雨や紫外線から建物を守っている外壁と屋根は、定期的な塗装や補修工事が必要ですが、ふだん目に入らない屋根は外壁に比べるとメンテナンスがおろそかになりがちです。屋根のリフォーム方法について把握しておくと、メンテナンスの計画を立てやすくなり無駄な費用をかけずにスムーズに済ませることができます。
この記事では屋根塗装に踏み切る前に知っておくべき、基本的な屋根の知識と費用相場をご紹介します。
目次
■屋根塗装の基礎知識
屋根塗装で失敗しないためにまず知っておきたいのは、
- 塗装すべき屋根材とそうでない屋根材があること
- 塗装は3回塗りが基本であること
- スレート屋根には「縁切り」が欠かせないこと
の3点です。
1.屋根材には塗装が必要なもの・不要なものがある
屋根のうち、日本瓦は塗装する必要がないため塗替え工事も不要です。
粘土を高温で焼き固めて作る日本瓦の屋根は、熱に強く紫外線で劣化しません。
素材そのものの丈夫さに加えて、釉薬やいぶし銀で表面が保護されているものなどもあります。
ただし同じ瓦屋根でもセメントやコンクリートを成分とする「洋瓦」は、表面を塗装で保護しておかなければ瓦本体が劣化してしまいますので、定期的な塗替えが必要です。
屋根材別の塗装の有無は以下の通りです。
屋根材 | 再塗装の有無 |
日本瓦 | 塗装の必要はない |
洋瓦
(セメント瓦、コンクリート瓦) |
必要 |
スレート屋根
※コロニアル瓦とも呼ぶ |
必要 |
ガルバリウム鋼板 | 必要 |
トタン | 必要 |
●塗装は不要でもメンテナンスは発生する
塗装が不要な日本瓦だからといって、何もせず放置してよいわけではありません。
瓦自体が欠けたり落下して割れたりしたときは交換が必要となり、瓦を固定している部材のメンテナンスも必要です。
また、屋根の内部に敷かれている野地板や防水シートなどが経年劣化すると雨漏りの原因となりますので、表面の屋根材に異常がなくても定期的に点検しておかなければなりません。
2.塗料は3回塗りが原則
屋根、外壁のどちらにおいても塗装作業では必ず「3回塗り」が行われます。
下塗り | 下塗り用塗料を使う |
中塗り | 仕上げ用塗料を使う |
上塗り |
最初に下塗りで塗面の小さなひび割れや凹凸を埋めたり、塗面が塗料を吸い込むのを防いだりして、塗面と仕上げ用塗料が密着しやすい状態を作ります。
下塗り塗料が乾いたあとは仕上げ用塗料を2回塗って塗装は完成です。
下塗りを省いてしまうと、いかに高級な仕上げ用塗料を塗装しても塗膜がすぐに剥がれたり気泡ができたりして劣化してしまいます。
あるいは仕上げ用塗料を一回しか塗装しなかった場合も、下地が透けたりムラができたりして丈夫な塗膜になりません。
見積書を見るときは、下地用塗料と仕上げ用塗料がそれぞれ部材代に含まれていることを確認し、手抜き工事を未然に防ぎましょう。
3.スレート屋根には「縁切り」作業が必要
スレート屋根は、屋根材を何枚も重ね合わせて一枚の大きな屋根になっています。
このとき表面を塗装すると、どうしても屋根材同士の継ぎ目が塗料で埋まってしまいます。
埋まった継ぎ目をそのまま放置してしまうと、屋根材がうまく雨水を排水できなくなり屋根の内部に溜まって、室内の雨漏りを引き起こす恐れがあります。
そのため、継ぎ目を塞いでいる塗料にカッターなどで切り込みを入れる「縁切り」作業を行って、継ぎ目の水はけを確保しておかなければなりません。
●「タスペーサー」を使う屋根塗装が増えている
中塗りの前に「タスペーサー」という小さい器具を屋根の隙間に差し込んでおくと、塗装しても塗料が屋根の継ぎ目に入り込まなくなりますので、後からカッターで切り込みを入れる手間も省けます。
カッターを使った縁切りは屋根の塗料が乾いてからしか行えず効率が悪く、塗装後の屋根を歩き回らなければならずうっかり足跡が付いてしまうことがあります。
また、切り込みが不十分だと塗料がくっ付いてしまうこともあることから、効率を優先してタスペーサーを使う塗装業者が増えてきました。
■屋根塗装の費用相場と内訳
屋根塗装では塗装以外にも様々な作業が行われます。
どのような作業が何のために行われるか知っておくと、見積もりに書かれている内容がわかりやすくなり相場感も身に付くでしょう。
1. 屋根用塗料にはグレードがある
塗装費用の内訳や相場を知る前に、中塗りと上塗りに使う仕上げ用塗料にはグレードが存在することを知っておきましょう。
グレードが高い塗料ほど耐久性が高く耐用年数も長くなります。
塗料の種類
(グレードが低い順) |
耐用年数
