外壁塗装で剥離剤が使われるケースと使用時の注意点

古い塗膜を剥がすことは外壁塗装の基本的な工程ですが、この時「剥離剤」が使われることがあります。

しかし、戸建て住宅の塗膜剥離作業は高圧洗浄機や手作業のみで済みますので、剥離剤などの薬剤が使われることはあまりありません。

 

この記事では、外壁塗装工事で剥離剤が使われるケースや、剥離剤を使用するときの注意点などについて解説します。

■塗装前は外壁の古い塗膜を剥がす必要がある

外壁塗装工事において、剥離剤は古い塗膜(既存塗膜、死膜)を剥がすときに使われます。

 

剥離剤について調べる前に、まずは外壁塗装工事でなぜ古い塗膜を剥がす必要があるのか知っておきましょう。

1.古い塗膜が残っていると塗料が密着しない

古い塗膜とは、以前に塗装された時にできた塗膜のことです。

 

外壁塗装工事の目的は、古い塗膜を除去して耐久性が高い塗膜を新しく作ることです。

古い塗膜は再利用できませんので、塗装前に剥がしておく必要があります。

もし古い塗膜を残したまま上から塗装しても、塗装から数年後に施工不良が起きてしまい、工事を行った意味がなくなってしまうためです。

●古い塗膜が施工不良を引き起こす理由

塗料は外壁にぴったり密着することで「活膜」となって、外壁を長期間守り続けることができます。

密着できなかった塗料は施工不良を起こしてしまい、本来想定されていた耐用年数より早く耐久性を失ってしまいます。

 

塗装する外壁や屋根の表面に異物や水分が残っていると、以下のような施工不良が起きます。

  • 塗膜が自然に剥がれ落ちてしまう
  • 塗膜表面がひび割れてしまう
  • 塗膜に気泡が生じる

など

 

外壁塗装は使用した塗料のグレードで耐用年数が異なりますが、現在主流になっているシリコン樹脂塗料であれば10~15年、ラジカル塗料であれば14~16年は持つと言われます。

また、より耐久性が高い塗料を選べば20年近く耐久性を維持させることも可能です。

フッ素樹脂塗料は15~20年、光触媒塗料は16~22年が耐用年数の目安となっているため、どの塗料を選んでも基本的に10年間は、剥がれや気泡などの施工不良は起きません。

 

施工不良が起きた塗装は5年前後で劣化し、耐久性を失ってしまうでしょう。

●古い塗膜を剥がす方法は3種類

古い塗膜を剥がす方法は主に3種類存在します。

 

  1. 高圧洗浄機やヤスリで物理的に洗い落とす方法
  2. 電動工具で削り取る方法
  3. 剥離剤などの薬剤で落とす化学的方法
  4. 加熱して膨張させて剥がす方法(焼き剥き)

 

戸建て住宅の外壁塗装で行われるのは、「1」の高圧洗浄機による「高圧洗浄作業」や、「下地調整(下地処理)」の過程で行われる「2」の方法です。

 

「高圧洗浄作業」と「下地調整」はどの外壁塗装の見積もりでも必ず記載されています。

なぜなら、古い塗膜以外にも外壁表面にはホコリ、泥、排気ガス、カビ、コケ、錆びなどの異物が付着していますので、塗装前に必ず高圧洗浄機やヤスリなどで落とさなければなりません。

 

もしこれらの異物を残したまま塗装すると、塗料の外壁への密着を阻害して施工不良を引き起こしてしまいます。

 

「3」と「4」は費用が高額になるだけでなく、誤って塗装箇所本体も傷める恐れがあるため、戸建住宅の外壁塗装で行われることはほとんどありません。

2.古い塗膜の除去に使われる「剥離剤」とは

剥離剤とは古い塗膜を剥がす薬剤のことで、リムーバー、または軟化剤とも呼ばれます。

 

剥離剤を古い塗膜の上に刷毛やスプレーで塗布すると、薬剤が塗膜面に浸透して内側から樹脂の結合力を破壊します。

すると、外壁表面で固まっていた塗膜がボロボロの布のように柔らかくなり、外壁への付着力が低下します。

こうして柔らかくなった塗膜を、スクレパーやケレン棒と呼ばれる工具や、高圧洗浄機を使って除去して行くのが剥離作業です。

 

