外壁の外装材にはパネルを組み合わせて作るタイプもあれば、塗料を吹き付けて作るタイプもあり、それぞれ劣化の傾向やメンテナンス方法が異なります。
もしご自宅の外壁がリシン仕上げになっている場合は、リシン仕上げ外壁の弱点や劣化の特徴を知ってそれらを補う施工方法を考えてくれる優良業者と出会うことが大切です。
この記事ではリシン仕上げ外壁の特徴やメンテナンス時の注意点、リシン壁の基本的な塗装の流れなどをご紹介します。
目次
■リシン仕上げ外壁の特徴
リシンとはモルタル外壁を作るときの仕上げ方の一種で、リシン仕上げ、またはリシン外壁などと呼ばれます。
リシン仕上げされた外壁は小さな砂粒がぱらぱらとまぶされたような表面が特徴です。
モルタル壁の仕上げ方法の中でもリシンは特にメジャーで、施工価格も安く通気性にも優れていることから90年代前半までは住宅外壁によく使われていました。
1.リシンはモルタル外壁の仕上げ材
モルタル外壁は、水、砂、セメントを混ぜて作ったペースト状のモルタル材を、針金でできた網「ラス金網」にコテでぬって壁の形にします。
最後に表面の仕上げ材として使われるのが今回ご紹介するリシンです。
サイディングボードなど外壁材の上にパネルを張り合わせて作る工法の場合は、貼りつけた外壁材がそのまま壁になります。
パネル材でできた外壁は現場で外壁材を組み立てるのみで済むため、施工品質が作業環境に左右されないというメリットがあります。
モルタル外壁は施工する職人の技術や施工環境が仕上がりの質に影響するというデメリットがありますが、既製品のサイディングボードでは表せない手作業による独特の意匠性が持ち味になっています。
2.モルタル外壁の仕上げ方法は主に3種類
モルタル外壁の表面仕上げには今回ご紹介するリシン以外に3つの方法があります。
それぞれ見た目やメンテナンスの注意点が異なりますので、ご自宅がどの方法で仕上げられているか確認しておきましょう。
モルタル壁の仕上げに使われるのは、
- リシン仕上げ
- スタッコ仕上げ
- 吹付けタイル仕上げ
- 左官仕上げ(コテしあげ、ローラー仕上げ)
の4種類です。
それぞれの見た目と特徴をまとめると以下のようになります。
●リシン仕上げ
セメントとアクリルなどの樹脂に、細かく砕いた石を配合して顔料と混ぜ、リシンガンで勢いよく壁に吹き付けて作ります。
このとき部材に混ぜる石のことを「骨材」と呼び、リシンに使用する骨材はやや小さいため砂をまぶしたようなざらざらとした見た目になります。
尖った針で表面を削る「掻き落とし仕上げ」などもありこちらは凹凸が少し抑えられるため、やや落ち着いた見た目にしたいときなどに選ばれます。
耐久年数は約10年以内と言われ、耐久性が低下すると骨材がボロボロ落ちるようになります。
また小さな凹凸の隙間に溜まった汚れがこびりつき黒ずんで落ちなくなったり、内部でカビが繁殖したりするため塗装の際はしっかり洗浄しなければなりません。
●スタッコ仕上げ
スタッコは合成樹脂エマルション塗料などの仕上げ材に、大きめの砂や石を骨材として配合し接着剤と水を混ぜて作る部材です。
リシンよりも骨材が大きいため壁の凹凸がより激しくなり、ランダムな印影と塗膜厚によって重厚感と高級感のある見た目になります。
ただし凹凸が激しいためリシン以上に汚れが入り込みやすく、ものがぶつかったり爪でひっかいたりしたときの衝撃に弱く剥がれやすいというデメリットがあります。
●吹付けタイル仕上げ
吹付けタイル仕上げの外壁は、リシンやスタッコと違って陶磁器のような艶のある表面をしています。
見た目がタイル風というだけで、タイル材をひとつずつ張り合わせて作る「タイル壁」とは全く別の種類です。
上記の写真は「凸部押さえ処理」がされていますが、凸部を処理せず吹付けた塗料の形がそのまま残る「吹き放し仕上げ」も選べます。
部材には砂のほかに「寒水石」という結晶質の石灰岩を樹脂や結合剤に混ぜたものを使い、合計3回吹き付けて仕上げます。