※屋根に使用した時 |
アクリル塗料 | 約5年 |
ウレタン塗料 | 約8年 |
シリコン塗料 | 約10年 |
フッ素塗料 | 約15年 |
最もグレードが低いアクリル塗料は紫外線に非常に弱く、屋根に使用しても5年程度しか持たないため屋根塗装で使われることはほぼありません。
上記のグレード以外に、太陽熱を軽減する「遮熱塗料」や室内の暖かい空気を逃さないために「断熱塗料」などもあります。
なお、下塗りに使う下地用塗料は、屋根材の種類に応じて異なる特徴のものを使い分けます。
2.屋根材別・塗替えの施工単価
屋根材ごとの塗り替えにかかる施工単価相場は以下のとおりです。
セメント瓦
下塗り | |
シーラー | 600~700円 |
上塗り | |
アクリル
※ほぼ使用されない |
700~1,000円 |
ウレタン | 1,500~2,000円 |
シリコン | 2,000~3,000円 |
フッ素 | 3,200~4,000円 |
断熱 | 3,500~4,500円 |
スレート屋根
下塗り | |
シーラー | 600~700円 |
上塗り | |
アクリル
※ほぼ使用されない |
700~1,000 |
ウレタン | 1,500~1,700円 |
シリコン | 2,200~2,800円 |
フッ素 | 3,000~4,000円 |
断熱 | 3,500~4,500円 |
その他費用 | |
タスペーサー
(縁切り) |
350円 |
ガルバリウム鋼板
下塗り | |
プライマー | 700~900円 |
錆止め塗料 | 650~700円 |
上塗り | |
アクリル
※ほぼ使用されない |
700~1,500円 |
ウレタン | 1,500~2,040円 |
シリコン | 1,400~1,800円 |
フッ素 | 3,000~3,800円 |
断熱・遮熱 | 3,300~4,500円 |
トタン屋根
下塗り | |
シーラー | 600~700円 |
上塗り | |
アクリル
※ほぼ使用されない |
1,000~1,500円 |
ウレタン | 1,500~2,040円 |
シリコン | 1,800~1,720 |
フッ素 | 3,000~3,800円 |
断熱・遮熱 | 3,300~4,500円 |
その他費用 | |
タスペーサー
(縁切り) |
350円 |
3.塗装以外の施工単価
屋根塗装では塗装以外にも複数の工程が行われます。
ある工事を1㎡分行ったときの価格を「施工単価」と呼びます。
施工単価に作業を行った面積を乗じれば作業ごとの費用がわかり、各作業の費用を合算すれば屋根塗装の費用となります。
屋根塗装で行われる作業とそれぞれの施工単価は以下のとおりです。
なお、屋根の状態によって行われる作業とそうでない作業がありますが、必ず行われるものは★マークを付けています。
作業 | 施工単価 |
★足場設置 | 700~900円 |
屋根足場設置
※傾斜が急な屋根の場合 |
700~800円 |
★高圧洗浄
…屋根表面の汚れを除去する |
200円 |
バイオ洗浄
…カビ、コケ、藻が多い屋根で行う |
300~500円 |
★ケレン作業
…鉄部の錆びを除去する |
200~500円 |
★錆び止め
…鉄部に行う |
400~600円 |
★養生
…足場周りに飛散防止ネットを張る |
100円 |
★屋根塗装 | 塗料のグレードによる |
★付帯部塗装
…雨樋、破風板、棟板、鼻隠しなどの塗装費用 |
300~500円 |
2.坪数別・屋根塗装費用の相場
建物の坪数が大きいほど屋根面積も増え、塗装費用も高くなります。
以下は坪数別の屋根塗装の相場をまとめた表です。
※1足場設置や養生費用も含む合計価格です
※2天窓の有無や屋根の形状、付帯部塗装の有無などによって費用は変動します。
坪数 | 屋根塗装単体の費用相場 | |
20坪代 | ウレタン塗料 | 16~22万円 |
シリコン塗料 | 20~36万円 | |
フッ素塗料 | 28~39万円 | |
断熱・遮熱塗料 | 35~45万円 | |
30坪代 | ウレタン塗料 | 20~30万円 |
シリコン塗料 | 25~40万円 | |
フッ素塗料 | 30~49万円 | |
断熱・遮熱塗料 | 38~52万円 | |
40坪代 | ウレタン塗料 | 28~37万円 |
シリコン塗料 | 33~48万円 | |
フッ素塗料 | 42~60万円 | |
断熱・遮熱塗料 | 50~70万円 | |
50坪代 | ウレタン塗料 | 34~45万円 |
シリコン塗料 | 45~58万円 | |
