深刻な健康被害の原因になることが広く知られているアスベストは、現在では法律で使用が禁止されているためどんな製品にも使用されることはありませんが、禁止される以前に建てられた建物には今もアスベストを含有する建材が使用されたまま残っている可能性があります。
アスベストが使用されている建物は、通常通りの外壁塗装リフォームやその他の増改築・解体工事を行うことができません。
この記事では
- アスベストが危険とされる理由
- アスベストが含まれている可能性のある建材の種類
- アスベストが使用されている建物の外壁塗装工事を行うときの注意点
などについて解説します。
目次
■建築資材としてのアスベストの歴史と危険性
アスベストは蛇紋石(じゃもんせき)や角閃石(かくせんせき)などから取られる繊維状の鉱物で「石綿(せきめん・いしわた)」という名称でも知られています。
アスベストには
- 非常に高い耐火・断熱性能がある
- 酸やアルカリに対して耐性が高い
- 電気を通さない
- 安価で入手しやすい
- 加工が簡単にできる
といういくつもの有用な特性があり、1955年ごろから鉄筋コンクリート造のビルや鉄骨造の工場建築の建材として様々な形で活用されてきました。
1.アスベストの危険性
アスベストという名称は「消化できない」という意味のギリシャ語から取られており、人体に取り込まれると消化されることなく残存し続け健康に悪影響が及ぶことが判明しています。
アスベストの繊維は髪の毛の5000分の1の細さで、細かく粉砕された状態では空中を浮遊するため、呼吸によって簡単に人体に侵入し、様々な病気を引き起こす原因となります。
人がアスベスト含有建材で作られた家に住み、長い期間アスベストを吸い込みつづけてしまうと、呼吸によって体内に入り込んだアスベストの繊維が肺に刺さり、長い潜伏期間を経て
- 肺がん
- 中皮腫(がんの一種。肺を覆う胸膜にできる悪性腫瘍)
- 石綿肺(間質性肺炎の一種。肺に刺さったアスベストが肺の線維化を促し、肺組織が硬化することにより呼吸が困難になる)
などの深刻な健康被害を受ける可能性があります。
アスベストによる健康被害は、アスベストが飛散する工場や建築現場での作業に従事していた人々に特に顕著に現れており、1970年ごろから大きな社会問題として国際的に注目されるようになりました。
2.アスベストを含む建物は今も残っている
アスベストの危険性は1970年代から指摘されていたものの、非常に有用な建築資材として多くの場所で使われていたため規制が遅れ、アスベストの対策は下記のように段階的に行われました。
- 1975年:アスベスト含有率5%以上の吹付け作業禁止
- 1995年:毒性の強い青石綿・茶石綿の製造・輸入・使用の全面禁止
- 2006年:アスベスト含有率1%を超える製品の製造・輸入・使用の禁止
- 2012年:アスベストの製造・輸入・使用の全面禁止
2006年以降に建てられた建物であればアスベストが使用されている可能性はほとんどないと考えて良いものの、2006年以前に建てられた建物ではアスベストが含まれた建材が使用されている可能性があります。
そのため、一見アスベストが使われていなそうな木造住宅であっても築年数次第では、外壁塗装を含めたリフォーム・解体工事を行う前に建材にアスベストが使用されているかどうかを確認しなければなりません。
●アスベスト含有建材は除去が難しい
先述の通りアスベスト含有建材は段階的に使用が制限または禁止されてきたため、早い段階で使用されなくなった建材もあれば、2006年頃という比較的最近まで使用されてきた建材まで実に様々な種類があり、建材によって除去方法が異なります。
また、アスベスト含有建材が使用されている建物の解体・改築にはその作業方法や作業環境について細かく規定されており、飛散したアスベストによって建物の居住者・作業者・近隣住民に被害が及ばないようにその規定をしっかり守らなければなりません。
