家族に喘息(ぜんそく)を患っている人がいて、外壁塗装をしても悪影響がないかご心配な方もいらっしゃるかもしれません。
外壁塗装は屋外で行われますので家の中にいれば安全なように思えますが、工事中の飛散物や使用する塗料が呼吸器系に影響を与える恐れがあるため、前もって対策しておかなければなりません。
この記事では外壁塗装と喘息の関連性と、ご家族に喘息を患っている方がいるとき知っておきたい工事前の対処法などについてご紹介します。
目次
■外壁塗装が喘息を悪化させることがある
外壁塗装工事はただ塗料を外壁や屋根に塗るだけではなく、建物の周りに足場を設置し外壁表面の汚れを取り除いたあと、塗料を外壁表面に塗装して家を保護します。
この塗装に関する様々な作業の中に、塗料の成分や下地作業中の粉塵など、喘息の症状を悪化させる可能性を持つものが複数存在することを押さえておきましょう。
1.外壁表面の汚れが呼吸器系に影響を与える
外壁塗装では塗料を塗る前に、塗料が外壁や屋根に密着しやすいように建物の表面を清掃してひび割れや汚れを除去する作業が行われます。
まず「高圧洗浄作業」で外装表面に付いている汚れを落とし、塗料が付着しやすい状態を作ります。
次に「下地調整作業」で外壁や屋根のひび割れや高圧洗浄でも除去できなかった異物を取り除き、塗装しやすい下地を作ります。
高圧洗浄作業では汚れが水で洗い流されますので周囲にもくもくと汚れの粉が立ち上がることはありません。
しかし下地調整作業では外壁や屋根の表面をヤスリや工具で削ることがあり、このときに風にのって粉がまう恐れがあります。
また外壁塗装工事中は建物の周りが足場と養生ネットに囲まれ通気が悪くなり、養生用のビニールシートで窓やベランダ、エアコンの室外機などが覆わるため、窓を開けられずエアコンも使えなくなり室内は換気を行いづらい状態になります。
そのため臭いが建物周りにたちこめやすく、呼吸器系に疾患のある方はできるだけ外出を控えた方が望ましいでしょう。
2.塗装で使用する塗料が人体に悪影響を及ぼす
外壁塗装で使用する塗料は基本的に安全規格をクリアしたものばかりです。
シックハウス症候群による健康被害が全国的に問題視されたことをきっかけに、ホルムアルデヒドなどの有害物質を含む危険な建材は徐々に規制対象となりました。
そのため、現在住宅に使われている建材は、規制前よりも安全なものばかり使われています。
そのため通常は塗料を使っただけで人体に重大な悪影響を及ぼすことはありませんが、すべての人に何の影響も出ないとは限らないため油断はできません。
小さなお子様が使う絵の具と違って、外壁塗装用の塗料には様々な化学物質が多く配合されています。
塗装工事中に、作業員がシンナーを伴う溶剤塗料の使用方法を誤って有機溶剤中毒になり倒れた事故も実際に報告されていますので、塗装用の塗料は取り扱いに細心の注意を払わなければならず、取り扱いには資格も必要です。
■なぜ塗料が喘息に悪影響を及ぼすのか
喘息とは、慢性的な気道の炎症状態を差し、喘息を患っている人はわずかな刺激でも咳や呼吸困難といった喘息の発作が起きてしまうため、汚れや菌が多い場所には近づかないよう日常的に注意を払っています。
先ほど挙げた「下地調整作業中の塵やホコリ」などについては、工事音を聴いただけでも危険と判断できるため喘息持ちの方は近づこうとはしないでしょう。
しかし外壁塗装の塗料が喘息と関係性があるとは気づきにくいため、うっかり工事中に塗料の臭いを吸い込むと重大な症状を引き起こす恐れがあります。
塗装工事を業者に依頼する前に、塗料の臭いが喘息に悪影響を及ぼすメカニズムについて知っておきましょう。
1. 有機溶剤は喘息に深刻な影響を及ぼす恐れがある
塗料は希釈材という薄める材料を混ぜて使いますが、希釈材の種類の違いによって「溶剤系塗料(油性塗料)」と「水性塗料」という違いがあり、喘息に深く関わる種類は「溶剤系塗料」になります。
溶剤塗料は薄め液として、強い刺激臭を発生させる「シンナー」を使いますが、シンナーにはトルエンやキシレン、エチルベンゼンなどの有機化合物が含まれており、この化合物が強いにおいの原因となっています。
シンナーは強い刺激臭と中枢神経麻痺作用を持っている有害物質で、大量に吸い込むと以下のような症状が現れます。
- 頭痛
- 吐き気
- 倦怠感
- 幻覚、妄想、意識喪失
- 呼吸困難
- 泥酔状態
上記のようにシンナーは人体にとって危険な症状を引き起こし、喘息の原因物質でもあります。