●左官仕上げ
職人がコテやローラー、櫛やハケなどを使って模様を描く仕上げ方法です。
扇形や波型など仕上げ方法には一定のパターンがあり、あらかじめ好きな模様を指定することも可能です。
仕上がりが職人の腕に左右されるというリスクはありますが、既製品では表せない意匠性を壁に持たせることができます。
■リシン仕上げ外壁を塗装するときの必須工程
サイディングボード施工が多くなった現在でも、砂壁のようなマットで落ち着いた風合いを持つリシン外壁は和風住宅や洋カントリー風の家などで使われています。
しかし凹凸の隙間に汚れが入り込むと落ちにくく、ひび割れしやすいという欠点があるため、表面を塗り替える際はリシンのデメリットを見抜ける優良業者に頼むことが大切です。
リシン外壁の塗装を依頼するときは、業者から提示された見積もりに以下の工程が含まれていることを確認しましょう。
1.凹凸内部の汚れを除去する「高圧洗浄」
リシン仕上げ外壁は汚れが溜まりやすく、影になるためカビなどの水分を好む菌類が繁殖しやすくなります。
カビや汚れを残したまま塗装すると塗料が外壁に密着できず耐久性が低下し、内部の異物が気泡や剥がれなどを引き起こしてしまいます。
そのような施工不良を防ぐために行われるのが高圧洗浄作業です。
高圧洗浄作業はリシン壁に限らずどの外壁でも必ず行われる基本の工程です。
塗装の見積もりには必ず記載されていますので第一にチェックしておきましょう。
●カビやコケを強力に落とすバイオ洗浄
カビやコケは外壁に根を張って繁殖するため、見えている部分だけ水洗いしても栄養があれば再び繁殖してしまいます。
このような奥まで根付いたカビ・コケを殺菌するために行われるのがバイオ洗浄です。
施工価格は水だけの高圧洗浄に比べると約2~3倍になり一棟あたり10万円前後になりますが、カビが生えやすいリシン壁のメンテナンス方法として選択肢に入れておくとよいでしょう。
2.ひび割れを補修する「下地補修」
モルタル壁は特にひび割れしやすい外壁です。
サイディングボードなどパネルを組み合わせて作る外壁はひび割れしにくく、パネル同士の目地が衝撃を吸収して割れを防ごうとします。
しかしモルタル壁は壁に負荷がダイレクトに伝わり、モルタル自身も乾燥収縮するためひび割れが起きやすく、さらにパネル材のように強固に固められていないリシンは比較的すぐに割れてしまいます。
そのためモルタル壁を塗装するときは下地補修の際に割れの補修・点検が大前提となります。
下地補修は見積書の中では「下地調整」「下地処理」と書かれていることがあります。
こちらも高圧洗浄と同様に外壁塗装では必須の工程ですので、見積もりに記載されていることを確認しましょう。
ひび割れには浅い「ヘアクラック」と割れが深い構造クラック」の2種類があり、それぞれ補修方法が異なります。
●浅いひび割れの補修方法
浅いひび割れであるヘアクラックは外壁の比較的表面に留まっていますので、塗替えの際に割れをふさぐ下地材で下塗りすることで補修できます。
割れをふさぐ下地材としては「微弾性フィラー」が主に使われますので、「下塗り」の項目に微弾性フィラーが使われていることを確認しましょう。
なお劣化したリシン外壁は塗料を吸い込みやすくなっているため、吸い込みを防いで塗料が外壁表面に密着するように「シーラー」という下塗り材を塗って表面を処理しておきます。
ちなみに下塗りとは塗装の1層目を作る工程を指し、下塗りした塗料が乾いたあと仕上げ用塗料を使って「中塗り」と「上塗り」が1回ずつ行われ、合計3回の重ね塗りをして塗装作業は終わります。
●深いひび割れの補修方法
構造クラックは幅0.3mm、深さ5mm程度の深い割れのことで、ここから雨水が浸水するとモルタルの深部に水が達し、モルタルを内部で支えているラス金網と呼ばれる金属部分やまわりの鉄骨材を腐食させてしまう恐れがあります。
構造クラックは微弾性フィラーなどの下地材では防げませんので、下塗りの前に「Vカット工法」による補修が行われます。
