屋根塗装には「縁切り」という作業があります。
一般的な方にはなかなか馴染みのないワードですが、屋根の耐久性にも関わってくる作業ですので、屋根塗装をする前には縁切りについて知っておくことがポイントです。
この記事では、屋根塗装の知識として知っておきたい縁切りの内容や、縁切りが行われなかったことによるリスクや注意点などについて解説します。
目次
■「縁切り」の作業内容と必要性
「縁切り(えんきり)」は、屋根塗装においては非常に重要性の高い作業で、「えんぎり」、または「ふちきり」とも呼ばれています。
1.屋根の隙間は排水の要
屋根材には様々な種類がありますが、どの屋根も、1枚1枚が重なり合って、ひとつの「屋根」を形成しています。
この、屋根材が重なり合っている部分には、ちょっとした隙間が生じます。
実はこの隙間には、屋根の内部に入り込んでしまった雨水を排水するという、非常に重要な役割があります。
しかし、屋根塗装をすると、屋根が重なり合った部分の隙間が、塗料で埋まってしまいます。
隙間が塗料で閉じられてしまうと、雨水などの水分が隙間の中に溜まってしまい、内部に溜まった水に、屋根外側の水もどんどん吸い寄せられるという「毛細管現象」が誘発される可能性が高くなります。
水分がどんどん屋根材の内部に浸水すると、屋根材の下にある野地板が腐りやすくなるため、室内の雨漏りなど、屋根や住宅にさまざまなリスクをもたらしてしまいます(リスクに関しては後述します)。
そのため、塗料で埋まってしまった屋根材の隙間は、専用の道具で塗料を取り除かなければならず、その作業こそが、今回ご紹介する「縁切り」です。
2.縁切りが行われるタイミングは?
縁切りは、屋根塗装工事が終わって、塗料が完全に硬化した段階で行われます。
固まった厚みのある塗料に手作業で切れ目を入れて行きますので、作業にはかなりの時間がかかってしまいます。
しかし、塗装をした翌日など、塗料が完全に乾き切っていない状態で縁切りをしても、隙間付近の塗料が再びくっついてしまいますので、縁切りの意味がなくなってしまいます。
このような理由から、縁切りは、塗膜が完全に形成された後に行うべきとされているのです。
3.縁切りに用いる道具
縁切りの工程では、カッターナイフや皮スキと言われる専用の道具で、職人さんが、隙間をひとつひとつ手作業で処理していきます。
そのため、屋根の大きさよって異なりますが、30坪程度の一般的な住宅の場合、職人さん二人がかりでも、丸一日作業を行わなければならず、非常に手間と時間がかかります。
また、縁切りを行うために移動する際、せっかく塗装した屋根の表面を踏んで行かなければなりません。
このような、従来の縁切り工法の難点を解消するために、近年、多くの塗装業者で採用されている方法が「タスペーサー」という道具を使った縁切り作業です。
●タスペーサーを使うタイミング
先ほど、縁切りは塗装が完全に乾いたタイミングで行うと説明しましたが、タスペーサーは、塗装の途中段階で使用する道具です。
外壁塗装の基本の作業工程をおさらいしながら、タスペーサーを使うタイミングを見てみましょう。
まず、外壁塗装は、基本的な流れとして、下地処理、下塗り、中塗り、上塗りという順番で行われます。
最初の下地処理では、飛散防止ネットを足場に張り巡らせて、近隣住宅や屋根周辺への水しぶきの飛散を防止した後、高圧洗浄機を使って屋根表面の汚れを落とします。
次に、汚れやカビ、コケなど、屋根塗装の仕上げを妨げるものが残っていないかチェックし、屋根表面を、しっかり下地調整しておきます。
次に、中塗りや上塗り塗料の仕上がりが良くなるように、下塗りとして、シーラーやプライマーという下地材(下塗り塗料)を塗って、塗料の密着性が高まる状態を作っておきます。
そして、この下塗りが終わった時に、タスペーサーを屋根に取り付けます。
屋根と屋根が重なっている部分の間に、タスペーサーを差し込んでおくと、このあと中塗り、上塗りを施しても、塗料がタスペーサーに遮られて隙間を塞がなくなります。
このようにしておくことで、塗料が乾いたあと、屋根表面を歩き回って手作業で隙間を開ける縁切り作業が不要になるのです。
また、タスペーサーを使用することで、縁切りに要する人件費や手間賃、工事期間も省けるため、従来の工法に比べて経済的でもあります。
タスペーサー設置自体が、広義の縁切りとも言えるでしょう。
●タスペーサーが使用できない屋根もある
タスペーサーは、
- 三寸(7°)に満たない緩やかな屋根
- 屋根材同士の隙間がもともと4ミリ以上空いている屋根
などのケースでは使用することができません。
傾斜が緩やかな屋根にタスペーサーを挿入すると、誤って屋根材を傷める恐れがあり、隙間が大きすぎるとタスペーサー自体が安定せず、結局縁切りを行わなければならないためです。