戸建て住宅の古い塗膜はほとんど高圧洗浄のみで落とすことができますが、状況次第では剥離剤が使われます。

※剥離剤が使われるケースについては次の見出しで詳しくご紹介します。

 

また薬剤を使った剥離作業は、高圧洗浄機や電動工事を使ったときの騒音や粉塵を防げるというメリットもあります。

●剥離剤の種類

剥離剤には以下のタイプがあり、成分の違いによって下地に与える影響も異なります。

そのため剥離剤を使用する時は、使用する箇所の素材と相性のよいタイプを選ばなくてはなりません。

タイプ 特徴
ジクロロメタン系 塩素系とも呼ばれる

有機溶剤の「ジクロロメタン(塩化メチレン)」が含まれている。

プラスチックやゴム製品を溶かしてしまう

非ジクロロメタン系 ジクロロメタンを使わずに作られた環境対応型の剥離剤。

プラスチックやゴム製品を溶かしてしまう。

強アルカリ系 水溶液タイプとも呼ばれる

アルミニウムなど一部の軽金属を侵食してしまう

中性タイプ 銅などの一部の金属を侵食してしまう
酸性タイプ 鉄部を侵食してしまう

いずれも人体に付着したり臭いを嗅いだりすると健康被害を引き起こす恐れがあるため、取り扱いには注意が必要です。

■塗装工事で剥離剤が使われるケース

古い塗膜は高圧洗浄機と工具でほとんど落とすことができます。

そのため剥離剤は塗装工事に必須の部材というわけではありませんが、以下のようなケースに限り使用されることがあります。

1.大型施設のメンテナンス

マンションやビル、橋梁や空港など大型公共建築物のメンテナンスでは、鉄部や外壁の補修に剥離剤が使われることがあります。

大型施設で行う部材交換リフォームは、戸建て住宅に比べて高額の費用が発生し改装工事中は多くの人の生活に支障が出てしまいますので、何度も行えるものではありません。

そのため、剥離剤を使ったメンテナンスが行われる傾向があります。

 

あるいは病院や飲食店、オフィスなどの床に塗られたワックスを塗り替える時などにも使われます。

ワックスが劣化して清掃しても汚れが落ちなくなったり、ワックス施工時に髪の毛などが混入していたりした時は、一度剥離剤を使って古いワックスを除去して新しいワックス層を作ります。

2.木部の塗装時

木材は、玄関ドアやウッドデッキ、屋根の側部に設置されている鼻隠しや破風板など、家のあちこちに使われています。

 

木材は湿度に反応して膨張と収縮を繰り返す素材です。

木材に外壁や屋根用に使う「膜を形成するタイプの塗料」を上から塗装しても、木材の動きで塗膜が割れてしまいます。

 

そのため木部の保護にはニスや「浸透するタイプの塗料」が使われていますので、木部を再塗装するときは、これらの塗料を除去する効果を持つ剥離剤が使われます。

剥離剤を塗布したあとは表面をケレン処理し、そのあと新しい木部用塗料を塗装します。

3.塗装をやり直す時

戸建て住宅で剥離剤が使われるケースとして最も多いのが、事情があって塗装を塗り直すときです。

通常、塗装の塗り替えは10~15年に1度で済むものですが、前回施工した業者が手抜きをしたり施工をミスしたりしていると2~5年以内に塗装の剥がれや膨れなどの施工不良が起きてしまいます。

 

このような状態の塗膜では外壁が保護されませんので、剥離剤を使って悪い塗膜を除去し、正しい施工手順で新しい塗料を塗り直す必要があります。

●施工不良の原因を見極められる業者に頼むこと

塗装の施工不良は様々な原因で生じます。

先述したように外壁表面に異物や水分が残っていたときには施工不良が起きますが、他にも、

  • 外壁と相性の悪い塗料を選んだ
  • 下塗り材を塗装せずに仕上げ用塗料を塗装してしまった
  • 3回の重ね塗りを怠った
  • 塗料を規定量以上に薄めて使用した

なども施工不良に繋がる悪い施工例です。

 

