外壁材(特にサイディングボード)の目地部分には、ゴムのような部材が充填されています。
ふだんあまり目に留める機会がない、このゴムのような部材は「コーキング(シーリング)」と呼ばれ、外壁と、建物全体を保護する大切な役割を持っています。
また、コーキング材は外壁材や外壁の塗装よりも劣化周期が早く、定期的に点検しておくことが、建物を長持ちさせるためにも大切です。
この記事では、外壁におけるコーキングの役割や点検方法のほか、同じくゴムのような性質を持つ「弾性塗料」などについても解説します。
目次
■コーキング材の特徴
「コーキング材」はシーリング材とも呼ばれ、どちらも「隙間を塞ぐ」という意味で使われる言葉です。
1.コーキング材の種類
コーキング材は、大きく1成分形と2成分形に分かれています。
●1成分形
1成分形のコーキングとは、硬化剤を使わなくても、自然乾燥で固まるコーキング材のことです。
空気中の湿気に反応して固まるシリコン系・変性シリコン系・ポリウレタン系や、乾燥する過程で固まっていくアクリル系・ブチルゴム系などのほか、表面の膜だけが固まり、内部は固まらない油性コーキング系などもあります。
●2成分形
2成分形とは、硬化剤が別途必要なタイプのコーキング材です。
変性シリコン系・シリコン系・ポリウレタン系などに分かれていますが、1成分形のようにアクリル系や油性系はありません。
2.コーキング材の素材
外壁塗装に使われるコーキング材の素材は、主に、シリコン系、変性シリコン系、ポリウレタン系の3種類です。
●シリコン系コーキング
コーキング材の中では非常に耐用年数が長いタイプです。
浴室の浴槽周辺にも使われるほど耐水性が高く、耐熱性・耐候性も持っているため、外壁にも使えます。
ただし、施工後は上から塗装することができず、劣化するとコーキング周辺の塗装に黒ずみを作ることがあるため、ノンブリード材で保護しておく必要があります。
ノンブリードとはブリード現象が起きにくいものの事で、ブリード現象について詳しくは後述します。
●変性シリコン系コーキング
耐候性に優れていますが、水分に弱いため、外壁に使用した時の耐用年数はあまり長くありません。
しかし、シリコン系と違って、乾燥後に上から塗装して保護することができます。
●ポリウレタン系コーキング
コーキング材の中でも、ゴムのような弾力性が強いコーキング材です。
部材同士に軽微な歪みが生じても、追従して割れを防ぎます。
防汚性に優れていますが、耐候性は高くないため紫外線に弱く、施工後は、上から塗装して保護する必要があります。
3.コーキング材の役割
外壁の耐久性を高めるものは、塗料だけではありません。
外壁や窓枠など、部材同士の隙間をコーキングで充填することによって、外壁だけでは防げない雨水や害虫から家を守ることができるのです。
●隙間を塞いで外壁全体を繋ぐ
サイディングボードやALC(軽量気泡コンクリート)の外壁は、複数のパネルを張り合わせて作ります。
そのため、部材同士にはわずかな隙間ができてしまいます。
部材同士の隙間をコーキング材で繋ぐことによって、外壁全体に一体感ができ、耐久性をより確かなものにすることができます。
参考:サイディングボードのメンテナンス、ひび割れ等の補修方法
ALCパネルの外壁塗装工事について、塗装の時期と塗装材料
そのほか、「構造クラック」と呼ばれる、深いひび割れも、コーキングを充填して補修することができます。
●雨水の浸水を防ぐ
コーキングの最も重要な役割は、目地の隙間から、雨水が浸水しないように防水することです。
雨水が外壁内部に浸水すると、窯業系サイディングボードでは反りが生じやすくなり、金属系サイディングボードやガルバリウム鋼板は、錆びの原因になってしまいます。
モルタル外壁やコンクリートの外壁であれば、内部の鉄筋が錆びて、モルタルやコンクリートが剥がれる「爆裂」が起きることもあります。
建物を守るためにも、コーキングで外壁の防水性を保つことが非常に重要といえるでしょう。
●害虫の侵入を防ぐ
外壁の隙間から侵入してくるのは、雨水だけではありません。
