまう恐れがあるため、外壁塗装の際にしっかり補修しておかなければなりません。
欠けやひび割れが生じているタイルは、電動工具を使って剥がし、新しいタイルに張り替えます。
この時、古いタイルと新しいタイルの色味が変わってしまわないように、新しいタイルに焼き付け処理を行って、色味を調整する作業が行われます。
一方、下地から浮いていて、タイル材自体に劣化が見られない時は、継ぎ目に電動工具で細い穴を開け、エポキシ樹脂を注入して接着することが可能です。
ただし、タイルの浮きがコンクリート下地の劣化で起きている時は、いったんタイルを剥がし、コンクリート下地の目粗しを済ませたうえで、再度張り直す必要があります。
●シーリングの打ち替え
シーリング材とは、コンクリート同士の継ぎ目や、サッシとの境目に充填されている部材のことです。
紫外線や雨水でシーリングが劣化すると、裂けや痩せが生じ、建物の気密性が低下してしまいますので、シーリングの補修は、外壁塗装では重要な工程のひとつです。
シーリングの補修では、古いシーリング材を撤去し、新しいシーリング材を注入する「打ち替え」が行われます。
シーリング劣化の症状がひどくない時は、古いシーリング材の上から新しいシーリング材を補填する「打ち増し」という方法が行われることもあります。
打ち増しは、打ち替えの約7割程度の費用で行うことができますが、何度も点検が行えないマンションでは、できるだけ打ち替えでしっかり補修しておくとよいでしょう。
4.養生・高圧洗浄作業
養生と高圧洗浄も、外壁塗装では欠かせない作業です。
特に、養生期間中は、マンション住民の生活にも様々な制約が生じますので、しっかり内容を把握しておきましょう。
●養生作業
塗料が周辺に飛散しないように、塗装箇所の周辺や、駐車場の車や植木などを、テープやビニールなどの養生材で覆います。
養生期間中は、各居住者のベランダやエアコンの室外機も、ビニールで覆われることになります。
この時、ベランダに置いている私物は、居住者に移動してもらわなければなりません。
さらに、居住者は塗装工事のあいだ、窓や室外機が覆われて換気が行えなくなり、洗濯物もベランダに干せなくなってしまいます。
工事期間を事前に説明しておくことはもちろん、工事期間が遅れた場合は、迅速に変更内容を連絡するなどの、住民へのサポートが大切です。
●洗浄作業
塗装の前に、外壁周囲の汚れを洗浄することで、新しい塗料が外壁に密着しやすくなります。
通常は、高圧洗浄機の水で汚れを落としますが、汚れがひどくない箇所や、繊細な作業が必要な箇所は、手作業で慎重に汚れを落とさなくてはなりません。
また、タイル外壁では、高圧洗浄機の水圧でタイルが破損する恐れがあるため、薬剤による表面の洗浄が行われることもあります。
5.塗装作業
塗装作業は、下塗り・中塗り・上塗りの計3回の重ね塗りが必要ですので、1日では終わりません。
そのため、養生後も、約5日~1週間ほど、換気が行えずベランダも使えない状態が続き、塗料の臭いも発生しますので、居住者からの十分な理解が必要です。
●居住者への臭い対策は慎重に
外壁塗装で最も配慮しなくてはならないのが、臭い対策です。
臭いの原因は、塗料を薄める時に使う「シンナー」ですが、近年では、強烈な臭いを放つシンナーではなく、水で薄めて使用できる「水性塗料」の開発も盛んになってきました。
そのため、塗装作業中も、強い刺激臭が発生せず、居住者に安心して過ごしてもらうことができます。
ただし、水性塗料も完全に無臭ではありませんので、塗装中に一時的に臭いが発生することは、忘れずに伝えておきましょう。
●鉄部の塗装
共用部やベランダの手すり、エントランスや各部屋の玄関扉など、鉄部の防錆塗装も、外壁表面の塗装、屋上・ベランダの防水に次いで、重要な作業です。
鉄部の塗装に使われる塗料は、薄め液にシンナーを使うものが一般的です。
そのため、外壁の塗装以上に、住民からの理解が必要となります。
また、サビの進行がひどいほど、サビを落とす作業(ケレン作業)の手間もかかり、費用も高額になってしまいます。
サビが広がって部材の腐食が進む前に、大規模修繕工事の際に、必ず鉄部の塗装も済ませておきましょう。
6.防水工事
屋上やベランダ・バルコニー防水工事は、外壁塗装工事に次いで、ほとんどの大規模修繕工事で行われる工程です。
屋上とベランダそれぞれで、工程や工法には違いがあります。
●屋上の防水工事
屋上の防水工事は、
- FRP防水
- ウレタン防水
- シート防水
- アスファルト防水
の、いずれかの工法で行うことになります。
鉄筋コンクリート造のマンションでは、厚く丈夫な防水層ができるアスファルト防水工法が選ばれる傾向にあります。
●ベランダの防水工事
狭く、作業範囲が限られるベランダは、作業性が高いFRP防水工法やウレタン防水工法による施工が一般的です。
FRP防水とは、下塗り塗料の上に、ガラス繊維シートを継ぎ目が出ないように重ね、さらに塗料を塗り重ねて行う防水工法です。
ウレタン防水には、シートと塗料を組み合わせて防水層を作る「通気緩衝工法」と、塗料のみで防水層を作る「密着工法」の2種類があります。
なお、ベランダに床置きの室外機が設置されているマンションでは、防水作業の前に、室外機の架台仮上げ、または一時撤去が行われますので、この点も居住者に説明しておかなければなりません。
■おわりに
マンションにおいて、大規模修繕工事によって、外装の美観と耐久性を保つことは、入居希望者への大きなアプローチとなるだけでなく、現在住んでいる居住者に、居心地のよい住環境を提供することが可能です。
しかし、大規模修繕工事では、劣化箇所の補修にあたって、居住者へ理解を求めなくてはならない場面が何度も登場します。
大規模修繕工事という大きな節目で行われる、マンションの外壁塗装を、居住者からの理解を得ながら進めるためにも、各工程の目的や作業内容を押さえておきましょう。