塗料にはアクリル樹脂やシリコン樹脂などの有機塗料と、セラミックやガラスを含む無機塗料があります。
完全な無機塗料であるガラスコーティングは、公共施設だけでなく一般住宅での塗装にも使用できますが、外壁塗装で使われることの多いウレタン塗料やシリコン塗料とは、取り扱い方やメンテナンスの考え方がわずかに異なります。
この記事では、ガラスコーティング塗装の特徴やメリット、向いている住宅など、塗装する前に知っておくポイントについてご紹介します。
目次
■ガラスコーティングと無機塗装
ガラスコーティングは、グラスコーティング、ガラス塗料などとも呼ばれて、非常に耐久性が高いことから公共施設の塗装にも使われている塗料です。
1.ガラスコーティングは無機質成分
ガラスコーティングは、無機質成分だけで作られた塗料です。
無機質とは、石や金属、ガラスなど、生物のはたらき(=機)を利用せずに生み出される物質のことです。
一方、有機質とは、植物や動物など、生物のはたらきがなければ生み出せない物質のことで、生物の化石が長い年月をかけて変化した「石油」や、植物性の油や食べ物などは有機質に分類されます。
●無機物は紫外線で劣化しない
生物や植物などの有機は、紫外線のダメージで劣化してしまいます。
しかし、窓ガラスが日の光に当たっても劣化せずにずっと形を保ち続けるように、無機物は、紫外線の影響を大きく受けませんので、有機物に比べると、屋外に長時間置いても長い年月ダメージに耐え続けることができます。
2.有機塗料と無機塗料の違い
外壁塗装用の塗料には、有機物で作られた有機塗料と、無機物を配合した無機塗料があります。
このうち、ガラスコーティング塗料は無機塗料に分類され、そのほかにも、セラミックが配合されたセラミック塗料などの無機塗料もあります。
一方、有機塗料とは合成樹脂を配合して作られた塗料で、一般的な塗装用塗料として知られる、アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素樹脂塗料などの樹脂塗料がこれに該当します。
●ガラスコーティング塗料は完全な無機質
先述の通り、無機物は紫外線の影響を受けにくいため、無機塗料で塗装すると、高い耐候性を発揮することができます(「耐候性」については「ガラスコーティング塗装の特徴」の項目で解説します)。
しかし、完全に無機物だけで塗料を作るのは難しいため、無機塗料の多くは、樹脂などの有機物をベースにして無機物を配合したものがほとんどです。
ところが、今回ご紹介するガラスコーティング塗料は、有機質を完全に排除した、無機質のみで構成された塗料ですので、有機物の劣化が原因で耐久力を落とすことがない、非常に丈夫な塗料となっています。
3.ガラスコーティングが行われる場所
ガラスコーティングによる塗装は、住宅の外壁塗装よりも、公共事業や製造業で使われる傾向にあります。
●公共施設の塗り替え
ガラスコーティングで塗装すると、表面がガラス質の保護膜で覆われますので、非常に汚れが付きにくく、特に、落書きや張り紙に悩まされることの多い公共施設などに適しています。
株式会社プライム技研HPより引用( http://www.primecela.jp/product/25 )
また、有機物は燃えると有害物質を発するようになりますが、無機塗料であるガラスコーティングは燃えにくく、高温になっても有害物質が発生しにくいため、多くの人が利用する公共施設などでは積極的に使用されています。
●身の回りの生活用品
ガラスコーティングは、水や食べ物に接しても成分が溶け出しにくく、人体に安全であることから、食器、家電(パソコン、精密機械)、車のボディー、水回り機器(トイレ、キッチン)など、身の回りの様々な生活用品にも使用されています。
4.ガラスコーティング塗料のメーカー
ガラスコーティングで施工するためには、ガラスコーティング塗料の製造元メーカーと契約している、施工認定店に塗装を依頼する必要があります。
全くガラスコーティングの性能を持たない塗料を、あたかもガラスコーティング塗料のように見せかけて販売する悪徳業者もいますので、ガラスコーティング塗装を検討するときは、メーカーと施工店契約を結んでいるかどうか確認しましょう。
あるいは、「うちの店が開発したオリジナルのガラスコーティング塗料です」などと言っている場合も、本当に開発した可能性は限りなく低いため、業者の過去の施工実績を調べるなどの慎重さが必要です。
●大村塗料株式会社『プライムセラシリーズ』
プライムセラシリーズは、大村塗料株式会社が製造し、株式会社プライム技研が発売している、特殊防汚セラミック塗料です。
落書きや張り紙対策に特化した「プライムセラNo.300」は撥水性が高く、汚れを外壁に染み込みにくくする塗料です。
その他にも、薬品を使わずとも水拭きで汚れを落とせるほどの防汚性を持つ「プライムセラNo.700クリヤー」などがありますが、特に紫外線のダメージが強い外壁用に、UVタイプカットもオプションで選べるようになっています。
●world wise株式会社『C-1グラスシリーズ』
