外壁塗装に使われる塗料において、水性塗料と油性塗料(溶剤塗料)のどちらが良いのかというのは今現在、業者さんの間でも意見が分かれており、「耐久性なら油性塗料が良い」や「水性塗料は進化しているので油性塗料に負けない」など、見解によって様々です。
ご自宅の外壁塗装で使う塗料を決めてしまう前に、油性と水性の違いや選んだときのメリット、デメリットをそれぞれ確認しておきましょう。
目次
■塗料には水性塗料と油性(溶剤)塗料があります
塗料にはシリコンやウレタン、断熱、遮熱など非常に多くの種類があるのでどれにどんな効果があるのか整理できず混乱してしまいますが、どのような塗料にも「水性塗料」と「油性塗料(溶剤系塗料)」の違いがあることを覚えておきましょう。
1.水性塗料と油性塗料の分け方
外壁塗装用の塗料に含まれる「顔料」「樹脂」「添加物」はそれぞれ液体ではなく個体なので、まず液体で溶かして(薄めて)壁に塗って乾かし、溶かした液体を蒸発させることで壁に密着させるのです。
このときに塗料を溶かすのが水なら水性塗料、シンナーなどの溶剤で溶かすなら油性塗料で、どれくらいの水、溶剤で溶かすのか、などの希釈率に関しては細かくメーカーによって定められており、塗料、塗り方、気温、天気などによって変わってきます。
一般的に油性塗料と言われている塗料は溶剤で溶かしているので溶剤塗料の事ですが、水性の反対ということからか油性塗料と呼ぶ方が多いようです(このページでは溶剤塗料、弱溶剤塗料ともに油性塗料として統一させていただきます)。
■油性塗料(溶剤塗料)について
水は飲んだり近くに置いてあったりしても特に健康被害などはない無害な液体といえますが、油性塗料に使用するシンナーなどの有機溶剤は「他の物質を溶かすための物質」ですので、身の回りの物質だけでなく、人体にとっても非常に危険な有害物質です(シンナーによる人体への影響に関する記事はこちら)。
そのため、有機溶剤を扱う現場では労働災害が起きないように、「有機溶剤作業主任者」の資格を持つ人物を現場に必ず起き、取り扱い後は作業員の健康診断を行うよう厚生労働省が定めています。
1.溶剤と弱溶剤
油性塗料は希釈に使用する溶剤の違いで「溶剤(強溶剤)」と「弱溶剤」に分かれており、溶解力が強い種類にはアクリルシンナーやラッカーシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナーなどがあります。
これらの強溶剤を使う塗料ということで溶剤系塗料は「強溶剤塗料」、または単純に「溶剤塗料」と呼ばれ、強溶剤で塗料を溶かして壁に塗っていく塗装工事が昔は主流でしたが、現在は、外壁塗装における環境や人体への被害を減らすために、国で「VOC削減」という理念を掲げています(VOCとは揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)のことで、要はシンナーを意味します)。
人にも環境にも有害な強溶剤塗料はできれば使わない方が良い、ということで、大手メーカーは溶剤塗料を進化させて、弱いシンナーでも溶けるような塗料「弱溶剤塗料」を作ったのです。
弱溶剤塗料は、シンナーの中でも比較的が刺激少ない「塗料用シンナー」で薄めて使う溶剤系塗料で、臭いだけでなく人体や環境への害も、強溶剤塗料に比べて少なくなっています。
強溶剤 | 弱溶剤 |
アクリルシンナー
ラッカーシンナー ウレタンシンナー エポキシシンナー |
塗料用シンナー (塗料用シンナーAなど) |
非常に溶解力が強いシンナーで薄めて使用する。 | 塗料専用に作られた、人体への影響が少ないシンナーで薄めて使用する。
塗料用シンナーはガソリンや灯油に近く、「ペイント薄め液」とも呼ばれる。 |
■水性塗料について
VOC削減の理念を受け、さらに環境に良い塗料の開発が進んだことにより登場したのが「水性塗料」で、この塗料はシンナーを一切使用せず、水を使って薄めるため、溶剤系塗料に比べると大幅なVOC削減効果があります。
この「シンナーを使わない」という特徴から、水性塗料は時に「臭いがしない」や「安全」と紹介されることもありますが、実際は水性塗料でも無臭で無害というわけではありません。
塗料を安定させるためのVOCが若干入っているので、臭いが全くしないわけではないので、きちんと換気がされているところで使用する必要がありますし、水性塗料が入った容器にも気を遣う必要があります。
メーカーの取扱説明書にも「換気のよい場所で取り扱い、容器はその都度密栓してください」と書いてあります(関西ペイントの場合)。
