ALCパネルは「軽量気泡コンクリートパネル」とも呼ばれる建材で、戸建て住宅だけでなくマンションや工場などの外壁や床に用いられています。
名前のALCは「Autoclaved Lightweight Concrete」を略したもので、直訳するとオートクレーブ処理によって製造された軽量のコンクリートという意味で、つまりは軽量気泡コンクリートを板状に整形したものです。
目次
■ALCパネルの特徴
画像引用:旭化成建材ホームページより
ALCパネルの種類は2つあり、下記のようなサイズで厚形と薄形に分かれます。
薄形パネル | 厚形パネル |
木造・鉄骨造の建築物に使われる | 鉄骨・鉄筋コンクリート造の耐火建築物に使われる |
50~75mm未満
または 35~37mm未満 |
75mm以上 |
L=3000mm以下W=606mm以下
または L=3000mm以下W=606mm以下 |
L=6000mm以下W=2400mm以下 |
メタルラス(スチール製金網)
または メタルラス(スチール製金網) |
金網状の鉄筋組み込み(特殊防錆処理) |
ALCパネルは無機質素材を用いて鉄筋を組んだ型枠に注入、造られた外壁材で、高温の水蒸気と強い圧力を使って製造されるため、高い耐久性と防火性を兼ね備えています。
マンションなどの高層ビルにも使われるALCパネルは、製造において品質が厳しくチェックされており、JIS(日本工業規格)の「JIS A 5416規格」に適した寸法や性能でなければなりません。
日本国内でALCパネルを生産しているメーカーは3社あり、
- 『旭化成建材株式会社』のヘーベル
- 『住友金属鉱山シポレックス株式会社』のシボレックス
- 『クリオン株式会社』のクリオン
がそれぞれ生産されています。
パネル内に金網状の鉄筋が組み込まれているために、パネル自体の強度はサイディングやモルタルよりもありますが、パネル表面は衝撃に弱いので取り扱いには注意が必要です。
断熱性、耐火性、遮音性に優れており、主に耐火建築物の外壁として使われることが多い材料ですが、水分を吸いやすく乾燥しやすいという特徴を持っており、そのため塗装をしっかりと掛け防水性を持たせないと雨水等が外壁内部に侵入しやすくなり、剥落・劣化の促進につながります。
1.ALCパネルは安全性が高い外壁材
画像引用:旭化成建材ホームページより
ALCパネルはコンクリートに比べ、約1/4程度の軽い造りになっています。これは、ALCパネルの造りがパネルの内部に気泡を含ませた物となっているからです。
外装材が軽いと建物にかかる負荷が減り、軽いALCパネルを外壁に使用すると地震の揺れを受けにくくなり、その結果、耐震性を高められるということもあり、ALCパネルは耐火性に優れた建材として国土交通大臣から耐火構造材の認定を受けています。
珪石などの無機質で作られているため、万が一火災が起きても延焼しないため煙が出ず、ホルムアルデヒドなどの有毒物質が発生しないため環境に優しい建材です。
2.ALCパネルは断熱性も高い
下記はALCパネルの熱抵抗値を他の外壁材と比較した表です。
外壁部材 | ALCパネル |
(A)厚さ(mm) | 50 |
(B)熱伝導率(W/mk) | 0.174 |
A/B=熱抵抗値(m2K/W) | 0.287 |
外壁部材 | モルタル |
(A)厚さ(mm) | 16 |
(B)熱伝導率(W/mk) | 1.500 |
A/B=熱抵抗値(m2K/W) | 0.011 |
外壁部材 | サイディング |
(A)厚さ(mm) | 15 |
(B)熱伝導率(W/mk) | 0.200 |
A/B=熱抵抗値(m2K/W) | 0.075 |
熱伝導率が小さいほど熱が伝わりにくく、熱抵抗値が大きいほど熱を遮断できるため、断熱性が高いということになるため、上記の表を見ても、ALCパネルはモルタルやサイディングといった他の外壁材に比べてると、同じ厚さでも非常に優れた断熱性を持っていることがわかります。
数値で見ると、コンクリートやモルタルの約26倍、サイディングの約4倍の熱抵抗率を持っているため、外気温の影響を受けにくくなります。
壁が外気温の影響を受けにくくなれば、夏は冷房が効きやすく、冬は暖房ですぐに温まる部屋になり、冷暖房費を節約することができますし、断熱効果によって建物内の温度差がなくなると、内外の温度差で空気中の水蒸気が冷えて生じる「結露」の抑止にも繫がります。
■ALC外壁の塗装時期を判断する方法
以下のような劣化症状がALC外壁に起きていた場合は、塗替えを検討した方が良いでしょう。