しかしシンナーは工事を行う上では使用を避けられない材料のひとつです。
シンナーなどの有機溶剤を使う溶剤系塗料で塗装するときは、現場に「有機溶剤作業主任者」を必ず置かなければなりません。
また、空気中の濃度測定や作業員の健康診断などを実施し、作業中にシンナーが肌に触れたり大量に吸い込んだりしないように防毒マスクや手袋を装着することなども、有機溶剤を取り扱うためのルールとして厚生労働省よって定められています
2.水性塗料と溶剤系塗料の違い
塗料のタイプは溶剤系塗料だけではなく、先ほど少し紹介した「水性塗料」もあり、水性塗料はシンナーなどの有機溶剤ではなく、水を主成分として作られています。
水性塗料は真水で薄めて使用できるため、塗装時にシンナーの強い刺激臭を伴いません。
臭いという点でももちろん、人体や環境にも優しいため、各塗料メーカーは 水性塗料の開発に積極的になっています。
また、従来まで水性塗料は溶剤系塗料より耐久性が劣っているものでしたが、徐々に水性塗料も改良されつつあり、このような背景から戸建て住宅の外壁塗装では水性塗料がメインで使われるようになりました。
さらに、溶剤系塗料は「主材」と「硬化材」の2種類の缶に分かれているタイプが多く、現場で混ぜて使用しなければならないため、搬入する缶の量も多く作業の手間も1缶で済むタイプに比べると倍かかります。
※このように主材と硬化剤が2種類の缶に分かれている塗料は「2液型タイプ」と呼ばれます。
一方、水性塗料は1つの缶だけで使える「1液型タイプ」ですので現場に持ち込む塗料缶の数も少なく、安全性と使いやすさの両面で工事業者側からも支持されて現場で使われることが多くなりました。
3.水性塗料が喘息に全く影響しないわけではない
注意しておかなければならないのが、水性塗料を使ったからといって、まったく喘息に影響がなくなるわけではなく、塗料の臭いが完全に消えるわけでもないことです。
もし喘息持ちの家族がいることを塗装業者に相談して「水性塗料を使うので大丈夫ですよ」と言われても安心してしまわないように注意しましょう。
さらに、水性塗料は溶剤系塗料に比べるとやや耐久性が低く外壁に密着する力が高くはないため、鉄骨階段や手すりといった鉄部の金属に水性塗料を塗装しても、商品の種類によっては塗料がはじかれてしまうというデメリットがあります。
そのため外壁部分は水性塗料で塗装できても、金属系の雨樋などは溶剤系塗料で塗装しなければならないというように、溶剤系塗料の使用を避けられない建物もあります。
特に近年は水性塗料の臭いの少なさが注目されていることから、水性塗料での塗装を希望する人が増えてため、ただ水性塗料を使ってほしいと塗装業者に伝えても「臭いを減らしたいだけ」と思われて、知らぬ間に部分的な塗装に溶剤系塗料を使われてしまう恐れがありますので、「喘息を患っている家族がいるので水性塗料を使って欲しい」と、ご家族の事情を必ず業者に伝えましょう。
施工業者との打ち合わせでは必ず呼吸器系に疾患を持つ家族がいることを伝え、やむを得ず溶剤系塗料を使う必要がある場合は使用する前に必ず知らせてもらうなどの配慮が必要です。
■喘息の家族がいる家で外壁塗装を行う方法
外壁塗装工事は喘息を患っている方がいるご家庭にとって、様々な危険性を孕んでいます。
とはいえ外壁や屋根の塗装は約10年も経てば紫外線や雨などで必ず劣化してしまいますので、塗装を避けて劣化を放置すれば、塗装が耐久力を失い外壁や屋根自体が劣化してしまい、雨漏りや躯体の耐久性低下などさらに劣化症状が進行してしまいます。
家に住み続ける限り必ず実施しなければならない外壁塗装を喘息の方に配慮して実施するためには、以下の方法などで対策を講じておきましょう。
1.塗装工事の期間中だけ避難する
外壁塗装中に喘息の方が安全に過ごす最も効果的な方法は、工事期間中だけ避難することです。
外壁塗装工事では、全工程が終わるまでに約2週間の日数を要しますので、その間、ウィークリーマンションや親戚の家を仮住まいにするなどして、塗装が行われる建物から離れておくとよいでしょう。
また、外壁塗装工事は外壁や屋根など建物の外側で作業が行われ、室内で行わなければならない作業はほとんどありませんので、施主が在宅していなくても職人だけで作業を進めることができます。
施主が在宅していなければならない日を事前に塗装業者から教えてもらい、その予定に合わせて仮住まいを探すとよいでしょう。
●仮住まいの費用も塗装の必要経費と考える
