塗装の見積もりに記載されている「プライマー」という単語が何なのか、気になった方も多いのではないでしょうか。
プライマーは、見積もりの中では「プライマー処理」や「プライマー塗付」のように記載されていますが、プライマーではなく「シーラー」や「フィラー」など別の単語になっていることもあります。
一体どのような理由で使い分けられているのか、外壁塗装の基本的な工程と併せて、プライマーの意味と役割について知っておきましょう。
■プライマーは下塗り用塗料
プライマーとは、下塗り用塗料の一種です。
下塗り塗料とは、仕上げ用塗料を外壁表面にしっかり密着させるためのもので、外壁塗装の安定性を高めるためには、欠かせない存在と言っても過言ではありません。
1.塗装の基本は3回塗り
塗料は、下塗り・中塗り・上塗りの3工程を経ることで、丈夫な塗膜になります。
言い換えれば、このうち1つでも工程が欠けると、脆弱塗膜になり施工不良を引き起こす可能性があります。
なお、2回塗りでも十分効果を発揮する、無色のクリヤー塗料などもありますが、ほとんどの塗料は、塗装時に3回塗りを行うことが基本です。
クリヤー塗料に関して詳しくは、「クリヤー塗料を使った外壁塗装のメリット、デメリット」もご覧ください。
ちなみに、下塗りでは専用の下地塗料を使いますが、中塗りと上塗りでは同じ塗料を使って仕上げます。
三度塗りに関して詳しくは、「外壁塗装は三度塗りが基本!手抜き工事を防ぐためには?」をご覧ください。
2.下塗り塗料の役割
下塗り塗料には、大きく分けて、接着剤としての役割と、表面を滑らかに整える役割があります。
●上塗り材と外壁の密着性を高める
下塗り塗料は、中塗り・上塗り用塗料を外壁にしっかり密着させるための重要な存在です。
下塗り材を使わずに、仕上げ塗料をいきなり塗っても、外壁表面に塗装が付着せず、接着性が損なわれてすぐに剥がれたり、耐久性が低い塗膜になったりしてしまいます。
この3回塗りの省略は、悪徳業者の手口として特に知られていますので、外壁塗装の見積書を見るときは、「下塗り」の工程がどこにあるか、必ず目を通しておきましょう。
●表面を滑らかに整える
塗装前の外壁・屋根の表面は、傷やへこみ、サビやカビなどの異物によって、わずかな凹凸が生じている状態です。
どんなに外壁・屋根材と仕上げ用塗料の相性がよくても、凹凸や異物が表面に残っていると、その部分だけ塗料が密着できなくなってしまいます。
そのためにも、下塗り塗料で凹凸を埋めて平らに整え、その上から塗る中塗り・上塗りの作業性をアップさせる工程は、外壁塗装では非常に重要です。
もちろん、下塗りだけでなく、下塗りを行う前に、高圧洗浄作業や、工具や機械を使った下地調整作業で、外壁素地の異物や大きなひび割れ(クラック)を除去しておくことも大前提です。
外壁塗装の工程に関して詳しくは、「外壁塗装の工程」をご覧ください。
■プライマーの特徴と下塗り材の種類
下地材にはプライマーの他にも、シーラーやフィラーなど様々な種類があります。
ご自身の外壁塗装の見積もりを見たとき、何が下塗り材に使われているか見分けることができれば、業者との打ち合わせもスムーズに進められるようになりますので、ぜひ下塗り材の種類と特徴を押さえておきましょう。
1.プライマーの種類と特徴
プライマーには、浸透力や防錆などの効果が加えられた機能性タイプがあります。
外壁塗装では、コンクリートやモルタルに使う浸透性タイプや、鉄部に使う防錆タイプが主に活躍していますが、工場や生産ラインなど、導電性タイプのプライマーを必要とする箇所もあります。
●浸透性プライマー
浸透性プライマーは、主にコンクリートやモルタルなどの無機質系素材の表面強化のために使われる下塗り剤です。
プライマーが外壁の内部まで浸透することによって、上から塗る上塗り材が外壁に吸い込まれなくなり、さらにプライマーが内部から外壁を強化する効果があります。
経年劣化で強度が落ちたコンクリートやモルタルなどでは、耐久性を修復する目的で、浸透性プライマーが使われます。
●防錆プライマー
サビが発生しやすい鉄部の塗装では、防錆タイプのプライマーを下塗りします。
