外壁塗装における原価とは、工事を行うために、業者が最初に負担する費用のことです。
この原価に、塗装業者の利益が加わることで、施主が業者に支払う費用が決まります。
原価と利益の設定基準は、塗装業者によって異なるため、すべての業者で塗装費用が同額になることはありません。
しかし中には、原価を抑えて手抜き工事を行い、相場以上の利益を上乗せして儲けようとする悪徳業者が紛れていることもあります。
悪質な料金設定で工事代金を請求する業者に騙されないためにも、外壁塗装の原価を知って、優良業者に適正価格で工事を依頼しましょう。
目次
■外壁塗装の費用に含まれる原価
外壁塗装業者に支払う費用には、主に
- 材料の仕入れ価格
- スタッフ(職人)の人件費
- 諸経費
が含まれます。
このうち、原価に該当するのは、「材料の仕入れ価格」ですが、工事に要した「人件費」や「諸経費」も、工事に要した原価の合計と見なされることがあります。
1. 材料の仕入れ価格
塗装を行うためには、塗料や塗装に使う道具など、材料を購入しなければなりません。
塗料メーカーによって商品価格は異なりますが、ウレタン塗料やシリコン塗料など、一般的な塗装工事で使われる塗料の価格は、どこかのメーカーだけ突出して低価格ということはなく、おおむね同額の価格相場となっています。
もちろん、ハイグレードなフッ素塗料や、断熱塗料ガイナなど、高機能の塗料ほど値段は高くなるため、塗装費用も割高になります。
塗料には様々な種類があり、それぞれで機能が違うのです。
「資材費を発生させないために、余った塗料を保管しておけばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、塗料は、一度開封してしまうと、品質が落ち続けるため、長期間保存することができません。
そのため、他の現場で使用したものを別の現場で使いまわすことができないため、現場ごとに新しい塗料を購入する必要があります。
2. スタッフの人件費
塗装職人や営業マンなど、現場で作業を行ったスタッフ1人あたりの作業コストが人件費です。
人件費は「人工(にんく)」と表記されることもあり、例えば、3人のスタッフで10日間作業をした場合は、30人工と表記されます。
人工は、リフォーム業者や工務店などで設定価格は異なりますが、1人あたり約15,000~25,000円が相場です。
なお、複雑な作業が長期間に渡って続く工事や、アスベスト含有建材の解体など、専門の資格がなければ行えない工事などは、1人あたりの人件費も高額になります。
3.材料費・人件費以外の費用
外壁塗装工事では、足場設置と高圧洗浄が必須です。
これらの費用は、材料費や人工とは別に、単独で見積もりに記載されます。
なお、材料費や人件費など、工事に不可欠な費用のことを「直接工事費」と呼び、最終的に形に残らない足場設置や諸経費などの費用は、「間接工事費」と呼ばれます。
●足場代
足場代は材料費・人件費どちらにも含まれないため、複合単価方式・原価公開方式(後述)どちらの見積もりでも、単独で足場のみの価格が記載されています。
足場のタイプや設置サイズによって設置費用は異なりますが、フェンスや他の家屋に囲まれていることが多い一般住宅では、臨機応変に取り付けしやすい単管足場が組まれます。
なお、見積もりによっては「仮設工事」や「架設費用」と記載されていることがあります。
●高圧洗浄費用
外壁や屋根の汚れや古い塗膜を、高圧洗浄機で落とす作業です。
こちらも材料費がかからないため、足場代と同様に、他の作業と分けて見積もりに記載されています。
㎡あたりの施工費用は、約150~300円と比較的安くなっていますが、「一式」とひとまとめにして費用を多めに請求されることもありますので、「外壁100㎡に〇〇円、屋根80㎡に〇〇円」と、具体的な面積で計算されていることを確認するとよいでしょう。
参考:高圧洗浄で知らないと損な作業時間、圧力、単価、水道代の話
4.諸経費
塗装費用のうち、
- 材料費
- 人件費
- 足場費用
- 高圧洗浄費用
に含まれないものは諸経費としてひとまとめで呼ばれます。
これらの費用は項目が細かく分かれており、具体的に数値にすることが難しいため、材料費・人件費の総額に対し、5~20%程度の工事金額で設定されることがあります。