様々な種類があるためまずはどのような建材が使われているかを調べ、その建材をアスベストが飛散しないように規定を守りながら除去するため難易度が高い工事が必要なのです。
●アスベストが残っている建物のリフォームには資格が必要
アスベストが使用されている建材の解体・撤去を含む作業は「石綿作業主任者」という有資格者による監督が必要であり、石綿作業主任者は
- 作業前の事前調査
- 事前調査結果に基づく作業計画書の作成
- 作業現場で使用する換気・排気・除じん装置の点検
- 作業者が保護具を適正に使用しているかの監視
などを行いながらリフォーム工事を進めます。
3.アスベスト使用建材の例と使用箇所
アスベストを使用している建材は飛散の危険度(「発じん性」といわれる)に応じて
- レベル1︰発じん性が著しく高い(現場調合される吹付け材等)
- レベル2:発じん性が高い(シート状の耐火被覆・断熱材等)
- レベル3:発じん性が比較的低い(工場で製造された建材等)
という三段階に分類されます。
参考:国土交通省アスベストの飛散性・非飛散性とレベル1~3の整理
●アスベストを含む断熱材
アスベストを含む断熱材には
- アスベスト含有吹付けロックウール(鉄骨造・鉄筋コンクリート造の建造物のエレベーターシャフト内部や柱・梁等の耐火被覆)
- アスベスト含有折板屋根断熱材(倉庫・駐車場・工場等の屋根部分)
などがあります。
アスベストを含有する断熱材は主にビル・立体駐車場・体育館などに使用されており、戸建住宅にはほとんど使用されていませんが、築40年を超える店舗兼住宅・アパートなどの場合、屋根裏や柱などの部分にアスベストを含有する吹付け材が施されている可能性があります。
アスベスト含有率が5%を超える吹付け材は1975年以降、5%未満のものは1988年頃にはほとんど使用されなくなり、1995年に法規制によりアスベスト含有吹付け材は原則禁止となっています。
●アスベストを含む屋根材
アスベストを含む屋根材には
- アスベスト含有住宅屋根用化粧スレート:2004年製造中止
- アスベスト含有ルーフィング:1987年製造終了
などがあります。
●外装にも内装にも使用されるアスベスト含有建材
アスベストを含む建材には
- アスベスト含有ケイ酸カルシウム板(通称「ケイカル板」。軒天・天井・間仕切り壁などに使用):2002年製造終了
- アスベスト含有スレートボード(フレキシブル板):2004年製造終了
- アスベスト含有スラグせっこう板(軒天・外装・内装に使用):2004年製造終了
などがあります。
●アスベストを含む外壁材
アスベストを含む外壁材には
- アスベスト含有窯業系サイディング:2004年製造終了
- アスベスト含有建材複合金属製サイディング:1990年製造終了
- アスベスト含有押出成形セメント板:2004年製造終了
- アスベスト含有スレート波板:2004年製造終了
などがあります。
●アスベストを含む内装材
アスベストを含む内装材には
- アスベスト含有ロックウール吸音天井板:1987年製造終了
- アスベスト含有せっこうボード:1986年製造終了
- アスベスト含有パーライト板:2004年製造終了
などがあります。
■外壁塗装のみであればアスベスト被害の心配は少ない
アスベストによる健康被害は人が空中に飛散しているアスベストを長期間吸い込んでしまうことにより生じるものであるため、屋根・外壁材や軒天材などにアスベストが含まれている場合でも、剥がしたり壊したりせず塗料を塗るだけであればアスベストは飛散せず健康被害が生じる恐れはありません。
アスベストの使用が原則禁止となった2006年以降、どんな住宅用建材にもアスベストは使用されていないのでリフォーム工事でアスベスト含有建材を使われてしまう恐れはありませんが、下記のような場合には健康被害につながらないよう引き続きアスベストの取扱いに十分注意する必要があります。