水性塗料よりさらにVOCを減らした塗料「無溶剤型塗料」や「VOCフリー塗料」も開発・研究されているので、将来はもっと無害な塗料も広まっていくでしょう。
■油性塗料と水性塗料のメリット・デメリット
油性塗料 | 水性塗料 |
<メリット>
長持ちする傾向がある 艶を維持しやすい 低温でも乾燥させやすい |
<メリット>
臭いが少ない 現場での保管が楽。 価格が少し安め |
<デメリット>
臭いが強い 価格が高い少し高め |
<デメリット>
油性より少し寿命が短い 塗装出来ない下地が多い 艶が落ちやすい 低温で塗る事が出来ない 雨が多いと塗りづらい |
油性塗料は水性塗料よりも艶が出やすいというメリットがありますが、油性塗料は完全なつや消しはできないため、和風のマットな外観にしたいときは向かないなど、上記のメリット、デメリットはあくまで状況によるとお考えください。
■大手メーカーの油性塗料と水性塗料を比較
大手メーカーであるエスケー化研、関西ペイント、日本ペイントのホームページにはそれぞれの塗料の特徴が詳細に記載おり、その中で同等の耐用年数である油性塗料と、水性塗料を見比べて表を作成しました(油性塗料と水性塗料で特に違う点は太字で強調)。
1.SK化研「クリーンマイルドシリコン」と「水性セラミシリコン」
クリーンマイルドシリコン | 水性セラミシリコン |
油性(弱溶剤) | 水性 |
アクリルシリコン樹脂 | セラミックシリコン樹脂 |
設計価格:2,200円/m2 | 設計価格:1,900円/m2 |
期待耐用年数:12~15年 | 期待耐用年数:12~15年 |
用途:
一般内外壁、乾式パネルなどの建築構造物 |
用途:
内外装 |
塗装できる素材:
コンクリート、セメントモルタル、ALCパネル、スレート板、GRC板、押出成形セメント板、各種サイディングボード、各種旧塗膜(活膜)など 鉄部、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、ステンレスなどの金属 |
塗装できる素材:
コンクリート、セメントモルタル、ALCパネル、スレート板、各種サイディングボード、各種旧塗膜(活膜)など |
液タイプ:2液型 | 液タイプ:1液型 |
42~68m2/15kgセット | 45~64m2/16kg缶 |
艶有り、7分艶、5分艶、3分艶 | 艶有り、半艶、3分艶、艶消し |
希釈液:
塗料用シンナー |
希釈液:
清水 |
色の種類:
様々 |
色の種類:
様々 |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
期待耐用年数(塗り替えの時期の目安)は、油性塗料と水性塗料で同じで、油性塗料であるグリーンマイルドシリコンの方が、様々な下地に対して塗る事ができ、特にアルミニウム、ステンレスなどの鉄部に塗ることができますので、雨戸や雨樋、屋根の板金、フェンスなどの塗装には適しています。
2.SK化研「セラタイトF」と「水性セラタイトF」
セラタイトF | 水性セラタイトF |
油性(溶剤) | 水性 |
ふっ素樹脂 | 水性ふっ素樹脂 |
設計価格:3,100円/m2 | 設計価格:2,600円/m2 |
期待耐用年数:15~20年 | 期待耐用年数:15~20年 |
用途:
一般内外壁、複層塗材の上塗り、橋脚、通路側壁、構造物、屋根、カーテンウォール、車両、外装板 |
用途:
内装、外装 |
塗装できる素材:
コンクリート、セメントモルタル、スレート板、鉄鋼、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウムなど |
塗装できる素材:
コンクリート、セメントモルタル、ALCパネル、PC部材、スレート板、GRC板、押出成形セメント板、各種旧塗膜など |
液タイプ:2液型 | 液タイプ:2液型 |
セラタイトF中塗材:82~126m2/16.5kgセット セラタイトF:100~115m2/15kgセット |
水性セラタイトF中塗材:94~133m2/16kg缶 水性セラタイトF:87~121m2/15.75kgセット |
艶有り、5分艶、3分艶 | 艶有り、半艶、3分艶 |
希釈液:セラタイトシンナー | 希釈液:清水 |
色の種類:
様々 |
色の種類:
様々 |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
セラタイトシリーズに関しては、
- 塗装できる下地が多い
- 設計価格(業者の人件費などを含めた塗料の価格)が安い
- 耐用年数に違いがない
という点などから、水性タイプの「水性セラタイトF」の方が使いやすい塗料といえます。