剥離剤を使って塗り直しても、塗り直す業者が前の業者と同じ施工をしてしまっては意味がありません。

 

施行不良が原因の塗り直しを依頼するときは、「なぜ施工不良が起きてしまったか」「前の業者がどんな施工をしたか」を施主にしっかり説明してくれる業者を選ぶことがポイントです。

■剥離剤を使う時の注意点

戸建て住宅の塗装では、できるだけ剥離剤を使わない方がよいでしょう。

剥離剤を使用すると工事費用が高額になるだけでなく、以下のようなデメリットが発生します。

1.剥離作業が外壁や屋根の素地を傷めてしまう

剥離剤を古い塗膜に浸すと溶けてドロドロにはなりますが、パラパラとめくれて自然に地面に落ちてしまうわけではありません。

 

剥離剤で塗料を溶かした後は、ヘラなどの金属の工具を使ってすばやくガリガリと削り取る作業が必要です。

この作業が外壁を傷めることになり、建物本体に大きな負担となってしまいます。

上記の画像では下地ごと削り取っていますが、剥離作業でも施工を誤ると同様の状態になると考えられます。

 

また、1回ではすべての塗膜を除去できませんので、剥がれなかった部分には再び剥離剤をかけてさらに何度も下地をこすらなくてはなりません。

 

高圧洗浄機で溶けた塗膜を吹き飛ばすことも可能ですが、塗膜の破片が水に乗って周囲に飛散する恐れがあります。

飛散した破片には剥離剤が含まれていますので、敷地内で飛散した破片を回収し忘れると、付着した箇所を剥離剤が傷めてしまうかもしれません。

 

このように、剥離作業は非常に繊細かつ危険を伴うため、養生や清掃を普段以上に入念に行う必要があります。

●薬剤自体が建物を傷めてしまう

剥離剤にはアルカリや酸などの化学物質が含まれています。

そのため塗布回数や塗布量、タイプ選択のいずれかを誤ると、古い塗膜だけでなく金属、プラスチック、ゴムなどでできた部材まで傷めてしまうことがあります。

 

外壁や屋根の素材と相性のよいタイプを使えば問題はありませんが、そもそも塗料を溶かすほどの威力を持つ薬剤ということを考えれば、剥離剤が建物に与える負荷は0ではないと言えるでしょう。

2.強い臭いが発生する

剥離剤はどれも使用時に臭いを発生させます。

 

外壁塗装工事で使用する塗料もにおいは発生しますが、その原因はシンナー臭を放つ溶剤系塗料(油性塗料)でした。

しかし真水で薄めて使用する水性塗料が普及したことにより、塗装工事における臭い問題は、わずかずつではありますが解消され始めています。

 

ところが塗装工事で剥離剤を使用すると、せっかく臭いが少ない水性塗料を選択しても臭気に悩まされることになってしまいます。

 

また、剥離剤に触れた工具は固まると使えなくなってしまいますので、すぐに洗浄しなければなりません。

この洗浄時に用いられるのが強い刺激臭を伴うシンナーです。

 

シンナーは刺激臭を伴うだけでなく、長時間吸い込むと中毒を起こす恐れがあるため、「有機溶剤作業主任者」の資格保有者が現場にいなければ使用できないほど非常に危険な部材です。

剥離剤を使用するときは、シンナーなどの有機溶剤の危険性と隣り合わせであることを覚悟しなければなりません。

●剥離剤の取り扱いには注意が必要

人体に有害な物質が含まれている剥離剤は、直接皮膚に触れると刺されたような痛みを伴い、火傷のような症状になることもあります。

 

そのため剥離作業を行う作業員は必ず保護マスクや手袋を着用していますので、施主側も、剥離作業中は無防備な状態で近寄らないようにしましょう。

 

また剥離作業で剥がした古い塗膜には剥離剤が混ざっていますので、産業廃棄物として処分しなければなりません。

■おわりに

戸建て住宅の塗装で剥離剤が登場するケースはほとんどありません。

しかし前回の塗装に施工ミスがあったときの塗り替えや木部の塗装などで、まれに剥離剤が使われることもあります。

 

ご自宅の塗装に「剥離剤」が使われたときに備えて、剥離剤の危険性や使用時の注意点をよく理解しておきましょう。

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