建物の一部である玄関ドアもいつかは劣化してしまいますが、外壁と同じように塗装してしまうと、わずか1~2年で塗装が剥がれてしまいます。
玄関ドアの塗装は、専門技術を持った職人が丁寧にやって初めて完成するほど難易度が高い外装リフォームです。
この記事では、木製ドアと金属製ドアそれぞれのメンテナンス方法をご紹介します。
目次
■玄関ドアは「家具」である
玄関ドアの塗装は、外壁や屋根の塗装と違って「家具として塗装を行う」のが正しい認識です。
1.ドアは外壁と異なる塗装技術が必要
玄関ドアの塗装リフォームは非常に難易度が高く、知識がなければ行えません。
外壁塗装と同じ要領でドアを塗ろうとする施工業者にも注意が必要ですが、安易なDIYも避けた方が無難です。
単なるドアと思い込まず、ドア塗装の施工事例を持つ専門業者に任せた方が後々後悔せずに済むでしょう。
●慣れていない塗装業者に注意
塗装業者は外壁や屋根塗装のスペシャリストですが、玄関ドアの塗装には不慣れなことがあります。
なぜなら、先に書いたとおり玄関ドアの塗装は「家具塗装」というさらに難しい域に達しているからです。
依頼した業者が「うちではドア塗装は行えないので他の店に頼んでください」と素直に告げてくれれば問題はありません。
しかし、ドア塗装の経験もないのに外壁の延長線のように塗ってしまう業者に任せてしまうと、数年も経たずに塗装がはげてしまい、結局ドア塗装の専門家にやり直しを依頼する羽目になります。
そうならないためにも、玄関ドア塗装の見積もりを依頼するときは「ドアの施工実績は何件でしょうか?」など施工会社に必ず確認しておきましょう。
●DIYによるドア塗装はさらに危険
後述しますが、ドア1枚の塗装は時に数十万円かかるほど高額です。
そのため、費用を節約するためにDIYで済ませようとする方も少なくはありません。
ドアのDIY塗装は決して不可能ではありませんが、非常に複雑で専門的な知識・技術・道具を必要とするため、専門家以外が行っても高品質な仕上がりはあまり期待しない方がよいでしょう。
DIYの直後は綺麗に塗り替えできたように見えても、専門家の塗装に比べると塗りムラが目立ち、下手をすれば数ヶ月で塗装も剥がれてしまう恐れがあります。
塗装が剥がれるたびにDIYを行い続ければ当然、効率も費用対効果も悪く、業者に頼んだときと同額のメンテナンス費用となってしまうでしょう。
2.玄関ドアの素材
玄関ドアの材質は主に、木製と金属製があります。
●木製ドアの特徴
木製のドアは主に
- アメリカ産松(米松)
- 杉
- ヒノキ
- 唐松
などが使われます。
素材自体が重厚感や暖かみを持つため非常に意匠性の高い玄関となりますが、木製素材は他の素材以上に定期的なメンテナンスが欠かせません。
メンテナンスをせずに10年も放っておけば古びて見た目も悪くなり、ドアそのものが腐食して塗装では補修が追い付かず交換を余儀なくされます。
●金属製ドアの特徴
金属製のドアには、
- スチール
- 鋼板
- アルミ
- ステンレス
などの素材で作られたものがあります。
様々なメーカーから販売されているため、豊富なデザインの中からご自宅の雰囲気に最もあったものを選ぶことができるでしょう。
また、木製ドアに比べてメンテナンスが非常に容易で、雨や紫外線のダメージで素材自体がすぐに腐食することもありません。
ただし、金属製ドアも木製ドアと同様にメンテナンスフリーではないため、日光や雨風に晒され続ければいずれ必ず傷み、塗装の剥がれや錆などが起こるようになります。
■木製ドアの塗装について
劣化しやすい木製ドアも、正しい方法で定期的にメンテナンスや塗り替えなどを行い続ければ長持ちさせることが可能です。
木製ドアの塗り替えは、塗料の剥がれが気になった時点でできるだけ速やかに行いましょう。
1.木製ドアの塗装費用相場
- 5~15万円(1枚あたり)
外壁に比べるとごくわずかな面積にも関わらず、木製ドア塗装の費用は非常に高額です。
ちなみに、木製ドアが塗装では補修できないほど腐食して交換することになると、ドア1枚あたり30~60万のリフォームとなってしまいますので、そうなる前に早めに塗装を塗り替えておきましょう。