「C-1グラスシリーズ」は、室内外で使用できる、耐候性や不燃性に優れたコーティング塗料です。
また、このシリーズは、販売・施工ともに、メーカーとの加盟店契約や施工店登録が必要です。
研修を受け、グラスシリーズの施工が行えるとメーカーから認定され、メーカーと契約に至った施工店しか塗装はできませんので、塗装を依頼するときは必ず認定証を確認しましょう。
●コスモテクノロジー『GlassECO(グラセコ)』
無機コーティング工法の普及に勤めるコスモテクノロジーは、建物や乗り物などで幅広くガラスコーティング塗装を提供している会社です。
同社のガラスコーティング塗装「GlassECO(グラセコ)」は、一般住宅のガラスコーティング塗装も可能です。
光触媒機能(紫外線の力で汚れを分解する機能)やセルフクリーニング機能はオプションとなっていますが、塗料自体が汚れをはじく材質のため、雨が降るたびに浮いた汚れを洗い流すことができます。
■ガラスコーティング塗装の特徴
無機質のみで作られたガラスコーティングは、耐久性が高いことはもちろん、外壁の塗装に非常に適した、高性能な塗料でもあります。
1.塗料としての性能が優れている
外壁塗装において、「耐久性が高い」とは、長期間の使用に耐えられること・紫外線などのダメージに強いこと、汚れに強いこと、と考えることができます。
ガラスコーティングは、これら3つの特徴を踏まえていることから、とても高い耐久性を誇る塗料として知られています。
●耐用年数が長い
ガラスコーティングは、現存する塗料の中でも特に長い耐用年数を発揮する塗料です。
world wiseのC-1グラスシリーズは20年以上、プライム技研のプライムセラは25年以上の期待耐用年数を持つと、メーカーホームぺージ上で紹介されています。
一般的な樹脂塗料の場合、最も耐用年数が短いアクリル塗料は、長くても8年程度しか持ちません。
また、最高位グレードのフッ素塗料は、現場の環境が良ければ20年持つこともありますが、早いときは、15年で劣化が始まることもあります。
このような理由から、樹脂塗料で塗装された外壁は、平均して約10年に1度、塗替えが必要になると言われていますが、ガラスコーティングで塗装された外壁は、10年近く大きなメンテナンスをすることなく過ごせると考えられています。
●耐候性が高い
「耐候性」とは、紫外線や雨水、気温の変化など、屋外で発生する様々なダメージに耐える力のことです。
冒頭で紹介した通り、無機質のガラスコーティングは紫外線のダメージを受けませんので、塗料の成分が劣化して塗膜の防水性が低下することもなく、耐水性も高い塗料となっています。
その他、撥水性も高いため雨水を弾きやすく、外壁内部への水漏れ防止効果も期待できます。
●耐汚染性が高い
ガラスコーティング塗料は撥水性が高いため、水や油をはじきやすく、汚れの付着も防止します。
また、汚れが外壁に定着しにくくなるため、雨水が当たれば、浮いた汚れが洗い落とされるため自浄効果も高く、カビ・コケも発生しにくくなるため、色あせのしにくさも相まって、外壁の色艶を長持ちさせることができます。
2.透明(クリヤー)
ガラスコーティングはクリヤーな塗料ですので、装飾や模様が付いた外壁材やタイル材や、独自の質感を持つコンクリート外壁などの塗装に適しています。
無色のため、上から塗布しても素材の質感が潰れてしまうこともなく、強力に表面を保護することができます。
ただし、外壁材自体が色あせてしまっているケースでは、色あせたまま表面を保護してしまいますので、クリヤー塗装をしても美観の向上は期待できませんのでご注意ください。
3.やや弾性をもつ
弾性とは、力が加わったときに伸縮して負荷を軽減するはたらきのことです。
ひび割れが起きやすいモルタル壁などは、強い負荷が加わってもひび割れしにくくするために、弾性塗料と呼ばれる、弾性に特化した塗料で表面を保護するリフォームが行われることがあります。
ガラスコーティングは、名前の響きから硬い膜ができるように感じますが、実はやや弾性を持つ塗料ですので、多少の負荷が加わってもひび割れを防ぐ効果があります。
4.塗装する部位を選ばない
ガラスコーティング塗料は、ほとんどの素材に塗装できる塗料です。
タイル、石材、木材、コンクリート、モルタル、鉄、ステンレス、プラスチックなど、様々な素材が点在する外壁・屋根でも、しっかりと密着して保護することができます。
そのため、付帯部だけプラスチックや木材、または屋根だけ金属、などのように、異なる外装材が組み合わさっている家でも、建物全体にガラスコーティングを施すことが可能です。
ただし、シーリングという目地を持つサイディングの外壁は、ガラスコーティングの施工が向かない家です。
その理由については、後述の「ガラスコーティング塗装が向いている家は?」にて解説します。
5.人体や環境に優しい
無機塗料は、植物や生物などの有機物を含まないため、アレルギーのリスクを減らすことができるというメリットがあります。
また、成分が溶け出しにくいことから、触れたり口に付けたりしても体内に侵入しにくく、その点からも人体に優しい塗料と言えるでしょう。
■ガラスコーティング塗装が向いている家は?