フッ素塗料 | 55~82万円 | |
断熱・遮熱塗料 | 60~89万円 | |
60坪代 | ウレタン塗料 | 43~57万円 |
シリコン塗料 | 55~70万円 | |
フッ素塗料 | 70~90万円 | |
断熱・遮熱塗料 | 70~95万円 |
■屋根塗装を外壁と一緒に済ませておくべき理由
屋根材そのものが耐久性を失ってしまった場合は、塗装で表面をどれだけ保護しても意味がありません。
屋根材自体が劣化してしまったときは、屋根材に手を加えるリフォームが必要です。
1.屋根材リフォームの方法は2種類ある
屋根材を新しいものと交換する工事を「葺き替え」と呼びますが、葺き替えは旧屋根材の撤去と新しい屋根材の設置が必要になるため、塗装の倍以上の費用が発生します。
以下は葺き替え工事の費用相場です。
旧屋根材を撤去する費用
作業内容 | 単価相場 |
既存屋根材撤去 | 2,500~3,300円 |
コンパネ施工:
屋根の下地材を敷く作業 |
2,000~2,500円 |
ルーフィング施工:
防水シートを設置する作業 |
500~700円 |
新しい屋根材を設置する費用
作業内容 | 単価相場 |
トタン屋根に葺き替え | 3,000~4,000円 |
スレート屋根に葺き替え | 5,000~6,500円 |
ガルバリウム鋼板に葺き替え | 6,000~8,500円 |
日本瓦に葺き替え | 10,000~15,000円 |
洋瓦に葺き替え | 7,000~9,000円 |
約30坪の家であれば屋根の葺き替え工事はおよそ100~140万円が相場です。
30坪代の塗装費用相場は25~40万円ですので、葺き替えとの差額は75~100万円にもなってしまいます。
屋根材自体が傷んで使えなくなる前に、定期的に塗装で表面を保護したり屋根下地を点検したりするなどのメンテナンスを済ませておきましょう。
●デメリットに納得できれば重ね葺き工法も有効
既存の屋根材を撤去せず、新しい屋根材を上から重ねるリフォーム方法が「重ね葺き」
またはカバー工法です。
葺き替えと違って産廃処理や解体作業が必要ないため費用も安く、工期も短いというメリットがあります。
ただし
- 建物が重くなり地震で揺れやすくなる
- 屋根下地の状態を点検できない
- 雨漏りや防水シートの劣化などを見逃す恐れがある
- 瓦屋根では行えない
などのデメリットがあるため屋根の劣化状態によっては選択できません。
「費用が安く済む」、「工事が簡単」など重ね葺きのメリットを強調するリフォーム会社や建材メーカーもありますが、施工業者のトークを鵜呑みにせず、デメリットも把握したうえで選ぶことが大切です。
なお外壁でもカバー工法は行えますが、メリット・デメリットは屋根とほぼ同様です。
2.外壁とセットで塗装すると足場代が一回分で済む
外壁塗装と屋根塗装は、別々に行うとそれぞれに足場代が必要になります。
塗装工事の足場代は一棟あたり約15~20万円ですが、外壁と屋根をそれぞれ単体で塗装すると、足場代だけで合計30~40万円の費用になります。
ところが外壁と屋根を別々で塗装せずに、同時に塗装すれば足場代は一回分で済ませることができます。
例)30坪の家をシリコン塗料で塗装した場合
外壁単体で塗装 | 70~90万円 |
屋根単体で塗装 | 25~40万円 |
合計:95~130万円 |
外壁と屋根をセットで塗装 | 合計:85~110万円 |
外壁も屋根も10~15年周期で再塗装が必要ですので、約10~20万円安くなるだけでトータルのリフォーム費用は大きな差になります。
●外壁と屋根で使う塗料は耐用年数を合わせる
外壁と屋根はできるだけセットで塗装した方がよいのですが、前回使用した塗料の耐用年数がバラバラだと別々に塗装しなければなりません。
先程ご紹介したように、塗料はグレードごとに耐用年数が異なります。
さらに、屋根は外壁よりも太陽光が当たるため先に劣化しますので、屋根用の塗料は外壁よりもグレードが高いものを選ぶ必要があります。
外壁と屋根をセットで塗装するときは、使用する塗料のグレードを揃えるのではなく、耐用年数を揃えることを意識しましょう。
■おわりに
屋根塗装も外壁塗装も建物を守るための大切なメンテナンスですので、どんな家でもいずれは実施しなければなりません。
特に高所にある屋根は劣化に気づきにくいため、外壁に劣化が現れたときは屋根もセットで点検した方がよいでしょう。
見積書の見方や費用相場を知って、屋根材が劣化してしまう前に塗装リフォームを済ませておくことをおすすめします。