一般的なプライマーを使う場合、塗装前に下地処理としてケレン作業でサビを落としておかなければ、サビの進行を食い止めることはできません。
また、サビを除去するために大掛かりなケレン作業が必要になると、外壁材表面を大きく削らなくてはならず、外壁材の耐久性を落としてしまう恐れがあります。
防錆タイプのプライマーは、サビ止め塗料としてだけでなく、既に発生しているサビを黒錆に変えて保護層を作る効果があるため、ケレン作業で外壁を傷める必要がなく、ケレン作業の費用を抑える効果ももたらします。
●導電性プライマー
電気が伝わりやすい性質のことを「導電性」と呼びます。
一方、電気が伝わりにくい性質は「絶縁性」になります。
薬品や精密機械を扱う工場などでは、静電気が火災や機械の故障を引き起こす恐れがあります。
あるいは、静電気に吸い寄せられてほこりが溜まりやすくなるため、安全対策のためにも、電気を溜めにくい環境を作らなくてはなりません。
精密機器やフロア材に、導電性プライマーを下塗りしておくことで、導電性が高くなり、静電気が溜まりにくい環境を作ることができます。
2.プライマーと他の下塗り材との違い
下塗り材のことをまとめて「プライマー」と呼ぶこともありますが、下塗り材には厳密には複数の種類が存在します。
もし、見積もりに「プライマー」という単語が見当たらなくても、下記の「シーラー」や「フィラー」などが下塗り材に使われていることもありますので、「下塗りが行われていない手抜き工事だ!」と早合点しないようご注意ください。
●シーラー
シーラーの役割は、プライマーとほぼ同じです。
プライマーが単に外壁と仕上げ用塗料のつなぎ約であるのに対し、シーラーは、シール( seal)という単語の通り、下地への塗料の吸い込みを防ぐものとして区別されることがあります。
塗料の吸い込みが激しい外壁では、シーラーそのものが吸い込まれて下地材としての効果を発揮できなくなってしまいますので、浸透性が高い「合成樹脂エマルション型浸透性シーラー」などを選び分ける知識力が、外壁塗装の職人には求められます。
●フィラー
フィラーは、モルタル外壁の下塗りに使われることの多い下塗り材です。
モルタル外壁は、建物の揺れなどで細いひび割れが起きやすいため、下塗りの際に、クラックを埋める効果を持つフィラーをローラーで塗布しておき、表面を滑らかに整えておきます。
その他、「微弾性フィラー」と呼ばれる種類もあり、こちらは弾性塗料の下地材としても選ばれることの多い下塗り塗料です。
プライマーと同様のつなぎ効果に加えて、ひび割れを抑止する弾性効果を持っています。
ただし、外壁材の奥まで到達しているような深いひび割れは、フィラーや微弾性フィラーだけでは防ぐことができませんので、いったん工具で削って整える工事が発生します。
●バインダー
バインダーは、吸い込みが少ない外壁材の下塗りに使われる下塗り材です。
バインド(bind)には、「結び付ける」「関連づける」という意味があり、外壁と仕上げ用塗料を結びつける存在と考えるとよいでしょう。
●サーフェイサー
サーフェイサーは、下塗りではなく、中塗り用の塗料です。
凹凸やひび割れが多いような古い外壁材では、プライマーの下塗りだけでは表面を整えられません。
このようなときには、サーフェイサーの中塗りを加えて、表面の凹凸を緩和します。
プライマーとサーフェイサーを組み合わせて行う下塗りのことを「プラサフ」と呼ぶ業者もいます。
■おわりに
外壁塗装の仕上がりは、下塗りをどれだけ丁寧に行えるかにかかっています。
また、ただ単に下塗りを行えばよい訳ではなく、塗装を行う外壁や仕上げ用塗料と、下地用塗料の相性を見極める知識力も必要です。
特に、プライマーは、広範囲の外壁塗装で使われるため、外壁塗装の見積もりでは比較的名前を見かけることが多い下塗り用塗料です。
プライマーが使われる箇所はどこか、あるいは、シーラーやフィラーなど、他の下塗り材とどのように区別して使われているかなどを、見積もりから見分けられるようになれば、安心して外壁塗装が行えるようになります。
業者から言われるままに工程を任せてしまわず、時には、なぜプライマーを選んだかなど、踏み込んで質問してみるとよいでしょう。