■アスベスト含有建材の取扱いに注意が必要なケース
アスベストは空中に飛散している状態でなければ人体に悪影響が及ぶことはなく、ほとんどの外壁塗装工事でアスベストの健康被害を恐れる必要はありませんが、外壁塗装を建物の一部解体を含む増改築と同時に行う工事の場合は専門業者と相談しながら慎重に工事を進めなければなりません。
築年数が古く、アスベストを含む建材が使用されている家屋を一部解体したり撤去したりする作業を不用意に行ってしまうと現在でもアスベストによる健康被害が発生する危険性があります。
1.アスベストを含む外装材を解体するとき
外壁塗装だけでは修復しきれないほどひどく劣化している屋根・外壁を修繕するために外壁材の張替えや屋根の葺き替え(ふきかえ)を行うことがあります。
張替えや葺き替えを含む大規模な修繕工事にアスベストを含んだ建材が関係する場合
- 「大気汚染防止法」に従った届け出(※発注者が行う)
- 「石綿障害予防規則(省令)」に従った安全な作業環境の確保
- 「廃棄物処理法」に従った解体後のアスベスト含有建材の適切な処置(リサイクル資源との分別)
などの法律や政令に厳密に従って作業が進められなければならないため、通常のリフォームよりも多大な手数や時間がかかります。
アスベスト含有建材の関係する解体・増改築工事では、作業を行うにあたり
- 作業の届出者(発注者)の氏名
- 作業の実施期間
- 作業の方法
- 現場責任者の氏名及び連絡先
などの情報を掲示板に明記する義務があります。
また工事に従事する作業員や工事現場の近隣住民など、関係するすべての人の健康に十分配慮し、法令や規定を遵守することも必要です。
工事を進めるためには専門的な知識が必要であるため、もし家の建材にアスベストが含まれている可能性がある家のリフォームを行いたい場合は、こちらからお申込いただき、アスベスト建材の可能性があることをお伝え下さい。
2.高圧洗浄でアスベストが飛散してしまう恐れがある
外壁材・屋根材にアスベストが使用されている場合、外壁塗装の前に行われる高圧洗浄による強い水圧でアスベストが飛散してしまう恐れがあるため、慎重に事前調査を行わなければなりません。
高圧洗浄は外壁塗装リフォームにおいて省略することのできない工程なので、高圧洗浄でアスベストが飛散しかねないほど屋根・外壁材が劣化していれば、屋根・外壁材の洗浄も撤去も行わず、既存の屋根・外壁を新しい屋根・外壁材で覆ってしまう「カバー工法」を業者から提案されることがあります。
カバー工法は屋根にも外壁にも施工できるアスベスト飛散リスクの無いリフォーム工事ですが、アスベストは将来的にいつか必ず撤去しなければならないという点も考慮に入れて検討ましょう。
■アスベスト除去の補助金も活用しよう
アスベストが使用されているかどうかの調査やアスベストの撤去工事に対して、多くの地方自治体が補助金制度を設けています。
築年数や使用されている建材の種類からアスベストの使用が疑われる場合には、まず窓口となっている地方自治体の環境課や建築課などの担当部局に相談してみましょう。
補助金制度や問い合わせ先について不明な点があれば、近隣のリフォーム業者や外壁の張替え・屋根の葺き替えも請け負っている外壁塗装業者がアスベスト含有建材の関係する工事について相談に乗ってくれることがあります。
■おわりに
現在アスベストは製造・輸入・使用が法律により全面禁止されているため、外壁塗装用塗料や外装材にアスベストが含まれているかどうかを心配する必要はありませんが、もし既存の屋根・外壁にアスベストを含有する建材が使用されているなら、通常通りの外壁塗装や外壁材の張替えなどは行なえません。
築年数が長く長年リフォーム工事なども行っていない建物にお住まいであれば、まずは自治体や経験の豊富なリフォーム業者などに相談し、適切なアスベスト対策を計画しておきましょう。