チョーキング | 塗膜が紫外線のダメージで劣化して、成分に含まれる顔料が表面に粉となって出てきた状態 |
変色・退色 | 紫外線によって色あせが起きた状態。チョーキングと同時に起きる。 |
クラック | コンクリート表面にひび割れが起きた状態 |
カビやコケ | コンクリートが劣化して水分を溜め込むようになり、カビやコケが繁殖しやすくなった状態 |
シーリングの劣化 | 目地に入っているシーリングという樹脂が紫外線により劣化している状態 |
爆裂 | コンクリート内部に雨水などが浸水し、内部の鉄筋が錆びて内側からコンクリートを押した結果、コンクリートが欠けてしまった状態 |
新築時のALC外壁は、アクリル塗料などの安価で耐久性が低い塗料で塗装が済ませられていることが多く、ALCコンクリート表面にある気泡の穴が塗料で埋められていないケースもありますので、塗膜が耐久性を失ってしまう前に新築から6~7年目には塗替えを行った方が良いでしょう。
1.ALC外壁に適した塗装材料
ALC外壁の塗装を行う時は、ALC外壁の特徴や構造を補う塗料を選んで、シーリングなどの周辺部材もしっかり補修しておくことが、外壁の耐久性を長持ちさせるためにも大切です。
●ALCパネルの塗装に使われる「下塗材」
外壁塗装は最初に下塗材を1回塗り、下塗り材が乾いたら上塗り材を2回重ね塗りして完成します。
ALCパネルは多孔質な構造上、内部にたくさんの穴がありますが、現状の塗膜に重大な割れや剥がれがなければ、一般的に使用されるフィラー(セメント系)を使用して問題ありません。
その他の下塗り材としては、ウレタン系のシーラーを使用しても問題なく、既存塗膜やコンクリート壁面に小さなひび割れが数か所入っているような場合は、微弾性フィラーという厚みのある下塗材が使われます。
ひび割れの程度によって微弾性フィラーを厚塗りすると、クラック遮蔽性と防水効果を高める効果があります。
なお、既存塗膜が「弾性吹付けタイル仕上げ」など高弾性系の塗料で仕上げられている場合は、上から塗料を塗ると塗膜が熱で柔らかくなり膨張する「膨れ」や「熱膨れ」という現象が起きてしまい、新しく塗装した部分まで既存塗膜と一緒に剥がれる恐れがあるため、下塗り前に既存塗膜を全て撤去しなくてはなりません。
●ALCパネルの塗装に使われる「上塗材」
下塗剤が乾燥した後は、上塗材となる塗料を塗布してALCコンクリートの塗装を仕上げます。
上塗材に使われる塗料には、アクリル塗料、ウレタン塗料、シリコン塗料、ラジカル塗料、フッ素塗料などがあり、戸建て住宅の外壁塗装で最も使用されているのはシリコン塗料で、中でも臭いが少ない水性タイプの水性シリコン塗料は人気が高く、ALC外壁の塗装でも使用されています。
2.ALCパネルはシーリング材の補修も大切
画像引用:旭化成建材ホームページより
シーリング材とは、外壁材の目地から水が浸入するのを防ぐために注入される樹脂性の防水材のことで、ALC外壁のほかサイディング壁の目地にも使われ、モルタル壁でもサッシ廻りなどに詰められています。
このシーリング材は、約10年の耐久性を持っていますが、年数が経つと固くなり防水機能もなくなりますので、外壁を塗り替える際にはシーリング材も一緒に処理をする必要があり、シーリングがALCパネルの断面から剥がれている場合は既存シーリング材撤去を行い「打ち直し」を行います。
打ち直しとは既存のシーリング材をすべて撤去し、新しく詰め直す作業のことですが、劣化していない箇所を残して削り取り、体積が減った分だけ注入する「増し打ち」という補修方法もあります。
築10年程度の家であれば上からシーリングを充填する増し打ちでも問題はありませんが、既存シーリングの劣化が進んでいた場合は増し打ちしたシーリングもろとも剥がれ落ちてしまう恐れがありますので、シーリングの劣化を根本から補修するのであれば、打ち直しを選んだ方が良いでしょう。
また、シーリング材に可塑剤(かそざい)が含まれていると、施工後のシーリング表面に粘り気が出て汚れが付きやすくなり、数年でシーリング周辺が「ブリード現象」という黒ずみを起こす現象が起こるため、見積もりに記載されているシーリング材に「可塑剤」が配合されていないことも確認しておきましょう。
■おわりに
ALCパネルには断熱性や耐火性など高い機能がありますが、塗装の色あせや表面のひび割れなどを常に補修しておかなければ、徐々に耐久性を失ってしまいます。
ALCパネルの特徴を生かし、現在の外壁の状況に合わせた塗装を行うことで、外壁の耐久性を伸ばし、快適な生活をおくって下さい。