外壁塗装で色の他に悩む事の一つとして上げられるのが「艶あり、艶無しのどちらにするべきか」という事です。外壁塗装でいう艶とはキラキラと光を反射するような塗料を艶がある塗料、光がほとんど反射しない物が艶なしという表現をします。また艶あり、艶なしのだけではなく、七分艶、五分艶などつやを少し落とした塗料も販売されています。
ここではつや有り、つや無しのどちらにすれば良いのか、それぞれどういったメリット、デメリットがあるのかをお伝えしていきたいと思います。
目次
外壁塗装における艶あり、艶消しの基本知識
まずは外壁塗装の塗料における艶あり、艶消しの基本的なことについて書いていきます。ちなみに艶消しの事を艶なし、マット仕上げなどと表現する場合もあります。
艶に関しては明確な定義があるわけではない
実は艶がある、ないに関しては、艶ありというのはこういうこと、艶消しというのはこういう事、のような明確な基準が存在していません。一度は昔に艶に関する定義を定めようとはしたのですが、その定義が外壁塗装職人間でうまく浸透せずに今現在、艶に関する定義ははっきりと定まっているものではありません。しかし、艶ありの状態、艶なしの状態はだいたいはこういうもの、という目安は存在します。
外壁の塗料の艶を計測する方法として、60度の角度から100の光を差し込んだときに、正反射して反対側にどれだけの光が届いたかで決めるようにしています。正反射というのは入射角(面に入る角度)と反射角(反射して面から出る角度)が同じ、つまり壁にぶつかる前の角度とぶつかって跳ね返った角度が同じきれいな反射の事を指します。
反射した光の強さを数値化した物をグロス値、もしくは光沢度と言います(グロスとは光沢の事です)。グロス値と艶の関係を表すのが以下の表です。
グロス値(光沢度) | 70以上 | 60前後 | 35前後 | 15前後 | 5以下 |
艶 | 艶有り | 七分艶 | 五分艶 (半ツヤ) |
三分艶 | 艶消し (艶なし、マット) |
五分艶は半艶とも言い、艶消しはつやなし、マット仕上げ、フラット仕上げとも言います。
こちらの表を見るとわかるように、50前後、20前後などかなり空白があり、そのぐらいの艶具合をなんと言えばいいのか、とう疑問がわいてくるかもしれません。これは大手塗料メーカーが製造販売している塗料が艶有り、七分艶、五分艶、三分艶、艶消しが主で、六分艶、四分艶などの塗料が出ていないというだけの事です。つまり、大手メーカーの塗料においてグロス値が50前後、20前後の塗料はない、もしくは少ないという事になります。
また、70だったグロス値が経年劣化とともに艶が落ちてきてグロス値が60前後になったとしても七分艶と呼ぶわけではありません。あくまで、艶有り塗料を塗った後に艶が取れてきた、という表現になります。
塗料によって艶の有る無しが決まっている
艶がある、ないというのはメーカーが製造した段階で塗料によってすでに決まっており、メーカーから仕入れたときからすでに艶ありなのか、艶消しなのか、艶があるなら七分、五分、三分なのか、というのが決まっています。塗装業者が工事当日に艶がある塗り方、艶がない塗り方という事をするわけではありませんし、お客様の希望や都合に合わせて艶あり塗料を艶消し塗料に調合したりするわけでもありません。また、水性塗料だから艶がある、屋根用塗料だから艶がない、という事でもありません。それぞれメーカーの考え方で艶のある、なし等が決められています。
さらに塗料によって艶消しに出来ない塗料もあります。艶がある外壁は好みではなく、艶を消してほしいと家主が主張したとして、艶を抑えた塗料にしたくても五分艶、もしくは三分艶までしか艶を抑えられないという塗料もあるのです。数は少ないですが、艶消ししかない塗料もあります。
つまり艶有りにするのか、無しにするのかははじめの色決め、塗料決めの段階で考える必要があります。例えば「この断熱性の高い塗料のこの色が良いが、艶は全くない方が良い」などの希望は艶ありしか出来ない塗料だった場合は出来ないという事になります。
艶消し塗料は艶有り塗料に添加剤を使用してつやを消している
一部の吹き付け用の塗料(リシンなど)ははじめから艶がない艶消し塗料ですが、多くは艶がある塗料に対してつや調整剤を混ぜ込むことで塗った後に艶が出ないように調整されているのです。この時に混ぜる添加物のことを艶調整剤と言います。大手メーカーから仕入れた艶消し塗料の場合は専用の艶消し添加剤が使用されますが、DIYや家具塗装の場合などに自身で艶消しを行いたい場合は、フラットベースというつや消し剤を混ぜます。
艶消し剤を混ぜる事によって、塗料を塗った後の膜である塗膜の表面が細かいでこぼこな形状になります。この形状が光を分散反射するため、艶がなくなって見える、という仕組みです。