2.木製ドア塗装の工程
高耐久性を前提として作られている外壁材や屋根材と違って、木製の玄関ドアは建材自体の耐久性はあまり高くありません。
そのため、劣化がドア本体に進行しているケースも多く、単に塗装を塗り替えるだけでなく部分的かつ繊細な補修工事を必要とします。
これが、ドア塗装が外壁塗装や屋根塗装と異なる高度な技術力を必要とすると言われる理由です。
●木製ドア塗装は古いクリヤー塗装の除去がポイント
玄関ドアはデザイン性も重要な要素であり、木製ドアの場合はその木目が演出の大きなカギを握っています。
そのため、大抵の木製ドアは木目を潰さないように透明なクリヤー塗料で保護されています。
しかし、このクリヤー塗料の存在を見落として通常通り塗装すると、塗料がクリヤー塗料に弾かれてドアに密着できずすぐに塗膜剥離を起こしてしまいます。
なぜなら、古い塗料を落とし切れていない状態で上から新たに塗装をしても、古い塗料が剥がれていくのと同時に新しい塗料まで剥がれてしまうためです。
ドアに残っている古いクリヤー塗料は、剥離剤、サンドペーパー、電動サンダーなどを使ってきれいに剥いで行きます。
この工程では、木の模様や装飾を潰さないように丁寧に工具を使って下地処理を行わなければなりません。
また、剥離剤はジクロロメタンという有機溶媒などを含む、シンナーと同等の非常に危険な薬品です。
もし皮膚に直に触れると「薬傷」という炎症のような状態になり、施工中は常に刺激臭が発生するため長時間かぎ続けてしまうと酸素欠乏症や有機溶剤中毒を起こす恐れがあります(有機溶剤に関する詳しい記事はこちらから)。
●木製ドア塗装の基本的な流れ
ここからは、木製ドア塗装の一連の補修工程をご紹介します。
- ドア表面を掃除する
大きな汚れや塗膜のめくれなどを簡単に取り除きます。 - 塗料が付着してはいけない箇所を養生する
マスキングテープや養生シートで、塗料を付着させてはいけないドアノブやドア飾りに養生を施します。
ドアの周りの地面にも、旧塗膜が落ちて汚れないように敷物のようにシートを広げて保護しておきます。 - 電動サンダーで旧塗膜をできるだけ落とす
電動サンダーとは電気で動く紙やすりのような機械です。すぐに剥離剤を使わずに、まずは電動サンダーで簡単に落ちる旧塗膜をできるだけ削ぎ落としておきます。 - 残った既存塗膜に剥離剤塗布
電動サンダーでは除去できなかった旧塗膜を、剥離剤で剥がしていきます。 - 浮き上がった旧塗膜を皮スキで剥ぐ
薬剤で浮き上がってきた旧塗膜を、皮スキという金属製のヘラのような工具で剥いでいきます。 - 4と5を複数回繰り返して既存塗膜を全て取り除く
既存塗膜は1工程だけでは全て剥ぎきれないため、剥離剤と皮スキの工程(4~5)を複数回繰り返して徹底的に除去します。 - サンドペーパーがけ
サンドペーパー(紙やすり)で細かい箇所の旧塗膜を落としていきます。 - サンダーがけ
広範囲に残っている旧塗膜を電動サンダーで落としていきます。 - 塗料の重ね塗り
ここから塗装作業に入ります。塗った塗料が乾いたら再び同じ塗料を重ね塗りし、よりしっかりとドアに塗料を密着させます。
使用する塗料の種類によって重ね塗りの回数は異なりますが、ドアの木材が塗料を吸い込んでしまうような場合も重ね塗りが行われます。 - 研磨して塗装面を細かくならす
塗料のちょっとしたムラを目の細かいサンドペーパーで研磨して均一にならします。
このように、玄関ドアという畳一枚ぐらいの大きさの箇所でも、高品質な塗装を行うためには非常に多くの工数を必要とします。
このくらい手間暇をかけて塗装を行わなければ良い玄関ドア塗装は行えませんので、10~20万円という塗装費用は決して高すぎない価格相場と言えます。
3.造膜塗料とオイルステイン塗料の違い
木製の玄関ドアに塗装する塗料には、造膜塗料(造膜タイプ、造膜型塗料)とオイルステイン塗料(浸透タイプ、浸透型塗料)の2種類があります。
●造膜塗料とは
外壁などに使用する塗料は水または溶剤の希釈材で溶かして使用しますが、希釈材が乾くと表面に膜を作って塗装面を保護します。