このような屋根では、従来の手作業による縁切りを行わなければなりません。
このように、どんな現場でもタスペーサーが使えるという訳ではないことを念頭に置いて、見積もりや屋根診断の時に、業者に使用しない理由を質問しておくとよいでしょう。
■縁切りをしないとどんなリスクがあるのか
冒頭でも紹介しましたが、屋根と屋根の重なり部分は、雨が降った時に、屋根の内部に雨水が溜まらないように、水が流れ出る構造になっています。
このことを理解したうえで、以下の画像をご覧ください。
(画像参照元:株式会社セイム)
写真は、縁切り作業がしっかりと行われなかった屋根の、雨が降った後のようすです。
屋根が重なり合った部分に、かなりの水分が溜まってしまっているのが分かります。
このように、屋根に水分が溜まった状態が続くと、以下のようなトラブルが発生する恐れがあります。
1.屋根下地材の劣化
排水されなかった雨水がどんどん雨水を引き寄せ、次第に、屋根材下部にある下地を腐食させてしまう恐れがあります。
屋根の下地は、通常、ルーフィングと呼ばれる防水シートが敷いてあるため、少々の水であれば、下地材を腐らせたり、室内まで浸水したりすることはありません。
しかし、長期間雨水に晒されたルーフィングと下地材は、次第に防水力を失い、やがて水分が屋根内部にまで達し、雨漏りなどの被害が発生するようになるのです。
2.屋根の通気性が失われる
縁切りをしないと、当然、隙間が塞がれて屋根の通気性が失われてしまいます。
そのため、屋根内部に水分だけでなく湿気までこもってしまい、腐食がさらに加速してしまいます。
せっかく塗り替えをしても、縁切りを行わなかったばかりに、このような症状が起きてしまっては、意味がありません。
縁切りは、屋根そのものを守るだけでなく、家全体を守ってくれる非常に重要な工程と考えておきましょう。
■タスペーサーによる縁切りの費用
最近では、カッターなどを使った手作業の縁切りは、ほとんどの屋根塗装で行われていません。
その代わりに、多くの塗装業者が「タスペーサー」を用いた縁切りを行っていますので、今回は、タスペーサー使用時の、縁切りの費用相場をご紹介します。
ちなみに、タスペーサーという呼び方は、株式会社セイムというメーカーが製造している、商品の名称です。
1.縁切り作業の費用相場
約30坪程度の住宅(日本の住宅の平均的な大きさ)の場合、使用するタスペーサーは1,000個程度使用します。
施工費用としては、1棟分の屋根で、2~6万円が一般的です。
●タスペーサーの方が工事費が安価になる
特別な材料を使う分、カッターなどによる手作業よりも、タスペーサー工法の方が見積書の金額が高くなるのでは?と感じた方も多いかもしれません。
しかし、手作業で行う縁切り作業は、職人の手間賃と工期が増えるため、タスペーサー工法の訳2~3倍の費用がかかってしまうのです。
つまり、タスペーサー工法は、費用面・作業面ともに従来よりも優れた工法と言えるでしょう。
2.縁切り作業を行わない業者に出会ってしまったら
縁切りは、将来的な屋根の耐久性に関わる重要な作業であるにも関わらず、塗装業者によっては、縁切り作業を行わないこともあります。
特に、手抜き業者などは、縁切りが必要な屋根ということをわかっていながら、平然と、あえて縁切りを省いてしまうことがあります。
●なぜ縁切りは手抜きされやすいのか
このように、縁切りが省かれてしまう状況がなくならないのは、「縁切り」という専門用語について理解をしていない依頼主が多いことが、理由のひとつと言えるでしょう。
縁切りという作業の存在すらわからなければ、工事前に、縁切りについて確認などできるはずがありませんので、手抜き業者などは、当然のように縁切りを省いてしまうのです。
あるいは、依頼者が縁切りについて知っていて、見積もりに縁切りの項目がないことを指摘しても、「この屋根に縁切りは必要ない」とウソを付いて、専門用語をまくし立てて縁切り作業の不要性を主張してくる悪質な業者もいるかもしれません。
このような自体を避けるためには、優良業者に任せることが一番よいのですが、屋根塗装は何度も行うものではないため、信頼できる専門家を探すのはとても大変です。
迷った時は、無料の一括見積もりサイトで、縁切りを必ず実施してくれることを条件に、施工業者選びを行うとよいでしょう。
特に、一括見積もりサイトで表示される塗装業者やリフォーム会社は、審査を得て優良と判断されたうえで登録されていますので、縁切りだけでなく塗装全般を安心して任せることができます。
■縁切りをする必要のある屋根とない屋根
屋根の種類は多数ありますが、どんな種類の屋根でも縁切りは必要なのでしょうか?