3.関西ペイント「セラMシリコンIII」と「アクアシリコンACII」
セラMシリコンIII | アクアシリコンACII |
油性(溶剤) | 水性 |
シリコン樹脂 | シリコン樹脂 |
塗装できる素材:
コンクリート、モルタル、鉄 |
塗装できる素材:
コンクリート、モルタル、スレート板 |
液タイプ:2液型 | 液タイプ:1液型 |
つや有り、7分つや、5分つや、3分つや | つや有り、7分つや、5分つや、3分つや |
希釈液:塗料用シンナー | 希釈液:水 |
色の種類:
様々 |
色の種類:
様々 |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
注意点:
8時間以内に使い切る |
注意点:
塗装後 2時間以内(23℃)に降雨が予測される場合は塗装を避ける |
油性タイプの「セラMシリコンIII」は主材と硬化剤が分かれている2液型ですので、使用時に混ぜた後は8時間以内に使い切らなければなりませんが、水性塗料はその必要がなく、保管状態が良ければ8時間後も使用が可能です。
また、気候などの条件によってもどちらを選ぶべきかが変わり、水性の方は2時間以内に雨が降ると予想される場合は塗装をしないよう指示されていますが、油性には指示がありません。
4.関西ペイント「セラMレタン」と「アレスアクアレタン、コスモレタン」
セラMレタン | |
油性水性 | 油性(弱溶剤) |
樹脂 | ウレタン樹脂 |
適用下地 | コンクリート、モルタル、無機建材、鉄、アルミニウム、亜鉛めっき鋼材 |
1液2液 | 2液型 |
ツヤ | つや有り、7分つや、5分つや、3分つや |
希釈 | 塗料用シンナー |
色 | 様々 |
塗装方法 | 刷毛、ローラー、スプレー、エアスプレー |
注意点 | 8時間以内に使い切る |
アレスアクアレタン | |
油性水性 | 水性 |
樹脂 | ウレタン樹脂 |
適用下地 | コンクリート、モルタル、スレート板、鉄、亜鉛めっき |
1液2液 | 1液型 |
ツヤ | つや有り |
希釈 | 水 |
色 | 様々 |
塗装方法 | 刷毛、ローラー、エアレススプレー |
注意点 | 塗装後 2時間以内(23℃)に降雨が予測される場合は塗装を避ける |
コスモレタン | |
油性水性 | 水性 |
樹脂 | ウレタン樹脂 |
適用下地 | コンクリート、モルタル、スレート板、硬質塩ビ、FFRP |
1液2液 | 1液型 |
ツヤ | つや有り |
希釈 | 水 |
色 | 様々 |
塗装方法 | 刷毛、ローラー、エアレススプレー |
注意点 | 塗装後 2時間以内(23℃)に降雨が予測される場合は塗装を避ける |
関西ペイントの3種類の塗料に関しては、性能に特に大きな差がありませんが、油性と水性の違いがある以上、それぞれの塗料の特徴にも使用条件や臭いといった厳密な違いはありますので、現在の家の状況や塗装時の気候などからどの塗料を使うかは判断すべきです。
例えば、雨が降りがちで日照時間が短い地域での塗装の場合、水性塗料は降雨が予想されるときは塗る事が出来ませんので、雨に強い油性塗料「セラMレタン」を雨の合間に塗る方法が良いでしょう(もちろん雨が降っているときは油性でも塗装出来ません)。
また別の例として、塗料の臭いを出来るだけさせない方が良い「ご近所と非常に近い家」で亜鉛メッキのガルバリウム鋼板だった場合、臭いがしない水性塗料で、亜鉛メッキ下地に塗られる「アレスアクアレタン」を選びます。
5.日本ペイント「1液ファインシリコンセラUV」と「水性シリコンセラUV」
1液ファインシリコンセラUV | 水性シリコンセラUV |
油性(弱溶剤) | 水性 |
シリコン樹脂 | シリコン樹脂 |
2,670円/m2 | – |
|
|
液タイプ:2液型 | 液タイプ:1液型 |
107㎡/15kgセット | 100㎡/1缶 |
つや有り、3分、5分、7分つや有り | つや有り、3分、5分、7分つや有り、つや消し |
希釈液:塗料用シンナー | 希釈液:清水 |
色の種類:
様々 |
色の種類:
様々 |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
塗装方法:
吹付、刷毛、ローラー |
「1液ファインシリコンセラUV」と「水性シリコンセラUV」に関しても、性質が似ており、油性と水性どちらの塗料が優れているか断言することはできませんので、塗装後の仕上がりや塗装する範囲といった工事の内容から適したものを判断することになります。