大事な事は添加剤を使用した分、塗料の強度等が全体的に落ちてしまうと言う事です。純粋な塗料であれば強度は強いが、そこに艶を消すための耐久性のためには必要ない薬剤を混ぜている為に、全体的に塗料としての完成度が少し落ちてしまうというイメージがわかりやすいと思います。
艶消しの方が艶有りよりも耐候性が低く汚れやすい
「塗料が進化しているからつや消しでも性能はそこまで落ちない」という方や業者さんがいますし、その答えも間違えではないのですが、塗料の中につや消し剤を混ぜていて性能が落ちないという事はあり得ません。もともと艶がない塗料は別ですが、艶があるのに艶を消している塗料は基本的に添加剤を混ぜている分、保護する成分が薄くなっているという事なので、保護の性能等が落ちているとお考えください。
艶を消せば消すほど添加剤の量は多くなるので、艶を消す度合いが大きければ大きくなるほど性能は下がってしまいます。七分艶よりも三分艶の方がさらに性能は低いという具合です。先述の通り、塗料の技術が進歩し、性能は上がっているのは間違いないので、艶消しにしたからと行って保護性能が格段に落ちるという意味ではないのでご安心ください。
一般的に艶消しの塗料の方が艶有りの塗料よりも汚れやすいとか耐候性(劣化しにくい性質)が低いと言われますが、性能が落ちるのは部分的な機能だけではなく、全体的に塗料に求める性能(保護機能など)が若干低い、そして低いけどもそこまで低いわけではない、と考えておきましょう。
艶がないと水はけも艶があるよりは悪く、汚れやすいですし、それによってカビ、藻、コケなども発生しやすくなる可能性があります。
元々艶無しか、艶有りを消したのか確認する方法
もともと艶消しであれば添加物を混ぜたわけではないので、性質が落ちているとは言えません。艶消しで、しかも今後の耐候性なども気になる、と言う場合は、艶有り塗料から艶を消したものではなく、元々艶無しの塗料を使いましょう(塗料の種類はかなり限られます)。大手メーカーの塗料であれば、公式ホームページで確認出来ますし、業者さんに相談しても良いでしょう。
見分け方としては、最初から艶がない塗料は艶無し塗料しか存在しません。例えばエスケー化研の「ソフトリシン」という塗料をホームページで確認してみると、艶に関して「艶消し」しか存在しません。これがもともと艶がない塗料です(上の画像参照)。艶自体に汚れをつきにくくする作用があるので、はじめから艶がないとしても汚れはつきやすいと考えておきましょう。
その塗料を調べてみて、艶に関する部分で「艶有り、艶無し」もしくは「艶有り、七分艶、五分艶、三分艶、艶無し」などのように書かれている場合は、それらのつやのバリエーションを用意するためにつやを後から調整された塗料とお考えください。
逆にラジカル塗料として有名なファインニッペパーフェクトベストや、一部のシリコン塗料など艶有りしかない塗料も存在します(ラジカル塗料についてはこちら)。
艶有り塗料、艶無し塗料、艶調整塗料のメリット、デメリットは?
インターネット上の多くの外壁塗装情報サイトが、艶有り、艶消しのメリットデメリットしか書いていませんでしたが、それだけでは不十分と考えます。本来、艶有り、艶消し(元々艶がない塗料)、そして艶調整塗料(艶があるものを艶消しした塗料)についてのメリット、デメリットにも触れるべきだと思います。三種類の塗料のメリット、デメリットをまとめると以下の表のようになります。
艶有り塗料 | 艶調整塗料 | 艶消し塗料(無調整) | |
メリット |
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デメリット |
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艶調整塗料のデメリットに関しては、艶を調整すればするほど大きくなると考えてください。七分艶よりも三分艶、艶消しの方がより艶ムラが出やすい、塗りムラが出やすいなどです。
特筆するべき所は、艶がある塗料を選んだとしても二~三年で艶は消えてしまうと言う事です。塗料は10年後にいきなり劣化するのではなく、毎年少しずつ劣化していきます。艶に関してはその劣化が早いとお考えください。艶の有る無しを選んだところで、数年で艶はなくなるのです。
また、感じ方は人それぞれなので、「艶有りがピカピカしすぎて安っぽく見える」「艶無しは無難すぎて新しくなった気がしない」など主観的な意見もかなり出てきます。その場合は、自分で艶がある家、ない家を見て、印象をあらかじめ確認しておくと良いでしょう(施工をお願いする業者さんに言えば、これまでの施工現場を見せてくれるので、艶有り塗料を塗ってそこまで時間が経ってないおうちを見せてもらいましょう)。また日本風邸宅など、そもそもが艶無し塗料を選んだ方が良い、という場合もあります。特にモルタルの意匠性が高い模様仕上げの場合は艶がない方が良いでしょう。