この「膜を作る」という役割から、外壁用の塗料などは「造膜タイプ」の塗料と言われます。
この造膜タイプの塗料は、木材に使うと完成後の塗膜がひび割れを起こすことがあります。
木材は調湿効果を持つため、周りの湿度に合わせて膨張や収縮を繰り替えしています。
この膨張・収縮の動きに押されて塗膜がひび割れするため、造膜タイプで木製ドアを塗装する場合は、木部塗装に特化したタイプを選ばなくてはなりません。
また、造膜タイプで塗ると塗膜で木目が隠れてしまいますので、仕上がり後はやや味気ない見た目になってしまうこともあります。
●オイルステイン塗料とは
オイルステイン塗料は、造膜塗料と違って表面に膜を作らず、素材の内部に浸透する木部用塗料です。
オイルステイン塗料は木に吸い込ませることによって着色する浸透型着色剤ですので、木目を残したままイメージチェンジが行える、まさに木の風合いを生かすためにある塗料と言えるでしょう。
ただし、造膜タイプと違って表面に保護膜を作ることができないため、紫外線や雨風のダメージからドアを保護する耐候性はありません。
そのため、オイルステインの塗料缶には「ニスで仕上げてください」「要・クリア仕上げ」といった具合に保護用の透明塗料で仕上げるよう注意書きされています。
玄関ドアの場合はニスだけでは雨風に耐えきれませんので、ニスよりも耐久性が高いウレタン樹脂タイプのクリヤー塗料などを使って仕上げることになります。
4.木製ドアのメンテナンス方法
木製ドアの風合いを長く楽しむためにも日々のメンテナンスは欠かせません。
例えば、ゴミやホコリなどが長期間ドアに付着しないように、定期的に柔らかい布でから拭きするとよいでしょう。
雨などで泥水がついてしまった場合もできる限り早く取り除くなどして、ドア表面に何もない状態を保つようにしておけば、ドアの耐久性を長期間保てるようになります。
注意点として、お手入れの際にワイヤーブラシを初めとする硬めのブラシや薬剤などで力強く磨くとドアを傷める恐れがありますので、柔らかい布やスポンジで優しく取り除くようにしましょう。
■金属製ドアの塗装について
「金属製のドアはメンテナンスフリー」など謳うメーカーもあるようですが、メンテナンスフリーという建材は基本的に存在しません。
アルミ、鉄、鋼板、ステンレスなどどの金属で作られていても、決してメンテナンスフリーではありませんので、基本的な補修方法を把握しておきましょう。
1.金属製ドアの塗装費用相場
- 5~10万円(1枚あたり)
本体の傷みが進行しやすい木製ドアに比べると、金属製ドアの塗装はやや価格は下がります。
ただし、錆びが広範囲で進行するほど錆び落としのケレン作業が増えて木製ドアよりも高額なリフォーム費用となりますので、できるだけ錆びが広がる前にメンテナンスを行いましょう。
また、アルミ製のドアは塗料を非常に弾きやすいため、しっかり塗料が密着するように強溶剤塗料を使って丁寧に施工する必要があり、他の金属素材に比べると施工価格がやや高くなる可能性があります。
さらに、金属製ドアも木製ドアと同様に、あまりにも本体自体の劣化が進行し過ぎるとドア本体の交換リフォーム工事が必要になります。
片開きや両開きなどドアの種類や大きさにもよりますが、約25~50万円と費用は塗装よりも高額です。
2.金属製ドア塗装の工程
金属製ドアの塗装は、下地材を使った下塗りと、シリコン塗料などの仕上げ用塗料を使った中塗り・上塗りという施工内容になります。
なお、金属製のドアはアルマイト処理といって、金色のやかんのように金属そのものに強力な色づけ処理が施されているものがあります。
この方法で仕上げられている金属製ドアであれば塗装が剥がれることはありませんが、保護用に防サビ用の塗料が塗られている可能性もありますので保護材の定期的な塗り替えが必要です。
■おわりに
玄関ドアも外壁や屋根の塗装とセットで済ませておきたい所ですが、外壁・屋根材とは異なる素材で作られている玄関ドアは特別な施工技術が求められます。
玄関ドアの正しいメンテナンス方法をしっかり身につけて、施工地域内で確かな実績を持つ信頼できる優良業者にドア塗装を依頼しましょう。