屋根の種類には、基本的に次のようなものがあります。
- 和風の「瓦屋根」
- 多くの住宅で採用されている板状の「スレート屋根(平型スレート瓦)」
- 砂とセメントを混ぜたモルタルを素材とする「セメント瓦」
- 耐久性が高い「銅版屋根」
- 軽量で住宅に負担がかからない「板金屋根」
など
ご自宅の屋根の種類を調べて、塗装の際に、縁切りの要・不要を確認しておきましょう。
1.縁切りが必要な屋根
縁切りが必要と言われているのは、スレート屋根(スレート瓦屋根)です。
スレート屋根は多くの家庭で使われていますので、「カラーベスト屋根材」「コロニアル屋根材」「化粧スレート」などの名前を聞いたことがある方も多いかもしれません。
2.縁切りの必要がない家
縁切りの必要がない屋根には、屋根材の種類自体が縁切りを不要とするケースもあれば、家の築年数や屋根の勾配などが原因で不要なケースもありますので、まとめてご紹介します。
●新築後、初めて塗装をする屋根
基本的に、新築してから初めての塗り替え工事を行う屋根では、隙間が十分に確保されているため、塗装後に、隙間が塗膜で埋まって通気性が失われることがありません。
つまり、新築後初めての塗装では、縁切りは必要ないと覚えておくとよいでしょう。
もちろん、多めに油性塗料を塗るようなことをすれば隙間は当然埋まりますので、縁切りは必要になってしまうのですが、そもそも、塗料は必要以上に塗るのはおすすめされていませんので、そのような業者には頼まないようにしましょう。
●勾配が急な屋根
一般的に、5寸以上の屋根勾配であれば、水が流れ出ていきやすく、水はけが良いため、縁切りが必要ありません。
勾配は、数値が大きいほど傾斜が急になり、6寸以上になると急勾配と呼ばれるようになり、3寸以下だと、緩やかな勾配に分類されます。
屋根勾配は、急でも緩やかでもメリット・デメリットがありますので、ご自宅の屋根勾配については、一度調べてみるとよいでしょう。
●吹き付け塗装の屋根
吹き付け塗装で施工された場合も、縁切りは不要です。
塗装には、ローラー塗装と吹き付け塗装という異なる施工方法があり、それぞれの塗り方次第で特徴も異なります。
ローラーを用いて屋根に塗料を塗る「ローラー塗装」(またはローラー工法)は、刷毛塗りによる塗装と同じくらい、多くの人がイメージしやすい工法かと思います。
この工法では、ローラーで塗料を伸ばす際に、隙間まで塗材が行き届いてしまうため、後から縁切りを行わなくてはなりません。
一方、「吹き付け塗装」とは、エアレス機とペイントガンという、専用の器具で塗料をミスト状にして吹き付ける工法です。
近隣へ飛散しやすく、周辺建物との距離が近いような住宅街などでは向いていないと言われていますが、施工が早いというメリットがあり、さらに、隙間まで塗料が届かないため縁切りも不要です。
●塗り替えが不要な屋根材
無機質素材の日本瓦は、そもそも、塗装そのものを必要としない屋根材です。
そのため、縁切りという作業だけでなく、塗り替えリフォーム自体も不要です。
また、瓦の間にしっかりと隙間があるので、スムーズに水を排出できるため防水性にも優れ、あらゆる屋根材の中でも特に長い耐久年数を誇ります。
ただし、セメントを混ぜて成型した「セメント瓦」タイプの瓦は塗装が必要ですので、屋根瓦が使われた家であればすべて縁切りが不要というわけではありませんのでご注意ください。
■まとめ
「縁切り」は、屋根塗装という、家の耐久性を保つために行われるリフォームの中でも、特に重要な意味を持つ工程です。
屋根自体を守るだけでなく、室内に雨漏りを起こさないためにも必ず実施しておかなければならなりません。
しかし、一般的にあまり名前が知られていない作業ということもあり、塗装業者から縁切りを省かれたまま気づかず、工事後に異変に気付いて後悔するという事例も起きているのが現実です。
見積もりに縁切りが記載されていなかった時は、しっかりと、業者にその理由を説明してもらいましょう。