例えば、艶がない方が良いという方は艶なしを選択できる「水性シリコンセラUV」を選択し、硬質塩ビの雨樋の家で、外壁と同じグレードの塗料を使いたいという場合は、「1液ファインシリコンセラUV」を選択します。
■結局、油性と水性はどちらがよいか
上記を見ていただけるとほとんどおわかりいただけたかと思いますが、油性と水性の塗料の違いというのは今はほとんどなくなってきており、メーカーも「水性塗料が求められてきている」ということで、水性塗料の開発により力を入れています。
なぜなら、シンナーなどの有機溶剤を使わない水性塗料は人体にも環境にも害が少なく、住宅塗装の際にご近所に刺激臭が拡がらないため、塗装業者側も施主側も利用を希望する人が増えているからです。
ただ、水性塗料だけでは対応出来ない下地も今はまだありますのでまだ開発の余地はありますが、今後、さらに水性塗料が油性塗料の性能に追いついてくれば、様々な下地に適応するようになり、臭いもどんどん目立たなくなるでしょう。
1.油性と水性の違いで工事が失敗するわけではない
外壁塗装工事は、油性塗料と水性塗料のどちらを選んだからといって失敗するわけではありませんし、油性と水性のどちらが適切であるかは、現在の外壁や屋根の劣化状況や外壁の鉄部の有無などから総合的に判断しなくてはなりませんので、実際に家の調査を行った外壁塗装業者の判断に委ねることが最も賢明です。
2.機能性で考えるなら油性塗料
価格や性能が似てきたのであれば、シンナーの臭いがするような油性塗料は極力避けた方が良いのではないか、と考えてしまうかもしれませんし、事実そうなのですが、それでも今は耐久性、防汚性などを考えるのであれば、油性塗料の方が上です。
以下のグラフは、エスケー化研が行った「促進耐候性試験(塗料の劣化具合を比較する実験)」のデータです。
エスケー化研から引用
http://www.sk-kaken.co.jp/products/data/pdf/ceratight_w.pdf
http://www.sk-kaken.co.jp/products/data/pdf/ceratight.pdf
これはそれぞれの塗料においてライトを照射し続けたときにどれくらい光沢を保持していられるか、と言う事を表す図となります(キセノンランプテストと言います)。
左の図の紫色の線がセラタイトF(油性塗料)、右の図の青色の線が水性セラタイトF(水性塗料)の光沢保持率です。
照射時間2500時間(104日ほど)を当て続けた段階では、両者の光沢保持率にそこまで差はありませんが、倍の5000時間(208日ほど)ライトを当てた段階の光沢保持率は、左の図でセラタイトFが90%強を保持しているのに対し、右の図の水性セラタイトFは90%未満まで落ちているのがわかります。
先ほど油性と水性の違いを比較する際に例に挙げた、エスケー化研の「セラタイトF」と「水性セラタイトF」という塗料は、期待耐用年数が同じ15~20年とされており、両方ともグレードは同じフッ素なのですが、上記の実験結果によれば、約2年ほどで両者の間には耐久性に少し差が出てくるということになります。
期待耐用年数が示す「塗り替えの時期」に関しては同じ15~20年だとしても、艶の有無や艶からもたらされる汚れにくさ、紫外線のダメージに耐える耐候性などに関しては、もともとはっきりとした艶が出やすい油性塗料の方が優れているといえます(艶に関してはこちらの記事をご覧ください)ので、汚れにくい家を長時間維持したいということであれば、油性塗料を選びましょう。
3.環境、人体、周りへの影響を考えるなら水性塗料
作業中にシンナーの刺激臭を伴う油性塗料は、近所の方に塗装が終わるまで強い臭いに耐えてもらわなければならず、施主側としても洗濯物や室内に臭いが付着して、塗装後しばらくは臭いを我慢しなくてはなりませんし、空気中に含まれるシンナーを妊婦さんや赤ちゃんが吸い込むと退治や乳児の成長に悪影響を及ぼす恐れがあります(シンナーに関する記事はこちら)。
家の中に赤ちゃんや妊婦さんなどが居て、一時的に引っ越すなどで臭いが来ない場所に行けない場合は、水性塗料を使わざるを得ません。
■おわりに
塗料には油性と水性というタイプの違いがあり、シリコンやウレタンなど同じ樹脂の塗料でも、油性か水性かというだけで仕上がりの艶や施工中の臭いなどに若干の差が出てきますので、油性と水性の違いに悩んだときは、塗料の専門家である塗装業者に、家の状況に最も即したタイプを選んでもらいましょう。
家の劣化を施主の目線で考えてくれる親身な外壁塗装業者としっかり打ち合わせを行い、その結果導き出された塗料がご自宅に最も適した塗料といえるでしょう。