湿気の多い外壁内部を好む、シロアリなどの害虫が、外壁の隙間から入ってくることがあります。
建物内部に侵入したシロアリは、木材に大きなダメージを与え、不衛生な環境を作るなど、建物の耐久性を大きく脅かす存在です。
外壁の隙間をコーキングで塞ぐことで、害虫の侵入からも家を守ることができます。
■コーキングの劣化と補修方法
ゴム製のコーキング材は、外壁を構成する部材の中でも、比較的早く寿命が訪れます。
劣化したコーキングを放置しておくと、いかに塗装や外装材の耐久性が高くても、建物を保護できなくなってしまいます。
劣化の兆候と補修方法をあらかじめ把握しておきましょう。
1.劣化したコーキングの症状
コーキングの劣化には、色あせや変色、収縮(痩せ)や割れ、ブリード現象などがあります。
それぞれについて以下で解説していきます。
●色あせ、変色
紫外線に長時間晒され続けたコーキングは、変色や色あせが生じはじめます。
色あせや変色が直接外壁の劣化に結びつくことはありませんが、コーキングの耐久性が落ちている兆候ですので、点検を検討する時期といえるでしょう。
●収縮、割れ
紫外線のダメージや、コーキング自体への雨水の浸水により、コーキングに収縮と割れが生じることがあります。
地震や衝撃による建物の歪みで割れが広がるケースもあります。
収縮したコーキングの隙間や割れから、雨水などが入り込みやすくなり、劣化がさらに進むとコーキングが目地から完全に浮き上がってしまうことがあるため、早めの点検が必要です。
●ブリード現象
コーキングには、可塑剤が含まれているタイプがあります。
この可塑剤が、コーキングから徐々に周囲に広がり、目地周辺の塗装に黒ずみを作ることがあります。
この汚染現象は「ブリード現象」と呼ばれ、外壁全体の美観を損ねるだけでなく、一度進行してしまった汚染は除去することができません。
可塑剤が含まれていないコーキング材を選んだり、黒ずみをシャットアウトする保護材で塗装したりすることで、汚染を防ぐ対策が必要です。
2.コーキングの補修方法
コーキングの補修方法には、「打ち替え」と「増し打ち」の2種類があります。
●コーキングの打ち替え
コーキングの打ち替えでは、劣化した古いコーキングをすべて取り除き、新しいコーキング材を補填します。
大まかな作業の手順は以下のようになっています。
- 古いコーキング材を除去
- 目地内部を清掃
- 目地周辺をテープで養生
- 目地内部に下地材を塗布
- 目地内部にコーキングを注入
- ヘラなどでコーキングを平らに仕上げる
- コーキングが乾かないうちにテープを除去
- 約1~3日乾燥させて完成
カッターやペンチなどの道具を使い、目地周辺にこびりついたコーキングの切れ端もすべて除去することで、新しいコーキング材が、目地にしっかり密着しやすくなります。
目地内部の細かい清掃を怠るなど、手抜き工事で済ませる悪徳業者を選んでしまわないよう、コーキング打ち替え業者を選ぶ時は、過去の打ち替え工事の施工写真などを見せてもらうよう相談するとよいでしょう。
コーキングの打ち替えは非常に時間がかかり、足場も組まなければならず、費用相場は戸建住宅1棟あたり、約10~15万円と、比較的負担の大きい工事です。
しかし、後述の「増し打ち」よりも耐久性の高いコーキングとなりますので、外壁メンテナンスの負担を減らすことができるでしょう。
●コーキングの増し打ち
増し打ちとは、既存のコーキングをそのまま残し、新しいコーキング材を上から補填する方法のことです。
コーキングの収縮によって剥き出しになってしまった目地を、新しいコーキング材で補填するため、理論上は目地を保護することがます。
さらに、既存コーキングの撤去を行わない分、割安な工事費用で済ませることができるなど、メリットもありますが、既存コーキングの劣化状況を見誤ると、十分な補強にならない可能性があります。
3.コーキング単独の点検も必要
外壁や屋根に使われる、一般的な塗装の劣化周期は、約10~15年といわれます。
そのため、多くの家では、約10~15年に一度は塗替えが行われます。
また、外壁塗装では通常、コーキングの点検も同時に行います。