艶調整塗料は扱いが難しい為、塗った後のチェックが必要
上の表でも少し触れているのですが、艶調整塗料は塗料の偏りなどがある場合があり、うまく扱わないと塗りムラが起こってしまうなど、扱いが難しい点があります。元々ある塗料に艶消し剤が入っていて、それがうまく混ざっていないこともあるのです。それでメーカーとしては、艶調整塗料の場合は「試し塗りを行ってください」と記載しています。
またうまく混ざっていなかったり、固まったりしてしまうので、攪拌(かくはん、混ぜること)をよく行いながら塗装をする必要があります。ハンドミキサーの大きい版のようなものを塗料缶に突っ込んで攪拌していきます。手作業ではうまく混ざらない事もあるので、出来るだけ機械を使用する業者さんの方が信頼できると言えます。
また、塗料が偏りやすいことから、塗る時にも神経を使います。しっかりと艶が均一にならない場合もあるのです。それ故、必ず塗装屋さんが塗った後に艶のムラがないかを確認してください。特に刷毛、ローラーを使って塗装している場合の塗り継ぎ箇所(境目などのこと)を確認してください。
つや引けやかぶり現象に注意
塗料が乾ききる前に塗装面に問題が起こるとつや引け、かぶりなどの現象が起きます。つや引けとは光沢がうまく出なくなってしまう現象のことで、かぶりとは湿度の影響で塗装面が白くなってしまう現象のことです。湿度の高い季節や寒暖差が激しい地域などで、夜露が出るまでに塗料が乾ききらなかった場合におきます。艶調節塗料の場合は、このつや引け、かぶりというのが起こりやすいので、注意が必要なのです。
より早く乾かす事が出来れば艶ひけやかぶりなどの現象は起き来にくくなりますので、その対策として、朝から塗装を始めた場合、東、南、西、北の面を順に塗っていくなど乾燥に気を遣う必要があります。この順序は、早く乾く順番として塗料メーカー推奨の順番です。東側は太陽の光が午前中しか当たらない為、先に塗るということです。
ちなみにつや引け、かぶりは艶調節塗料の攪拌不足でも起こる現象で、艶を調整していればしているほど起こりやすい現象でもあります(七分艶よりも三分艶の方が起こりやすい)。
ただ、高圧洗浄などの下地処理をしっかりしているか、下塗り塗料、上塗り塗料の性質をきちんと理解し、適切な塗膜厚(塗料の膜厚)で塗る事が出来ているかどうかなど、基本的な事が出来ていることももちろん大事です()。
艶の言い方の違いで失敗することも
七分艶とだけいうと、本来、艶が七割(三割艶消し)の意味です。しかし、他の業界とごっちゃになってしまっている、あるいは地域の差などで、七分艶というと七分艶消し、つまり三分艶と解釈してしまう業者さんも居るようです。大手メーカーには「七分艶」「五分艶」などと書いてあるので、その考えで行けばこういった事は起こりにくいのですが、使っているメーカーや地域差により誤解を与えてしまいます。
艶表現の行き違いは工事完了まで気づけない可能性があるので、「七分艶は70%艶で、30%の艶消しか」など、間違えのない聞き方をしましょう。
工事日に調整剤を混ぜているなら監視を怠らない
大手メーカーは基本的に艶調整済みの塗料を出荷していますが、塗料のメーカーによっては艶調節済みの塗料を出荷するのではなく、現場で職人が艶有り塗料に艶消し剤を混ぜる場合もります。その場合、きちんと塗料の重さなどを量っているか、攪拌(かくはん→混ぜ合わせる事)には専用の機械を使用しているかなどの手順を確認してください。
艶有り塗料を七分艶にする場合は艶消し剤(フラットベースなど)をどれくらいいれるか、混ぜ合わせてからどれくらいで塗らなければならないかなど非常に細かく定められており、それを失敗してしまうとうまく艶を調節出来ません。計測器無しでは正しく混ぜることも出来ないのです。工事前に調合、攪拌作業をする場合は、計測器があること、攪拌機がある事をしっかり確認してください。
どちらが良いかは結局の所、好みで選ぶべき
インターネットの世界や、実際の塗装業界の動きを調べてみると、艶ありが良い、艶無しが良いと賛否両論あるのですが、結論から言えば、艶有り艶無しは施主の好みで決めても良いです。どちらでも良いのであれば耐久性の高さや、塗りムラの恐れ等が少ない艶有り塗料がオススメです。
インターネットの専門的な知識が述べられていない口コミサイトなどでは「好みで決めても良いという業者は辞めておきましょう」などと批判されているのですが、つや消し塗料自体、そもそもが「つやがない方が良い」という客の声を反映させて、塗料メーカーが作ったものです。それ故、好みで決めても問題ないと外壁塗装駆け込み寺では判断しております。
メリット、デメリット、周りとの調和の兼ね合いなどを見ながら、艶有り塗料か、艶調整塗料か、艶無し塗料かを考えましょう。