●現場管理費
現場管理費とは、作業員への指示や工程表作成など、現場での作業を安全に進めるために要した費用のことです。
主なものでは、
- 資材の運搬費用
- 現場までの交通費
- 車両保険の費用
などが該当し、業者の拠点と施工現場が離れている場合は、高速道路の利用料金も含まれることがあります。
そのほか、
- 労災保険
- 賠償責任保険
- 契約書に貼る印紙代
なども含まれます。
●一般管理費
一般管理費とは、主に事務作業に要する費用をまとめたものです。
工程表作成や、商品発注のために、事務所で発生した通信費や光熱費、事務用品の購入費、打ち合わせに要した接待費や賠償責任保険の費用などが該当します。
事務所で発生したすべての費用が、1件のリフォーム工事で請求されるわけではなく、年間の施工件数などから按分して求められます。
■外壁塗装の原価と利益
業者に支払う外壁塗装の代金には、原価に対し、業者が得る利益が上乗せされます。
これは決して余分な費用を上乗せしているのではなく、どのリフォーム業者や塗装職人に依頼しても、当然発生する費用です。
1.利益は事業に不可欠な存在
工事が終わるたびに原価だけを回収していても、工事業者は商売を続けることができません。
会社を運営するためには、儲け、つまり利益が不可欠です。
商品の仕入れ費用や職人に払う人件費の他に、利益分の金額を得ることで、会社で働くスタッフの給料や事務所の家賃、新しい事業の準備費用などに充当することができます。
この利益の設定額を、施主の負担になりすぎず、不必要に還元されすぎない価格で設定している業者ほど、施主目線の優良業者と言えるでしょう。
2.外壁塗装の見積もりは利益率がわかりにくい
優良業者かどうかは、利益額で見分けることができます。
しかし、どのくらい利益を得たかを業者が公開することは、まずあり得ません。
さらに、建築工事の見積書は、書式の都合上、利益がわかりにくくなっています。
●建築工事の見積もりは「複合単価方式」
外壁リフォームや屋根リフォームを含む、建築工事の見積もりには、2種類の作成方法があります。
ひとつは、材料費・人件費に利益も合算し、㎡や枚数などの作業面積あたりの単価で按分して表す「複合単価方式」と呼ばれる作成方法です。
外壁・屋根塗装工事のほとんどは、複合単価方式で作成されるため、原価と利益の比率がわかりにくいことがあります。
また、もうひとつの作成方法として、材料費、人件費、諸経費を別々に計算し、利益を別途記載する「予算原価方式」と呼ばれるものがあります。
こちらは利益を除く純粋な工事費用のみが記載されていますが、先ほども述べたように、業者が利益を公開することはありません。
そのため、利益の部分は「一般管理費」や「現場管理費」としてまとめられているため、純粋な利益がどのくらいかは、判断しにくくなっています。
■悪徳業者の料金設定手口を知っておく
ここまで解説した通り、外壁塗装が適正価格で行われたか知るためには、正しい原価に対し、適切な利益が設定されていることを見抜かなくてはなりません。
原価を安く抑え、割高な利益を上乗せして儲けようとする悪徳業者に騙されないためには、「塗料の材料費」と「スタッフの人件費」という2つの原価を安く抑える手口を知っておくことが大切です。
1.材料費を抑える手口
塗料には、乾燥時間や、施工時の湿度・温度、使用可能な外壁・屋根材など、使用するための様々なルールが存在します。
悪徳業者の多くは、このルールを破って塗料費や、塗料消費量を抑えようとします。
塗料の使用ルールが守られたかどうかは、熟練の職人でなければ見抜くのは難しく、外壁に塗られた状態を見ても、素人の方が手抜きと判断することはほとんど不可能と言っても過言ではありません。
手抜きの状態で施工された塗料は、ほとんど数カ月以内に剥がれや浮き、膨れなどが生じるようになります。
そのため、塗装工事を契約する前に、無料でアフター保証を行ってくれる業者かどうかを調べておき、工事の後は、必ず保証書を発行してもらうようにしましょう。
保証は業者によって、また業者が加盟する団体によって異なります。
参考:外壁塗装の保証は業者や団体で内容が全く異なるので注意!