しかし、コーキングの劣化周期は、約5~10年と塗装よりも早く、塗装に踏み切った時には既にコーキングの深刻な劣化が進んでいる恐れがあります。
●コーキングの劣化が塗装費用にも影響する
コーキングの劣化を放置してしまうと、躯体への雨漏りや害虫の侵入などにより、外壁や建物は深刻なダメージを受けることがあります。
劣化が進行した建物は、外壁塗装の際に、下地調整やケレン作業が広範囲に及び、塗装以上の費用が追加されてしまいます。
場合のよっては、サイディング材の張替えや、基礎の補強工事など、非常に大掛かりな工事にも発展してしまいかねません。
そのため、コーキングは塗装工事のついでに行うのではなく、約5年に1度は単独で、劣化の診断や打ち替えを済ませることが推奨されています。
■外壁塗装に使われるゴム質の弾性塗料
外壁塗装において、ゴムの性質はコーキング以外でも利用されています。
外壁の種類によっては優れた効果を発揮する、弾性塗料の特徴を知っておきましょう。
1.ゴム質の弾性塗料の特徴
塗料の種類は、弾性のレベルに応じて、硬質塗料<微弾性塗料<弾性塗料に分けることができます。
特殊塗料である「弾性塗料」は、弾力性と伸縮性によって外壁の動きに追従することができ、建物に歪みが起きても塗膜の表面がひび割れにくいという性質をもっています。
このような性質から、弾性塗料は、ひび割れが起きやすいモルタル壁と相性がよい塗料として知られています。
●ウレタン塗料の弾性
弾性タイプではないウレタン塗料にも、わずかですが弾性機能があります。
一方、弾性のないシリコン塗料やフッ素塗料は、硬い塗膜を形成するため、ヒビが生じやすい塗料となっています。
塗料選びでは、このような塗料の主成分ごとの特徴も比較してみるとよいでしょう。
2.弾性塗料を使った外壁塗装
弾性塗料を使った仕上げ方は3通りあり、それぞれ耐久性が異なります。
●単層弾性工法
下塗りに「シーラー」と呼ばれる下塗り材を使い、その上から弾性塗料を2回重ね塗りして弾性塗膜を作る工法です。
通常の塗装とほぼ似た工程で行われるため、費用も高額にはならず、さらに弾性塗料を使うことによって、ある程度ひび割れに強い外壁を作ることができます。
しかし、後述の複層弾性工法に比べると、耐久性はあまり高くないため、ウレタンやシリコンなど、グレードの高い単層弾性塗料を選んでおく必要があります。
●複層弾性工法
複層弾性工法は、シーラーによる下塗りを1回、その上から、弾性塗料を中塗りと上塗りでそれぞれ2回塗る、計5回の重ね塗りで仕上げる工法です。
約20年前後という、非常に長い耐用年数を発揮しますが、計5回分の塗装費用と塗料代がかかるため、高額なリフォーム予算となることは言うまでもありません。
【参考】平方メートルあたりの価格相場
- 複層弾性工法:約5,500円
- 通常塗装のシリコン塗料:2,200~3,500円
- 通常塗装のフッ素塗料:約3,000~4,500円
もし、上記の相場を大幅に下回る価格で複層弾性工法を行うような格安業者があれば、重ね塗りの回数を省いたり、弾性ではない塗料を使ったりする手抜き工事を行う恐れがあります。
塗装費用の見積もりは無料で行ってもらえますので、複層弾性工法とそれ以外の工法を比較し、相場内の金額で工事を依頼できる優良業者を探すとよいでしょう。
●微弾性塗料工法
単層・複層弾性工法と違って、「微弾性フィラー」という、微弾性の下塗り塗料を使う工法です。
上塗り塗料には、弾性タイプではない通常の塗料を使います。
耐用年数は上塗りに使った塗料に準じますので、グレードの高い塗料を選ぶほど長持ちさせることができます。
参考:ゴムの性質でクラックを防止する複層、単層、微弾性塗料とは
■まとめ
柔らかく動き、強力な膜を作るゴムの性質は、硬い建物を守るためになくてはならない存在です。
目地を塞ぐコーキングや、ひび割れを抑える弾性塗料など、外壁塗装では、様々な箇所にゴムの性質が活かされています。
また、コーキングは劣化が早く、劣化すると外壁全体まで被害が及んでしまいますので、単なる目地材と考えず、はやめの点検を心がけましょう。