Vカット工法を行う場合は、まずひび割れに沿って外壁が工具で削り取られます。
次に内部を清掃したあとプライマーと呼ばれる下地材を溝に塗布し、樹脂を詰めてヘラでおさえ、最後に施工箇所が周りの外壁から浮かないように調整して完成となります。
Vカット、またはUカットとして見積もりには記載されますので、こちらも覚えておきましょう。
3.ひび割れの再発を防ぐ仕上げ塗料の使用
引用元:http://www.sk-kaken.co.jp/products/data/c_clean.htm
モルタル壁はひび割れに弱いため、塗り替えの際は「弾性塗料」が使われることがあります。
弾性タイプの塗料はゴムのような伸縮性を持ち厚い塗膜を作るため、塗装しておくと壁に負荷がかかっても塗料がゴムのように伸びて割れを塞ぎ、雨水などの浸水を防いでくれます。
ただしサイディングボードに塗装すると、ボードの蓄熱性により塗膜に気泡が生じるなどの施工不良を起こしてしまうため使用できません。
●戸建て住宅では「単層弾性塗装」が主流
弾性塗料の施工方法には「複層」と「単層」の2種類があります。
複層弾性塗装ではシーラーなどの下塗り塗料を塗ったあと、弾性塗料で中塗りを2回、上塗り用塗料で上塗りを2回という合計5回の重ね塗りによって、丈夫な弾性塗膜ができあがります。
ただし1層ずつ24時間以上乾燥させなければならないため工期が非常に長くなり、塗装代・施工費ともにかさむため工事費用も高くなります。
一方、単層弾性塗装とは微弾性フィラーを下地材にして、中塗り・上塗りともに同じ弾性塗料で塗装する工法です。
工程が少なく施工費用も高くならないため、一般的な戸建て住宅では単層弾性工法が選ばれています。
■リシン仕上げ外壁の一般的な塗装の流れ
以下はリシン仕上げ外壁の一般的な塗装工事の流れです。
先ほどご紹介した高圧洗浄や下地補修も含め、いずれも基本的な塗装工事に欠かせない作業ですので工程の内容と目的を押さえておきましょう。
1.足場設置
建物の周りに足場を組み、高所での作業や水平方向の移動をスムーズにさせます。
足場の設置・解体はともに半日で完了します。
2.高圧洗浄
外壁に手を加える前に必ず高圧洗浄で表面の汚れを落としておきます。
高圧洗浄自体は1日で終わりますが、洗浄直後は外壁の表面が濡れていますので1日以上の乾燥時間を設けます。
3.下地補修
高圧洗浄でも落ちなかった汚れや異物を手作業で取り除く作業です。
建物の鉄部に錆びが生じている場合はケレン作業を行い錆び止め処理しておきます。
なお塗装で埋まらない構造クラックの補修は、この下地補修の時点でVカット処理されます。
下地補修も約1日で完了します。
4.養生
窓サッシや玄関ドア、ベランダ、車、エアコンの室外機などをビニールシートで保護します。
養生作業は1日で終わりますが屋外に私物が放置されていると作業の妨げとなりますので、養生作業の前に施主のほうで撤去しておきましょう。
5.塗装
塗装作業では下塗り→中塗り→上塗りの順に施工していきます。
それぞれの塗装作業に1日、乾燥に1日かかりますので、外壁だけであれば最低でも合計6日は必要になります。
リシン仕上げのモルタル壁であれば弾性塗料を使った単層弾性仕上げになるため3回塗りと同じ約6日の作業期間と考えてよいでしょう。
ただし複層弾性仕上げの場合、
- 下塗り×1日
- 中塗り×2日
- 上塗り×2日
- それぞれの乾燥時間×5日
となり合計10日の施工期間となりますのでご注意ください。
■おわりに
リシン仕上げ外壁の塗装を業者に依頼するときは、業者が選んだ塗料や行う作業内容がリシン外壁に相応しいかどうかを知っておく必要があります。
ひび割れを補修する作業が見積もりに含まれていることや、弾性塗料や微弾性フィラーといったモルタル外壁と相性のよい塗料が選ばれていることなどが確認できれば、リシン仕上げに詳しい業者かどうか見抜くことができるでしょう。