高い耐久性・耐候性・安全性を誇るガラスコーティング塗料は、一般的な有機塗料に比べると、施工費用は高くなります。
また、施工できる業者が限られることから、技術力が低い職人や施工実績を持たない業者に頼んでしまうと施工ミスを招く恐れもあるため、高い費用を支払ってまで本当にガラスコーティングをすべきかどうかは、発注する業者とよく相談しなければなりません。
1.塗料で外壁を塗りつぶしたくないとき
タイルやレンガ、装飾系サイディングボードなど、外壁材にデザイン性が高いものが使われている家では、外壁リフォームの際、無色のクリヤー塗料で表面の保護が行われることがあります。
ガラスコーティング塗料は、外壁材の素地を潰さずに塗ることができますので、一般的なクリヤー塗料よりも長くコーティングを長持ちさせたいときの選択肢としておすすめです。
●下地の塗料で色を出すことも可能
「無色ではなく、色付きの塗料で塗替えをしたい」というときは、ガラスコーティング塗料の下に塗る、下地用塗料の色をお好みの色にすることで、別の色で外壁や屋根を塗替えながら、ガラスコーティングを施すことができます。
下地用塗料とは、外壁と仕上げ用塗料がしっかり密着するために塗る接着剤のような塗料ですが、クリヤー系塗料のほとんどは下地材がなくても塗装できるものが多く、ガラスコーティング塗料も下塗りを不要とするものがあります。
下塗りの必要がなければ、塗装の工程がひとつ減り、その分施工費用も安くなりますので、色を付けるべきか、予算を優先するかは、施工業者によく相談することをおすすめします。
2.シーリングが少ない家
シーリング(コーキング)とは、主にサイディングボード同士の目地に充填されている樹脂系の部材ですが、有機の樹脂ですので紫外線に弱く、その耐用年数は7~10年と言われます。
仮に、シーリングが使われている外壁に、耐用年数が20年と言われるガラスコーティングを塗装してしまうと、塗料の劣化よりだいぶ早くシーリングが劣化してしまうことになります。
つまり、シーリングのメンテナンスと外壁塗装が別々のタイミングになってしまい、その都度足場の設置や養生費用が発生して、ランニングコストを圧迫してしまう恐れがあるのです。
●シーリングが劣化すると外壁材にもダメージが及ぶ
外壁材が強力なガラスコーティングで覆われていれば安心と考えてしまいがちですが、継ぎ目のシーリングは、外壁材の内側に雨水が浸水しないようにするための、重要な防水材です。
そのため、いくら耐久性が高い塗装で表面だけ覆われていても、シーリングのメンテナンスをおろそかにすれば、外壁、ひいては家の耐久性まで落ちてしまいかねないのです。
シーリングが広範囲に使われていない外壁材を除いては、ガラスコーティングではなく、シーリングの劣化周期に近い、シリコン塗料など耐用年数が10年前後の塗装を選んだ方がよいでしょう。
3.費用に余裕があるとき
現在、大半の外壁塗装で使われているシリコン塗料は、平米あたり約2,800円前後で塗装することができます。
一方、ガラスコーティングは、平米単価が4,800~5,500円と非常に高く、100平米を塗装したときの足場代など諸費用含む合計金額は、110~120万円になることもあります。
また、ガラスコーティングで塗装された外壁は、塗替えの際、上から塗料が乗りにくくなるというデメリットがあります。
そのため、一度ガラスコーティングで塗装した外壁や屋根は、次回の塗り替えの際に選べる塗料が限られてしまい、ガラスコーティングよりも安価な塗料を選ぶのであれば、塗装の前に大掛かりな下地調整が必要になり、塗替え費用が割高になってしまう恐れもあります。
●外壁のみガラスコーティングで塗装するとどうなるか
「費用を節約するために、外壁だけガラスコーティング塗装をしよう」と考えてしまうかもしれませんが、外壁と屋根は、耐用年数が同時に尽きるように塗料を選ぶのが望ましいとされます。
その理由として、外壁だけ耐用年数が長いガラスコーティングで塗装しても、屋根はその半分以下しか耐用年数が持たない塗料で塗装していれば、屋根と外壁がそれぞれ劣化するたびに、足場を組んでリフォームを行わなければならず、メンテナンスコストも無駄にかかってしまうためです。
ガラスコーティング塗装を選ぶときは、次回のメンテナンスでもガラスコーティングを選ぶ余裕があるか、屋根も同時に塗装できるかなども検討しておきましょう。
■おわりに
耐久性に優れ、外壁と屋根の天敵である紫外線の影響を受けない、高耐久塗料・ガラスコーティング塗料は、家を長持ちさせるためにぴったりの塗料です。
しかし、どんなに高耐久性の塗料でも、必ず経年劣化してしまうことに変わりはなく、ガラスコーティングも、次回の塗装メンテナンスも考えたうえで選ばなくてはなりません。
ご自身の家が、ガラスコーティング塗装のメリットを活かせる家かどうか、塗装前にしっかり判断しておけるように、塗装専門業者にアドバイスを求めて後悔のない外壁塗装にしましょう。