喘息を悪化させないためとはいえ、「なぜ外壁塗装工事のために、わざわざホテルなどに泊まって余計な費用を負担しなければならないのか」と不満を感じてしまう方いらっしゃるかもしれません。
確かに一時的にでも仮住まいを用意するとなれば、家に泊めてくれる親戚や知人を探さなければならず、ホテルやウィークリーマンションを利用せざるを得ない場合も塗装が終わるまで宿泊すると20万円前後のホテル代がかかり、さらに通勤や通学などの日常生活も一時的に不便になってしまうでしょう。
しかし、仮住まいが発生するのは塗装工事だけではなく、家一棟の建て替えリフォームを行うときも発生し、建て替えの仮住まいは塗装よりもさらに大きな負担となります。
建て替え工事中は塗装工事と違って絶対に在宅できませんので、仮住まいは絶対に必要ですし、家一棟を建て替えるためには700~2,000万円ほどの非常に高額な工事費用がかかります。
それに比べると外壁塗装の工事費用相場は70~90万円ですので、建て替えなどの規模が大きな住宅リフォームに比べれば少ない費用で工事が行えます。
何より、大切なご家族の健康被害を避けるためと考えれば、仮住まいの費用も外壁塗装に必要な経費のひとつと考えることができます。
「塗装の臭いくらい問題ない」と油断したばかりに症状が深刻になった時では遅すぎますので、仮住まいの選択肢も視野に入れておくことをおすすめします。
2.塗装中に在宅する場合の対処法
「工事期間中どうしても家を離れることができない」「仮住まいが用意できない」という方ももちろんいらっしゃいます。
そのようなときは在宅でもできる方法で塗装の臭いから身を守らなければなりません。
●臭い対策のマスクを入手しておく
有機溶剤を使用する作業員は必ず防護マスクを装着し、臭いが目・鼻・口から入らないようにガードしています。
本格的な防毒マスクを用意すると1,500~5,000円になりますが、仮住まいよりは低予算で行える臭い対策と言えます。
24時間常に調理や洗濯などの家事を行いながら防護マスクを装着し続けるのは現実的ではありませんので、市販の布マスクやタオルも併用して、塗装が行われていない臭いが少ない時間帯で使い分けると良いでしょう。
●塗装作業期間だけ避難する
もし「避難したいけど2週間も家を空けるのは難しい」という事情があれば、塗装作業期間中に限定して建物から避難するという方法もあります。
約2週間におよぶ外壁塗装工事期間のうち、塗料が使われる期間のは6~10日間と、工事期間のほぼ半分以上に及びます。
塗装は3回の重ね塗りを経て行われ、さらに1工程ごとに24時間以上の乾燥時間が設けなければなりません。
外壁の塗装作業の流れ
- 下塗り×1…1日
- 下塗りの乾燥…1日
- 中塗り×1…1日
- 中塗りの乾燥…1日
- 上塗り×1…1日
- 上塗りの乾燥…1日
ちなみに下塗りとは、外壁に仕上げ用塗料が密着するように、接着剤代わりとなる下地材を塗布する工程で、この工程を怠るとどんなに強力なシリコン塗料やフッ素塗料を塗装しても施工後に塗膜がすぐに剥がれたり縮んだりしてしまいます。
次の中塗りと上塗りではシリコン塗料などの仕上げ用塗料を使って塗装が行われますが、同じ塗料を2回重ね塗りすることによって紫外線や雨に強くムラのない丈夫な塗膜を作ることができます。
外壁だけでも最低6日は必要ですが、途中で雨が降ったり台風が接近したりすれば日数が延びることもあります。
また屋根のほか雨樋、雨戸などの付帯部も塗装すれば一週間以上の塗装作業期間となり、外壁下地の劣化が激しい時は下塗りが2回行われて作業日数も長くなります。
外壁塗装のスケジュールは現場の状態(どれくらい劣化しているか、材質、周辺の環境など)によって変動しますので、塗装期間中に外出する場合や、喘息をお持ちで一時的にでも避難したいときは、塗装業者から塗料を使うスケジュールをあらかじめ教えてもらいましょう。
■おわりに
外壁塗装工事は場合によっては喘息の症状を引き起こしたり、重症化させたりすることもあるため、工事前にしっかり対策しておくことが肝心です。
特に溶剤系塗料を使うときは建物の周りだけでなく室内にも刺激臭がたちこめますので、気管支が弱い方が長期間滞在するのは避けた方が無難です。
ご自宅の塗装を依頼する業者には、家族の中に喘息を患っている人がいることを必ず伝え、水性塗料を選んでもらったり溶剤系塗料の使用範囲を短くしたりするなど、喘息の症状を悪化させない工事プランを考えてもらいましょう。