●塗料を大量に薄める
外壁や屋根に使用する塗料のほとんどは、薄めて使用します。
水性塗料の場合は真水で薄め、溶剤系塗料の場合は、溶剤(シンナー)で薄めます。
また、薄める比率は塗料ごとに定められており、希釈率を間違えると、どんなに耐用年数が長い塗料を熟練の技術で施工しても、品質が低下し、わずか数カ月で施工不良が起きてしまいます。
悪徳業者は、水で薄めてはいけない塗料を水で薄めたり、塗料消費量を節約するために、わざと薄め液や水の量を増やしたりすることがあります。
●塗装回数を省く
塗料は、下塗り用塗料で1回、中塗り・上塗り用塗料で2回、計3回の塗り重ねが必要です。
重ね塗りを1回でも省くと、塗料は本来の耐久性を発揮することができなくなりますが、これも悪徳業者が塗料費用を節約する常套手段です。
塗装回数が省かれたかどうかは、完成後の状態では見分けがつきません。
手抜きを見破るためには、塗装にかかった作業時間を必ず把握しておく必要があります。
塗装は通常、1回の工程ごとに、約半日~1日の乾燥時間を挟みます。
この乾燥も、塗料の耐久性を高めるために欠かせない作業です。
つまり、塗装の工事期間は、最低でも3日は必要ということになりますので、1日や2日で塗装作業が終了してしまった場合は、必ず工事業者に作業内容の説明を求めましょう。
3. 人件費を抑える手口
塗料の材料費よりも、外壁塗装費用に対するウェイトが高いものが、人件費です。
塗装作業や足場設置などの作業量を省いて、人件費を抑えようとすると、施工不良だけでなく、事故や破損に繋がる可能性があります。
●作業工程を省く
1件の工事日数が短く済むほど、業者側は多くの仕事を請け負うことができることになります。
しかし、塗装には必ず必要な作業工程が存在するため、やみくもに短くすることはできません。
ところが、実施の有無が顕著な塗装作業だけを行い、あたかも塗装がすべて完了したかのように偽装して、塗装に必要な工事内容を省く悪質な施工業者も存在します。
塗装工事は、ハケやローラーで塗る作業だけではありません。
塗装前に外壁や屋根の汚れや凹み、ひび割れなどをしっかり修理し、塗料が密着しやすい下地を作る作業も、塗装工事の大切な作業のひとつです。
外壁や屋根は、高圧洗浄だけでは除去しきれない汚れや古い塗膜、サビなどを、手作業でしっかり除去し、鉄部の錆び止めや、サイディング材のコーキング打ち替えなど、細かい箇所も手間をかけて補修しておくことで、やっと塗装が行える状態になります。
しかし、足場設置・高圧洗浄・塗装などの作業に比べると、下地処理作業は非常に地道な作業です。
そのため、悪徳業者は、下地調整の工程を省き、足場設置や塗装など、いかにも「塗装工事」をイメージさせる作業のみしか行わないことがあります。
下地調整作業は、外壁や屋根の劣化具合にもよりますが、約1~2日は必要ですので、この作業が行われたかどうかもしっかりチェックしなければなりません。
●足場設置を省く
「工事費用を節約できますよ」と言って、足場設置を省こうとする業者には注意しましょう。
足場費用は、塗装作業の次に塗装費用の多くを占めます。
しかし、足場は外壁や屋根などの高所で安全に作業するためには欠かせないツールです。
脚立など不安定な作業環境では、手や足が安定せず、丁寧に作業を行うことができません。
優良業者であれば、安全性を優先して足場の設置を推奨します。
そのため、業者から、無理に足場設置を省くことを勧められた場合は、なぜ足場が不要なのか理由を尋ねておきましょう。
次に、一括見積もりサービスなどで、他の業者にも同じ条件で相見積もりを取って、足場設置が本当に不要かどうかを確かめておきましょう。
■おわりに
外壁塗装にかかる原価は、工事を行うために欠かせないものです。
その原価に業者ごとの利益が上乗せされるのは、どの業者に依頼しても同じです。
しかし、手抜きやルール違反で原価を抑えて、不当な利益を上乗せしたり、わざと原価が上がるように不要な追加工事を行ったりする業者もあるため、必ず複数業者で見積もりを取って、見積金額の価格差を比較しておかなければなりません。
相場の範囲内で利益を設定し、工法を守って、適正価格で工事を行ってくれる業者選びこそが、外壁・屋根塗装を成功させる秘訣と言えるでしょう。